事例資料:A案開示の日?

新スキーム改善問題を考える上で欠かせないのは、取引価格情報提供制度創設の頃の背景、そして創設の趣意である。 この創設趣意を読みとることができるのは、土地基本法16条並びに国土審・土地政策分科会・土地情報WG・中間報告(2003/07/31)及び最終報告(2003/12/19)その他の公開資料なのである。

すなわち中間報告が開示されてパブリックコメントが募集された時に、鑑定協会が提出したパブリックコメントはA案(取引情報の全面開示)を支持したこと、中間報告及び最終報告において『取引価格情報の開示の是非に関しても、取引価格情報を個人識別情報として保護することによる公益と開示することによる公益との比較考量を行って判断されるべきものであると考えられる。』とし、法制的な検討や登記所における取引情報の報告や開示を示唆していることである。

これらから読みとれる国交省が意図する取引価格情報提供制度の将来方向(着地点)は、取引情報のA案(全面開示)なのであり、土地情報ライブラリにおける開示状況(現況はB案)は、今や取引情報の地番開示を残すのみと云って差し支えないのである。 所有権移転情報と土地情報ライブラリ情報とをマッチングさせれば取引情報の詳細を知り得ることが可能な状況に至っている。 どういうことかと云えば、土地情報ライブラリにおいて地番情報を開示しなくても、別途取引原初情報(取引当事者名を削除した移動通知情報)を開示すれば、全容開示に等しいこととなる。 そしてそういった事態がさほど遠くない時期に現出する可能性は低くないのである。 鑑定業界はそのような事態を想定しているのかと云えば否である。(A案、B案については後述。)

今や鑑定業界は取引情報が全面開示される状況を想定して、自らのスキルを磨き上げておくべきなのである。鑑定業界がそのような事態を想定をしているのか? 否である。 その時に至れば「想定外事項」と言うのであろう。 『鄙からの発信』過去記事が指摘していることも、「取引情報が全面開示される事態に備えよ」ということなのである。 取引事例データベースの囲い込みに汲々とし、取引情報独占利用に胡座をかき、そのことに自らのレーゾンデートルを見出しているような状況ではないのである。 蝸牛角上の争いなど直ちに終止符を打ち、新たな事態に対処する鑑定士のあり方を模索する時なのである。

今回の改革案提示を黒船襲来と考える鑑定士もいるようであるが、こんなものは黒船でも何でもない、専門職業家を自認する集団として為すべき事を為そうとしているだけである。 鑑定業界のコンプライアンスを糺そうとしているだけである。 本当の黒船は「取引価格情報全面開示」という事態の出現であり、それはそんなに遠くないと、茫猿は予測する。 早ければ五年以内、遅くとも十年後には出現するであろう。

 こんな話をすれば、それは業界の皆さんを惑わせる妄言と誹る方が多いであろうと思います。でも十年前、即ち制度創設当初の国交省や関連学界の意向、その後の推移などを冷静に考えてみれば、国交省の真意はB案(パブコメ募集時の提示案:部分開示)は階段の踊り場であり、B案が定着しつつある現在は改めてA案(同じくパブコメ募集時の提示案:全面開示)移行を指向する時期にあろうと考えます。 そしてA案移行にそれほどの障害が無いことにも気付いてほしいのである。法的整備が為されておれば改正手続きが必要であろうが、現行制度は行政手続きに過ぎず、廃止も改正も行政の裁量行為なのであることにも留意しておきたい。 さらにA案移行に社会の抵抗は小さかろうとも考えられるのです。 さらにそれが世界の趨勢であることにも留意しておきたい。(A案、B案の詳細は中間報告別紙:報告19頁以下に記載されている。)

国土審・土地政策分科会・土地情報WG・中間報告(2003/07/31)
「不動産取引価格情報の提供制度の創設」に関する意見募集について
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/03/030730_.html

