美輪明宏

2013.09.21 夜11:00 見るともなしに点けていたTVから美輪明宏の歌声が流れてきた。
NHK総合 SONGS である。 昨年の紅白で「ヨイトマケの唄」を歌い大きな反響をよんだ美輪明宏である。 長崎に生まれ原爆を体験し、銀座のシャンソン喫茶「銀巴里」で歌手としてデビューした美輪である。 1957年に「メケメケ」が大ヒット、「シスターボーイ」と評されて人気歌手となるが、同性愛者であることをカミングアウトしたことや、旧来のシャンソンイメージを覆す社会的メッセージ性などが災いして、人気を失い低迷する。 その後、三島戯曲「黒蜥蜴」のヒットなどから根強い固定ファンを得たものの、スピリチュアル・ブームが到来するまではマスコミに大きく登場することはなかった。「ヨイトマケの唄」にしてからが、発表されたのは1964年であるが大ヒットすることはなく、知る人ぞ知る存在であった。

1935年生まれであるから、今年は78歳になる美輪明宏であるが、とても八十近い容貌には見えないし、歌声も艶と張りがある若々しいものである。 その彼が「悪魔」、「亡霊達の行進」という反戦歌を歌うのである。「ヨイトマケの唄」もメッセージ性の高い唄であるが、「悪魔」や「亡霊達の行進」はまごうことない反戦歌である。 沢田研二が「60歳になったら、言いたいことをコソッと言うのもいいかな」と「我が窮状」と題する「憲法九条を守りたいという歌」を歌っているが、美輪は78歳ではあるものの真正面から反戦歌を歌い、それを深夜に近い時間帯とはいえ三十分番組でNHKが流すことに拍手を送るものである。 《09/21の放送は09/26深夜(午前1:30)に再放送される。》

収録スタジオに集まった若い聴衆とのトークで美輪は原爆の悲惨さを語り、戦争についても語っている。 戦争とは親兄弟や愛する者達、身近な者が死の危険にさらされることです。 戦争をイメージするということは身近な者が戦場に駆り出されて死んでゆくことを想像することです。 海外進出とか国威発揚についても、輸出や政治メッセージなどというものよりも、日本人の文化を発信することが大事だと語っている。 百人の政治家が海外に出かけることよりも、ひとりの北野武、宮崎駿、きゃりーぱみゅぱみゅが海外に発信することが大切だと言っている。 経済力や政治力、ましてや軍事力で海外に威を張ることよりも、文化的発信力で海外に認められることのほうが大事なのだと言っている。

また「不遇」というものについても、こう語っている。 「不遇な時、世間に認められない時に不平や不満や愚痴を言うよりも、今は充電の時間なのだと考えて、ひたすら自らの力を養いなさい。 いつか世間の目が向けられた時に大きく花開くでしょう。」

美輪明宏の歌を聴いていて、ふと気になったことがある。 美輪明宏といい沢田研二といい、反戦歌や社会的メッセージ性の高い歌が話題となりNHKで放映されることの意味についてである。 しばらく前であれば放映はおろか放送禁止になりかねない歌であるのに、深夜時間帯とはいえ放映されることの背景に何があるのだろうかと考えたのである。

憲法九条改正について総理大臣や自民党幹事長が声高に言い、憲法解釈変更で集団的自衛権発動を認めようと云う風潮を危惧する声が背景にあるのだろうと思うのである。 自民党の一部が憲法改正を言っても、党の綱領にうたってあっても、現実のものとしては考えられなかった時代は今や過去のものであり、改正や解釈改憲の日程が現実のものとなりつつあることに対しての危機意識があるのだろうと思えるのである。

憲法九条改正は容易なことではない。 しかし、自民党をはじめ民主党、維新の会、みんなの党などが改正に積極的となっている現在では、憲法改正の日程は《秘かに》具体的なものとなりつつあるのではないかと考える。 集団的自衛権についての解釈改憲の動きは、「集団的自衛権の行使は憲法上否定される。」という考えが根強いことに対して、「であればこそ、日米同盟を確固たるものにし双務性を果たすためには、集団的自衛権について憲法改正が必要である。」という主張が力を得るであろうし、「中国や北朝鮮の脅威に対抗する為には、日米同盟の強化すなわち集団的自衛権の行使を認めることが必要である。」という主張が力を増してゆくのであろう。

憲法第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国が軍事力《戦力》を保持することを、憲法は認めていない。 日本国が保持する軍事力は「専守防衛のための戦力」であり、海外派兵を認めるものではない。 だから越境攻撃を目的とする航空母艦や渡航爆撃機や海兵隊の保持を認めていないのが、現在までの自衛戦力である。
しかし、ステルス戦闘機、ヘリ空母などの保持は専守防衛の枠を超えるもの、あるいは超える可能性が高いものといえよう。 ステルス戦闘機は抗戦能力よりも攻撃力が重視されるものであり、ヘリ空母にオスプレイを搭載すれば、それはそのままに攻撃型空母に転じてしまうのである。
日本にオスプレイが配備され《自衛隊の保有も意図されている》、最近進水した「ヘリ空母いずも」と併せて考えれば、日本の軍事力増強も小さいものではないし、集団的自衛権行使・解釈改憲の動きは国外での戦闘行為が現実のものとなりかねないのである。

いずれにしても、《歴史、なかでも近代史・現代史を考えてみれば》、後講釈のオンパレードである。 どういうことかと云えば、今にして思えばあの時が転換点であった。あの時が転換を押し止める最期のチャンスだった。あの時に気付くべきであったなどという後講釈ばかりである。 第二次安倍内閣は世論の高い支持を受けて、消費税増税と集団的自衛権解釈改憲で歴史に名を残す内閣となるのであろうかと考えるのである。

牽強付会的に云えば、民主党政権を育てようとしなかった国民世論、マスコミ、有識者が民主党をネオリベラリズム別働隊へと変質させた。 そして民主党自壊作業ともいうべきテイタラクが安倍政権を誕生させ今夏の参議院選挙でさらに後押しした結果が、「消費税増税と集団的自衛権解釈改憲」をもたらし日本を転換させてゆくということになるのであろう。 日支事変、満州事変そして日米開戦に至る日本の自壊行動は、軍部や当時の政権の独走行為などではなく、マスコミや大半の有識者そして多くの国民の支持《熱狂的ともいえる支持》を背景としていたのである。

それは尖閣諸島《対中国》、竹島《対韓国》、北方領土四島一括変換《対露西亜》問題にみられる強硬姿勢、つまりいずれも日本固有の領土であり領土問題など存在しないのであり、譲歩・妥協などという解決策はあり得ないという強硬姿勢を貫くことに疑いを持たない。 そして強硬姿勢を示すことにより、解決の為の交渉テーブルにもつかないという主張につながるのである。 歴史認識の違いにもいえることであるが、相手国には相手国の主張があり、その主張にはなにがしかの理が存在すると認めること、せめて聞く耳を持つことから解決の道が開かれると考えるのである。 もう少し言えば領土紛争の経緯・歴史をどのくらいのスパンで考えるかということである。 戦後のスパンか、第一次大戦以降か、日清日露戦争以降か、江戸幕府以降か、さらに遡るのかという視点によって歴史認識は異なってくるのである。 第二次大戦の敗戦国は日本であるが、日清日露の敗戦国は露西亜であり、清国《中国》であり、併合されたのは韓国《李氏朝鮮》なのである。

 

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