自公圧勝予測:争点隠し選挙

12.04付けの全国紙朝刊では、自公、300議席超す勢い…衆院選序盤情勢《読売新聞》、「自民300議席」予測の衝撃 野党連携の効果見えず《朝日新聞》などと解散直後の世論調査結果が報じられている。

「Yahoo! JAPANビッグデータレポート」では、自民党は300議席、公明党が48議席、野党は、民主党が議席数を伸ばすが70議席に及ばず、共産党も解散前の8議席から20議席以上と大きく躍進する一方、維新の党は半分近くまで議席を減らすとの分析結果を報じている。

安倍内閣及び自民公明両党が任期半ばを残して師走解散総選挙に踏み切った理由が、この二つの調査結果から垣間見えてくるのである。解散時点における世論調査が自公圧勝を予測し、Yahooビッグデータ分析も自公圧勝を予測しているのであるが、安倍総理はこれらの推計を事前に予想した上で解散に踏み切ったであろうと推量される。

安倍内閣は世耕内閣官房副長官に代表されるように、広報戦略・IT戦略に長けており電通など広告代理店の利用も進めている内閣である。この安倍内閣が自公圧勝を確定的なものとするために選んだ選挙戦術が「争点隠し歳末選挙」なのである。

先ず、安倍内閣は「GDP大幅下落」を事前に予測し「消費税10%アップ繰り延べ」を決めてから解散風を流したのである。そして「消費税10%アップ繰り延べ」並びに「アベノミクス」の是非を問うという国民《納税者》が受け入れやすい争点を掲げて解散に踏み切ったものと思われる。

解散直前の十月末に日銀は追加の金融緩和を行い、国債保有残高を積み増し、国債保有期間を延長し、ETFおよびJ‐REITの買い増しを行って、マネタリーベースを2014年末275兆円の目標から15年末355兆円へと大幅増額させた。 この結果、円安がさらに進行し円は120円を超える下落であり、株式相場は17,000円を超える勢いである。

円安は輸出関連企業の好況感をさらに加速させており。株高は株式保有者層の富裕感を増幅しているのである。輸出関連企業の好況は輸出量の増加によるものではなく、為替差益によってもたらされたものであるとしても、業績好調には違いなく円安を支持することに変わりはない。株高は企業の含み資産益を増加させているし、株式保有世帯の富裕感を増しているのである。

高度成長期とバブルを経た日本では、株式を保有する世帯は今や大きな割合となっているのであり、日本証券業協会の調査によれば二人以上世帯の二割強が株式保有世帯となっているのである。株高=好況感形成となる理由がここにある。 そこへもってきて「消費税率上げ延期」となれば、大企業関係者と株式保有者層が安倍内閣及びアベノミクスに反対する理由はなく、好況感に縁遠い貧困層も消費税繰り延べの是非と問われれば安倍内閣に反対する理由は乏しくなるのである。

しかし、この金融超緩和による円安・株高見せかけ景気が大きな落とし穴を潜めていることに気づかなければならない。金融緩和は財政規律を危うくするし、円安は輸入物価の上昇による円安不況を招きかねない。そうなれば海外投資ファンドに支えられている今の株高も危ういものとなろう。 今の円安・株高景気は金融超緩和と異常ともいえるマネタリーベース増加に支えられている「アベノミクス・バブル」なのであり、日本経済の本質的成長によるものではないのである。

米国連銀は利上げに踏み切っており、日本の金融緩和が続けば円のさらなる下落は避けられそうになく、そうなれば外国投資ファンドは日本株式の売りに転じるであろう。このアベノッミクス・イリュージョンが雲散霧消する前に安倍内閣は解散を行い、向こう四年間の自公与党安定体制の延命を図ったのだと推量できる。

安倍総理は「戦後レジュームからの脱却」を常に唱えている総理である。戦後処理について時に異論を唱え時に言語を曖昧にするのである。 東京裁判然り靖国問題然り従軍慰安婦問題然りなのである。 特定秘密保護法、集団的自衛権そして派遣労働者法改正という施策により、知る権利を制約し、海外派兵や武器輸出を解禁し、労働者の権利を制約して解釈改憲を果たそうとしている内閣である。

安倍内閣はグローバル企業の利益を優先し、一部の富裕者層に迎合する内閣である。多くの労働者を非正規雇用におとしめ貧困者層を拡大し国民の二極分化を図ろうとする内閣である。日本の戦後繁栄は「軽武装・経済優先、中流階層の増大」という施策によってもたらされたものである。安倍総理の唱える戦後レジュームからの脱却は、いたずらに競争を激化させセーフテイネットを破壊しかねないものであることに気づかなければならない。

大企業を中心に正規雇用者と非正規雇用者の格差を拡大し、両者の間に存在する溝を深めてゆくだけの政治に日本の未来はないと知るべきである。自民公明与党の圧勝を予測するマスコミは有権者のシラケ感を招き投票率の低下を招くだろう。意図してか意図せざるをしてかマスコミの選挙結果予測が自民公明両党の圧勝に寄与するものとなっているのである。またこの二年間、抜本的な体勢立て直しも野党の結集もできなかった民主党にも有権者はシラケているのであろう。 それでも私は日本人の賢明さとバランス感覚にまだ期待しているのである。

なによりも大切なことは、「民主主義とは手間ひまのかかるもの」なのであり「容易に決めかねるもの」なのである。為政者が独断即実行できるような政治とは対極に位置するものなのである。 国民の意識が多様化し利害が錯綜する現代においてこそ、施策優先順位の確立が求められ利害対立者間における調停妥協こそが求められるのである。YESかNOかという選択ではないのである。YESとNOのあいだに答えを探してゆく手数のかかる作業が求められているのである。 兎にも角にも、棄権だけは避けて不満ながらも次善の選択をしたいものである。

今朝は雪が散らついている。昨日、雲間にちらりと見えた伊吹山は白く冠雪していた。鄙里の紅葉も一昨日までで終わり、今朝は冬木立が目立つ景色となっている。20141201

 

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