2003.12 開示された最終報告では、以下の如く書かれているのである。
《取引価格情報の開示の是非に関しては、取引価格情報を個人識別情報として「保護することによる利益」と「公開することによる公益」との比較衡量を行って判断されるべきものと考えられる。 比較衡量の天秤の片方、「公開する公益」については、上に述べた通り、不安感の軽減と信頼性の向上、透明性向上による土地市場の健全化、適正な土地利用の促進といった公益が認められる。
比較衡量の天秤のもう一方、「保護する利益」の主な内容は、現状においてもおおよそ類推さ
れうる取引価格がより詳細に明らかになることによって、追加的に損なわれると予想される利益と
考えられるが、これについて上記(2)の配慮を行うことを検討すれば、損なわれる利益の程度は
低いと考えられる。
このようなことから、土地基本法における公共の福祉優先の基本理念に鑑みれば、個人の権
利利益の保護に配慮しつつ、取引価格情報の提供を行っていくことには、基本的方向として合
理性があるものと考えられる。》

これらから、何を読みとるかは様々であろうが、筆者はB案が定着しつつある今、B案を背景とする資料利活用に際して鑑定協会内部で開示非開示を言揚げする場合ではなかろうと言うのである。 制度創設に関わる最終報告は今も生きているのであり、鑑定協会はA案を支持したという経緯も今に至るまで否定されてはいないのである。 であれば、国交省の目指す取引情報提供制度の到達点は何処にあろうかと判断するのは、そんなに難しいことではない。

五年、十年という時間は長く思うかもしれないが、準備する時間としてはそんなに長くはないのである。 まともなネットワークすら未だ構築できず、地理情報にも数値比準にも無関心な業界が予測される事態に対応するための時間としては短すぎるくらいである。 DI調査だって、市場滞留性調査だって(土地政策分科会では流動性分析として話題となっている。)、定借賃料調査だって、遅々として拡がらないし、連繋に乏しいのである。 DI調査一つを提唱し拡がり連繋するのに何年かかるのだろうか、先は遠い。 だから、三十代四十代の若手といわれる会員に(一般社会では中堅どころか、リーダーを務める人も多いのに。)、我が業界の行く先を、過去の成功体験に酔いしれ、逃げ切ろうとしている六十代に任せてはおけないと気付いて欲しいのである。 ヒロト君、トオル君、アキヒロ君、ミキオ君、スエユキ君、ミチヤ君に伝えたかったのは、このことなのである。諸君の奮起を期待すること大なのである。 過去の成功体験に執着して衰亡していった多くの歴史に学んで欲しいのである。

取引情報の開示から: (2003年11月27日)
価格情報提供制度の疑問( 2004年11月7日 )
清水氏からの投稿( 2010年12月14日)
新スキーム問題の根源:寄稿  (2011年7月31日)

土地基本法(1989年12月22日法律第84号)
第十五条 (税制上の措置)国及び地方公共団体は、土地についての基本理念にのっとり、土地に関する施策を踏まえ、税負担の公平の確保を図りつつ、土地に関し、適正な税制上の措置を講ずるものとする。

第十六条(公的土地評価の適正化等)国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。

国土審・土地政策分科会・土地情報WG・中間報告(2003/07/31)
「不動産取引価格情報の提供制度の創設」に関する意見募集について
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/03/030730_.html

国土審・土地政策分科会企画部会・土地情報WG・報告(2003/12/19)「不動産取引価格情報の提供制度の創設」に関する意見募集の結果について
http://www.mlit.go.jp/pubcom/03/kekka/pubcomk030730_.html

国土交通省:国土審議会   土地政策分科会  企画部会

土地政策分科会企画部会報告「土地政策の再構築」 (2005.10.20)

※2003年当時、鑑定協会が提出したと推定されるパブリックコメント
「鑑定評価の精度向上等について」(意見募集の結果より引用)
鑑定評価において、不動産取引価格情報は欠くことのできない基礎資料であり、地価の調査・分析内容の精緻化につながり、ひいては適正な地価の形成により一層寄与できる。

