羊頭狗肉

羊頭狗肉とは、「羊の頭を看板に掲げながら、実際には犬の肉を売ってごまかすこと。羊頭を懸けて狗肉を売ることである。」 つまり、見かけと実質がともなわないことの例えであり。立派なものをおとりに使い、実際は粗悪なものを売ることを意味する。 昨今話題のクルマエビ・メニュー偽装表示事件は、まさに羊頭狗肉なのである。

ここで不思議なのは、記者会見で偽装者側の最初の言い訳が「誤記」であったということである。 誤記というのであれば、現場の調理スタッフが車エビとブラックタイガー、芝エビとバナメイエビの区別がつかなかったということであり、海老の見分けも出来ないという調理スタッフ(シェフ)能力のお粗末さを自ら告白することである。 違いを承知しながらメニューに異なる表示を記載したのであれば、それは羊頭(芝エビ)を掲げて狗肉(バナメイエビ)を販売したということであり、紛れもない偽装・詐欺行為である。 いずれにしてもお粗末な出来事と云えるのである。

このあたりを記者会見で的確に指摘できなかったマスコミ各社記者諸氏の能力の無さがとても気に懸かるのである。 発表者側の言い分を鵜呑みにするのであれば、マスコミ側に当事者能力が欠けていると云わざるを得ないのである。 誤記表示と偽装表示の違いを的確に指摘できないマスコミ各社記者の能力の無さもまた、(ジャーナリストとして)偽装表示とまでは云わずとも誇大表示と云えるのではなかろうか。

ことはワイドショー種(たね)に為り易いメニュー表示などにとどまらず、「国家安全保障会議:NSC設置問題」、「特定秘密保護法制定問題」、「集団安全保障問題に係わる解釈改憲」などの国のあり方の根幹にかかわる問題についても云えるのである。 問題の本質が何処にあるのか、官房長官記者会見などにおいて、的確な質疑応答ができていないことを憂うのである。

総選挙でも参議院選挙でも安倍総理や自民党は景気回復と社会保障改善充実を大きな公約として選挙に臨んだのであり、なし崩しの解釈改憲を掲げて選挙を戦ったわけではない。 その意味において麻生副総理が2013年07月29日に語った《開き直りにも聞こえる》ナチス関連発言は意味深長なのである。

「僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツのヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。 ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。 ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。

そして、ワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。」 《出典》

バナメイエビ》  《ブラックタイガー》  《車エビ》  いずれもクルマエビ科に属するエビとはいうけれど、天然であれ養殖であれ国産活けものが主流の高級魚介であるクルマエビと、冷凍輸入が主流の養殖エビとはおのずと異なるものというのが魚介や調理に携わる者の常識というものであろうし、その違いがあるからこそ偽装表示が生まれてくる原因があったのであろう。 それにしても、加熱調理すれば判らなくなるのであり、ましてやフライや天麩羅になれば見分けがつかないのである。

茫猿がよく訪れる「魚豊」さんでも、ブラックタイガーは冷凍で売られており、車エビは活けものとして売られている。 名だたるホテル・レストランやデパートが偽装表示に手を染めたことにより、失ってしまった信用とか暖簾といったものの価値をどのように考えていたのかと思えば、彼らはとっくの昔に銘店としての矜持とか誇りと云ったものを無くしてしまっていたのであろう。

築くのに十年、百年かかる信用も暖簾も、失うときは一夜にして無くすのだと今さらに気付いていることであろう。 まさに九仞の功を一簣に虧くのである。

ブラックタイガー偽装事件に関して、小田嶋隆氏は「偽装は倫理ではなく思想である。」と喝破している。 赤信号みんなで渡れば怖くないとも云えるし、10km未満の速度超過は違反とは見なされないとも云えるのである。

 

 

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