筍牛煮付け

いよいよ地元産朝掘り筍が出まわる季節である。筍は茫猿が好きな旬の短い食べ物である。子供の頃は自宅の真竹のタケノコ煮付けを食べさせられていたが、エグミのまさるタケノコ煮付けは嫌いだった。ある時に筍の煮付けをいただいて筍に開眼したのである。

それからしばらくして、長岡天神近くの錦水亭にお邪魔する機会があり、筍料理に刮目したのである。もう退隠の身であるから再訪することもないだろうが、ここの木の芽和え、さしみ、田楽、天婦羅などの筍づくし料理は飽きることも倦むことも無く筍をいただける。

それから数年後、祇園切り通しの某処にて焼き筍をいただいた。小ぶりの筍を皮付きのままオーブンで蒸焼きにするのである。焼き上がった熱々の筍の竹皮を取り除き、ざくっと刻んで醤油を掛け廻しただけの料理であるが、これが旨いのである。店主はいわく、これを竹林で掘り立ての土付き筍で焼けば、それに優るものはないという。さもありなんと思うが誰でもいつでも出来ることではない。《近くの道の駅で筍を探し、鄙里の庭で焼いてみようと考えてはいるが、考えているだけである。》

タケノコで忘れてはならないのは、阪急西向日駅前の三番屋の佃煮「竹の子山椒煮」である。通販でも購入できるが、真空パックされていない木箱入生佃煮はここでしか買えないのである。この竹の子山椒煮佃煮は常備菜として此の季節の絶品である。五月に大山崎へ向かう予定が有るから、時間の都合が付けば立ち寄って購入できればと考えている。

さて、冒頭に書いた筍の煮付けである。この煮付けを昨日の夕卓に載せたのである。

《用意するもの》 朝掘りタケノコ《太く短いものが好ましい》、牛肉《A5ランク級飛騨牛、すき焼用にスライスしたものでなくとも”上切り落とし”で十分である。》、白髪葱、木の芽、カツオ出汁。

《下拵え》 タケノコを深鍋に水を張り、コヌカと鷹の爪をいれて湯がく。湯がく時間は三十分程度であるが、軟らかくエグミの少ないタケノコを好めば小一時間湯がいてもよかろう。湯がいたあとは、常温に冷めるまで放置しておく。 白髪葱は白ネギを縦に刻んでおく。

《調理》出汁に酒と醤油、さらに好みの量の砂糖を加えて牛肉を湯がく。そこへ大振りにカットしたタケノコを加えて十分程度煮付ける。火加減は中火である。強火で煮立たせると肉が固くなるので注意。《肉を引き揚げた煮汁で筍を煮付け、火を止める前に牛肉を鍋に戻せばなお良い。》 タケノコの表面が醤油で色付いた頃に火を止めて、しばらく煮浸しにする。 タケノコと牛肉を皿に盛り付け、白髪葱と木の芽を飾れば「筍牛煮付け」完成である。筍に牛肉の旨味と脂がしみ込み、筍のほのかなエグミと牛脂の絡みが舌鼓をうたせる草深包丁の一品である。20160415takenoko

雑木林南端の山桜が朝日のなかで満開を迎えている。写真右側の桜はようやく咲き始めている。鄙里の桜の季節はまだまだ続いている。20160415sakula

《追記》筍と牛肉の炊き合わせは、病床の母にも食べてもらった記憶があるから、「母の旅支度」と題した当時の日記を読み返してみた。四月八日の夕食に調理した記録が残っていた。病床の母はわずかしか食べなかったが、父は旨そうに食べてくれたとある。あれから六年、今年も若葉香る陽春が巡ってきた。母が掌中の珠のごとく慈しんだ孫に娘が生まれていると知ったら、母は何と言うだろうか、どんな笑顔を見せるだろうかなどと益体もないことを考えている。

 

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