鑑定協会と情報管理(収集と分析)

北海道の旅を始める頃に時を同じくして、「日本再生戦略及びそこに記述される不動産価格指数そして取引価格提供制度」という問題が発生し、北紀行シリーズをアップしているあいだにも、この問題に関わる意見交換がSNSのなかで取り交わされている。

なかで、茫猿が注目したのは、これらの問題が日本再生戦略に取り込まれるまで、「鑑定士協会連合会執行部は何をしていたのであろうか? 問題の所在を把握していたのであろうか?」という疑問の提起である。


国交省市場課に設けられた不動産価格指数研究会(不動産価格の動向指標の整備に関する研究会)には、鑑定協会から役員が派遣されているし、何よりも月に一回程度は国交省と鑑定協会役員とのあいだで意見交換会が開催されているのである。 意見交換会の開催日程はWebSiteに公開されており、地価調査課や地価公示室とだけではなく市場課との意見交換会も開催されている。 だから、これらの情報を執行部が知らなかったということは考えられない。 問題点は知り得た情報の重要度、将来的に及ぼす影響の大きさについて、優先順位の把握ができていなかったことにあると考えられる。 というよりも、不動産価格指数は価格指数なのであり、地価公示にも取引価格情報提供制度(新スキーム)にも、大きな影響はないと考えていた節がある。

ちなみに、国土交通省サイトで「研究会、委員名簿、不動産鑑定」などのキーワードで検索してみると多くの委員会名簿がヒットする。 土地鑑定委員会名簿国土審議会土地政策分科会 委員名簿等に鑑定協会派遣(委員の肩書きが協会役員名称)の委員が存在するのは当たり前のことであるが、他にも多くの委員会や研究会に協会役員が派遣されているのである。 主なものを列挙すれば以下のとおりである。

なお、2007.5.11国土審議会議事概要には、各委員の主な意見としてこのような意見が紹介されている。「取引価格情報の提供については画期的で積極的に評価する。ただ、地価公示との関係で、建物を含んだ不動産取引価格と土地だけの公示価格という性格の異なる価格を同時に公開することで誤解を生じないか、また、地価公示における評価の仕方などにどのように影響するかについて懸念。」 更地評価である地価公示と複合不動産取引が主流になっている取引市場事例とにおける課題点の指摘とも云える意見である。

1.不動産価格の動向指標の整備に関する研究会(国交省)
(社)日本不動産鑑定協会常務理事 澁井和夫氏 (H23.03.18現在)
同委員会の委員は、H24.02.27より、協会理事磯尾隆光氏に交替している。

2.不動産流通市場活性化フォーラム
( 公社)日本不動産鑑定士協会連合会 常務理事 臼杵克久氏 (H24.06.12現在)
不動産流通市場活性化フォーラム(事務局:国土交通省土地・建設産業局不動産業課及び住宅局住宅政策課)は、不動産流通市場の活性化のための具体的方策を検討するとともに、今後の不動産流通市場のあり方に関して提言することを目的としている。 昨今話題の中古住宅市場活性化を大きなテーマとするフォーラムであり、2012.6.28に提言・とりまとめが公表されている。

3.取引価格情報の提供制度に関する 検討委員会
いわゆる新スキームに関わる、この検討委員会は2006.10.13から運営が開始され、2007年02月に取り纏めが公表されている。 委員には当時の(社)日本不動産鑑定協会副会長・増田修造氏が参加している。 取り纏めが示す制度の改善方向には、現在話題の新スキーム改善につながる事柄が(透明性の確保、データ管理の安全性担保等)、幾つか示されている。 同時にこの検討委員会の取り纏めが、不動産価格の動向指標の整備に関する研究会につながっているのである。
新スキーム(名)を捨てる時 (『鄙からの発信』2009.06.20)
価格情報制度の取纏 (『鄙からの発信』2007.02.27)

他にも幾つかの士協会連合会派遣委員が存在するであろうと思われるが、これら委員会が公表する審議経過や結果を総合的にリンクして公表するシステムやサイトが連合会に存在しないことも、情報の管理という観点からすれば見逃せないことである。

当然のことながら、それらの委員会で配布される資料やオフレコ情報というものは、正副会長会や常務理事会で共有されているものであろうと考えられる。 しかしながら、いかなる情報に接しても、その情報の価値に気付かなければ無意味なのである。 佐藤優氏がインテリジェンス(諜報活動)というものは、非公開情報を得ようと努力することよりも、公開情報の収集と分析がその大半であると述べている。 オフレコ情報やアングラ情報を得ようと努力することよりも、公開される情報が指し示すもの、意味することを分析し理解することが重要なのである。

茫猿は鑑定士協会連合会の運営は政治であると考える、学術研究ではない。 学術的調査や研究活動といっても、その重要性を理解し予算付けし、フォローアップすることが連合会執行部の役割なのである。 政治であるとすれば事柄の重要性を認識し、その優先順位付けが重要なのである。 政治は結果が総てであるとは、そのことを指すものである。 政治であればこそ妥協は必須事項であるが、優先順位の視点を欠いた妥協は迎合に近いものとなってしまうのである。

かねてから、事務局筋よりは、新スキーム(鑑定士の事例優先利用”権益”)はガラス細工、砂糖細工のスキームであると何度も聞かされてきましたが、執行部は一向に改善の方向に動こうとはされませんでした。 機会を得て質問をすれば、国交省の指示を待ちますという類の返答が返ってきたものです。

ところが、国交省から新スキーム改善の示唆・指示を受けても、この一年半のあいだ小田原評定を繰り返し、結果的に問題先送り・玉虫色の一次改善案を取りまとめたことは、ご承知の通りです。 手厳しい評価とお考えかもしれませんが、連合会執行部各位の現状認識はその程度なのであろうと思わざるを得ないのが、残念ながら現実なのでしょう。 連合会活動の多くは政治マターであるという認識すら薄いのではないかと考えられるのです。

もちろんのこと、「私は問題の大きさを認識している。」と述べられる役員氏も少なくはございません。 しかし、「現実は簡単ではないのだ。」と言い、結局のところ問題を先送りしたり、問題を直視した行動を起こさなければ、何もしないことと変わりはないのです。 茫猿が不作為の罪を問うのは、そういった事勿れ・先送り・指示待ち主義を指すのです。 また、直面する課題の本質を正しく会員に伝えなければ、混乱を助長し複雑化し、弊害にすらなるのです。

話は変わりますが、八月も二十日となれば、緑陰濃く晩夏の風情が満ちています。 窓から入ってくる夜風は、残暑を和らげる涼を運んできます。 新スキーム改善特別委員会委員長は、連合会諸規程との関係もあって後藤 計氏から、本年六月に会長緒方瑞穂氏に交替しました。 会長直轄委員会として、一陣の涼風のごとき、万難を排する改善策を速やかに実行して頂きたいものと考えます。

日本再生戦略が公表され、そのなかに不動産価格指数の実施日程が盛り込まれた今となっての、新スキーム改善戦略は「Too Late」という批評も一部に存在しています。 確かに遅きに失したことは否めないでしょう。 だからといって新スキームが変わりゆくのを手を拱いて見ていればよいということにはならないと考えます。 取引価格情報提供制度における不動産鑑定士の存在感は、今も大きいものがあろうと考えます。 その存在感を、より信頼あるものに高めてゆく方策が求められていることに変わりはなかろうと考えます。 どう変わっても、不動産鑑定士が事例情報を利用できなくなることはないと、楽観視することは許されないと考えるのです。

   

 

 

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