冊子止揚第118号-Ⅱ

前号記事から続く

「鬼の達が、佛の達に」

お医者さんがあきお君の死を私たちに伝えた時、父親が「あきお、私を恨まないでくれよ」と呟いていた言葉が今も私の心に強く残っています。側にいたお医者さんが父親を慰めようと思ったのか「このようなお子さんは早く死なれた方が本当に幸福ですよ」と声をかけました。
その時でした。数人の保母さんが涙を流しながらお医者さんを取り囲み、つきとばしたのです。 私は驚きと共に、その行動をどうしても止める気持ちになれず、黙ってジッと見ていました。


私たちはあきお君の途絶えとだえの息の中で (何としても助けるんや) と必死でした。
生命はどんな小さな生命でも大切です。何度も病院を断られ、その度に (神さま、あきお君を御心があるならば守って下さい) と祈りながら次の病院に車を走らせました。忍耐の時でした。      その保母さんたちの思いがお医者さんの心ない一言で切れたのです。
このことを知った人たちの多くが、「こんな暴力をふるう止揚学園の保母さんたちは恐ろしい」と言って、彼女たちの行動を非難しました。しかし、私は今も (保母さんたちの行動は暴力やあらへん。あきお君を一人の人間として大切にしていた優しい心があのような行動になったんや) と信じています。
あきお君の告別式の時、参列してくれた多くの人たちが「あきお君は優しい人でした」と言ってくれました。しかし、私の心はどうしても晴れませんでした。

式の終わりの挨拶の時に、「今日はこうしてあきお君の告別式に来て下さり、ありがとうございます。しかし、私は今、とても重い気持ちになっています。それは多くの人があきお君を〝優しい、美しい心を持った人や″と言って下さいました。でも、あきお君は止揚学園から外に出かけ帰ってくると、僕アホヤないなあ。〝人間やなあ″とよく言っていました。皆さまはどうしてあきお君が生きていた時に、今日のようなほめ言葉を下さらなかったのですか。 あきお君は人間や、にんげんや〟と叫んで逝きました。 どうか〝僕アホヤない。人間やなあ″と訴えている子どもたちが、私たちの周囲にいることをこの会場を出たら家族の人たちに、知人に伝えてほしいのです。その行動があきお君の冥福を祈ることになるのだと思います。よろしくお願いします」と私は一気に語りました。

会場はシーンとして、静寂が漂いました。  あの時の私は三十代の若さでした。(僕がこの子どもたちを守らへんたら、誰が守ってくれるんや)と心が燃えていました。その心の激しさがこんな挨拶になってしまったのです。八十一歳になった今、(あの時は血気にはやって、人の心を傷つけたんやろうなあ。 そやけど、若い時はあの姿が真の僕やったんや。あきお君の心の叫びをどうしても伝えたかったんや)と自分で納得させています。

この挨拶は長い間たたりました。「福井という男は礼儀知らずや。あきお君を偲んで告別式に出ている私たちを非難して」とあちこちで囁かれ、いろいろな人たちに伝わっていきました。噂はアツという間に広がるものです。恐ろしいものです。 止揚学園や私の歩みが停滞した時でした。
でも、もし、あきお君のようなことが今も起きたら、また同じ挨拶をすると思います。
しかし、(その時は厳しい正義に燃えるだけでなく、優しい愛を持って語ろう)と心に言い聞かせています。 過去、「鬼の達」と言われていた私ですが、この頃、「優しくなったなあ。″佛の達″に変わってきたなあ」と言って下さる人も多くなっています。

だから、(見えない僕の心を感じてもらえる言葉で話すことができるんやないかなあ) と独り善がりの考え方をしている私です。(僕はいつまでたっても子どもやなあ) と思っています。

あきお君は私に知能に重い障がいをもった仲間たちと共に歩む深い意味を教えてくれた恩人なのです。 今から四十年前、あきお君の次につぐと君が召されました。十五歳。余りにも早い死でした。彼は幼児の時から糖尿病を持っていて月に一度、通院をしていました。
その日、つぐと君を診察してくれたお医者さんが私に語りかけました。
「血糖値が高くなってきて、病気がだいぶん進んできましたね」
「そうですか。入院をお願いできますか」 と頼みました。
「でも、このお子さんは知能に重い障がいをもっているので入院は無理だと思います。
糖尿病食の献立を渡しますから、その食事を食べさせ、一週間後に診察に来て下さい。それまでは安静にさせて下さい」 と入院を断られてしまいました。 《次号に続く

130116ahoyanai

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