守秘義務を前提にして、不動産鑑定団体に全詳細データを公開すべき。また、価格が異常値と認められる事例については、適正な地価形成に資する観点から、その価格形成過程や背景等の取引事情等に関して取引当事者に対する調査権を不動産鑑定士等に付与すべき。多くの不動産取引価格が公的土地評価に生かされれば、公的土地評価の指標としての信頼性が増す。また既存の公的土地評価制度をより簡素化できる。

各国で作成している不動産投資インデックスやベンチマークの精度も不動産評価の精度に依存しており、不動産評価精度の向上は、取引価格情報の提供がもたらす最良の便益のひとつと考える。

※取引価格情報の収集方策 (その将来方向洞察の手懸かりとなるものであり、中間報告及び最終報告より抜粋する。)
諸外国と異なり、取引価格を網羅的に収集、蓄積している公的部門が存在しないわが国においては、取引価格を網羅的に収集するためには、国民に対して新たな協力を求めることが必要である。虚偽申告がある場合には、土地市場の条件整備という目的の達成に著しい支障が生じるので、それを避けるための枠組みが必要であるが、今回の取引価格情報の収集は、取引規制の観点から行われるものではないので、具体的な収集のしくみについては、行政当局が、国民に過度の負担にならないよう法制的な検討をすることが必要である。

また、実際の情報収集に当たっては、既存の制度や情報をできるかぎり活用することにより、新たな負担を最小限に留めるべきである。わが国のほとんどの土地取引について、登記所は、その発生を最も早い機会で知りうる公的機関であり、かつ取引当事者との接点でもあることに鑑みれば、登記申請がなされる取引については、登記時点で国民がワンストップで報告できることその他の方法を検討すべきである。

《閑話休題》
前から一度は手に取ってみたいと思っていました「BIG ISSUE」を初めて入手できました。街頭販売の書籍ですから、岐阜あたりでは入手できないのです。基本的に大都市の中心繁華街でしか売っていないのです。
ビッグイシュー日本版|BIGISSUE JAPAN

定価300円の雑誌である。販売者は160円が自己の収入となる。30頁ほどの雑誌であるが、内容はしっかりしている。 それにホームレス状態の人が路上脱出のきっかけ作りに役立つささやかな支援でもある。 入手187号の記事は、「サッチャーを演じたメリル・ストリープへのインタビュー」、「福島の子どもを守るには?」などである。 為になるし、街角の販売者に「お大事にね」などと声を掛ける小さな幸せも感じられる冊子である。

鑑定士がホームレスになるような事態を想定できるかできないか、予測の原則を働かせることができるかできないかが全てである。 現実の問題としても優秀な試験合格者ほど、鑑定業界に籍を置かず周辺業界へ流出している状況、鑑定業界の現状に失望して他業界へ転出する例が幾つか見られるようになっている。 鑑定協会執行部は言うに及ばず、協会会員の総員がこのような兆候に危機感を持って現状改革に処してほしいと願うのである。

濃霧のなかに漂うタイタニック・カンテイ丸の直ぐ先に、取引情報全面開示という氷山が待っていると、街角に独り寂しくたたずむ占い師・茫猿には見えるのです。 カンテイシはハメルーンの笛吹にリードされるレミングスとなるのでしょうか。

《再び閑話休題》 岐阜県士協会の若きリーダーのひとり寺村氏が関わる商・住テナントビル・北柳ヶ瀬再開発ビルが内装工事を残すだけとなっている。柳ヶ瀬ルネッサンスの一翼を担うことが期待されるビルである。(04/23竣工予定)

ビルの西側正面通りのアーケード街

 春分過ぎの今朝も氷雨が降っている。それでも桜蕾は膨らみを増した。

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