業益擁護の果てに待つもの

いささか旧聞に属する事柄ではあるし、いまさらに言揚げするのも如何なものかと考えましたが、一応は備忘録的に記事にしておきます。

平成25年3月19日開催の第295回理事会にて、「平成26年地価公示評価員の継続に係る委嘱について」と題する決議案が採択されたと、日鑑連理事会報告に掲載されている。

平成25年3月19日開催の第295回理事会 第7号議案「平成26年地価公示評価員の継続に係る委嘱について」《理事36名の連名による緊急提案》は、賛成61名、棄権1名により採択された。

決議案の骨子
「平成26年地価公示継続評価員の委嘱に関する都道府県分科会別「上限数」設定方式に対して国土交通省の「土地鑑定委員会」に対して「撤回」或いは「凍結」を申し入れる。」

採択された決議案の概要
「地価公示評価員委嘱の決定にあたっては、絶対評価を重視のうえ審査及び選抜を行うこと並びに都道府県枠・分科会枠の撤廃を要請することを骨子とする要望書を作成のうえ、本年度末までに土地鑑定委員会に対して提出すること。」

《茫猿の独白》
上限定数枠を廃止せよと云うことは、要するに受託希望者は全員受け入れよということであり、絶対評価を重視せよということは即ち、委託者の審査に叶わない者は非委嘱やむなしということである。 絶対評価を是とすることは受託者として潔いものではあるが、絶対評価基準によっては継続受託希望評価員の三分の一あるいは二分の一が非委嘱対象となることも有り得るという覚悟があってのことであろうかと疑問が残る。 日鑑連理事会が、絶対評価基準というものを如何様に考えているのか知りたいものである。

日鑑連理事会が主張する骨子は、地価公示の継続受託希望評価員については、可能な限り継続受託させてほしいということであろう。相対評価によって一定割合の評価員を切り捨てることは止めてほしいということであろうし、継続評価員数に上限枠を設け一定数を新規評価員と差し替えることも止めてほしいということであろう。つまりは既得権益の擁護と受け取られてもやむを得ない決議であろう。

今や部外者である茫猿が、水を差すような物言いは避けたいところであるが、「地価公示地点数の削減或いは大胆な配置替え」が企画されているときに、また「地価公示評価書の開示に耐え得る評価書の水準維持向上」を目指すときに、日鑑連が為すべきことは自らを厳しく律することが第一ではなかろうか。 「地価公示のあり方検討会」は03/18に第六回会議を終えたものの、その報告書は未だ開示されていないのである。 一ヶ月余も開示が延びているのは、報告書に記載される内容が大胆なものであることを暗示しているのではなかろうかと危惧している。

そのような折りに、地価公示の質的向上を目指すでなく、業益擁護に傾いた決議を採択する理事会の『羅針盤喪失性』を危惧するのである。 地価公示受託を既得権益と捉えるのでなく《そうでなくとも他者の参入を許さない鑑定士の独占業務なのである》、地価公示をより良くする為に、地価公示が社会にさらに高く評価される為に、日鑑連が何を為すべきか、鑑定士は何を為すべきかを第一義的に考えてほしいものである。

新スキーム改善審議において、士協会の閲覧料収入減少に対する補填措置を求め、士協会外会員の閲覧については窓口規制《事実上のオフライン閲覧》の継続を求めたことは、即ち既得権益の擁護に他ならないことである。 今回の地価公示関連決議においても既得権益擁護の態度が明白なのであり、変わることを厭う《いとう》姿勢が明らかなのである。 保守的というに値せず退嬰的というのがふさわしい、これらの状況は鑑定業界の制度的疲労を露わにしているものと考えるのである。  それにしても、身を削る姿勢の欠片《かけら》もない決議案について、棄権者が一名ありとは云え、出席全理事が賛成するという状況をどう受け取ればよいのであろうか。

《追記》 相対評価と絶対評価
相対評価とは評価対象のグループを一定の割合で評価分類する手法である。例えば、Aが10%、Bが20%、Cが40%、Dが20%、Eが10%に評価分類するという具合である。 絶対評価はカテゴリー毎の割合を定めない手法であり、前記によればAが50%、Eが50%という結果も有り得る。同時に評価主体の恣意性や評価基準の定め方に評価結果が左右され易い。

そこで、地価公示の絶対評価基準について直ぐに思い浮かぶことをランダムに記してみると、こんな具合である。 a.計算間違いの箇所数、b.誤字脱字の箇所数、c.論理的不整合の箇所数などは、現在でも採用されているマイナス評価ポイントである。 加えてプラス評価ポイントとして、a.新スキームに由来しない独自発掘事例の数、b.独自に採集した新規の賃貸事例《特に商業地事例》の数などが挙げられるであろう。

本来は評価書の質的内容にも踏み込むべきであろうが、これは言うは易く行うは難しであろうから「評価書の公開」に委ねるとして、それに代わるものとして分科会内部における相互評価を取り入れるのも一つの考え方であろう。 相互評価は相対評価とは似て非なるものであり、グループ構成員全員がその全数を評価者自身も含めて、A~Eランクに分類評価して集計するという手法である。 半世紀の歴史を重ねルーチンワーク化した地価公示については、自ら汗をかく姿勢を示すことが求められていると考えるのである。

 

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