鑑定士残日録

最近の鄙からの発信が、鑑定評価関連の記事を掲載することは稀であった。業界から隠退して既に五年、鑑定評価の実態についても日毎に疎くなり、今や見当違いや的外れの着想も多いことであろうと思われるからである。 また不動産鑑定評価の実態も大きく変化していることであろうし、技術的なことはもう判らなくなってもいるだろうと考えるからである。しかしながら、鄙からの発信を始めた当初の目的は、不動産鑑定評価について物申すことにあった。また鑑定評価に関わる職業人の基本的な姿勢というものにそれほど大きな変化はないであろうとも考えるのである。 そこで鑑定士残日録と題する記事なのである。

残日録と称する由縁は、日暮れかかり夕闇が近くなったとはいえ、まだしばらくは残照のなかにあるだろう茫猿が、来し方行く末を憶って自らの備忘録として記さんと考えるからである。 だから残日録でも残照録でも、あるいは墓碑録でも逢魔時録でもかまわないのであるが、夕映えに遠吠えする茫猿の問わず語りであるとすれば残日録がふさわしいと考えるのである。

この残日録をもって斯界の誰彼に何かを語ろうというのではない。それよりも孫が成長したいつかの時に、祖父が四十年以上を過ごした不動産鑑定士という職業に、祖父はどう向き合おうとしたのか、なにを背骨としようとしていたのかを語っておきたいのである。 いわば茫猿が語る「息子たちへ そして孫たちへ」なのである。

1999年1月に「鄙からの発信」を開始した時の二番目の記事は「PCは万能か」である。この記事で、茫猿は計算機能としてのパソコンは評価しても、その計算やシミュレーション の基礎とするデータの質と量を問うている。そして土地情報の基盤整備の重要性を唱えている。 翌三月にはその延長線として「土地センサス事業実施の提案」を記事にしている。 それは、「コンピュータ・ネットワークの構築」提案にもつながっている。

同じ頃に「鑑定士の勘違い二つ」と題する記事も掲載している。自由業といわれる専門職業家としての鑑定士ではあるが、不動産鑑定評価 の基礎とする資料の収集・整理・分析には鑑定士相互の恊働作業が不可欠であり、自主独立・自尊独自を標榜するあまりに組織的活動をないがしろにしては鑑定評価そのものが成り立たないことを指摘している。

もう一点は、「価格・賃料情報」にこだわりすぎて、「価格の無い取引情報は無価値、賃料の無い賃貸情報は無価値」とする風潮に異議を申し立てているのである。取引価格情報の背景にある多数の取引情報から得られるであろう多くの情報の意味や価値の重要さを示唆しているのである。いわばマスデータの重要性といってもよかろう。

それらを集約したのが、1999年4月の「業界ネットワー整備」、「土地情報収集体勢の整備」、そして「地理情報システム導入」という三つの提唱なのである。 《当時の配布物は  070923senkyo  である。》

茫猿は「鑑定士たるべき者は説明責任を如何に果たすかが問われる。」と常に考えている。鑑定評価の結論に至った証拠の明示、論理性の提示がとても重要なのであり、鑑定士が社会の信頼を得るためには鑑定士自身の《人間の生活と活動の基盤である不動産に向き合う》哲学が問われていると考えている。 鑑定士残日録は1999年以来語り続けてきたこれらの事柄について、改めて語ってゆこうと考えているのである。

何処まで語り続けられるのか、意味有ることを語り得るのか、それは判らない。というよりも、そんなことはどうでもよいのである。それよりも四半世紀にわたって茫猿が語り続けてきたこと、いわば「雀百まで踊り忘れず」に言い続けてきたことを縁者に書き残しておきたいだけのことである。

思えば四半世紀以上にわたって、茫猿は同じことを言い続けてきたように思う。この四半世紀のあいだにパソコンもインターネットも大きく変貌し発展した、鑑定業界を取り巻く環境も大きく変化した。不動産市場はデジタル化し、更地市場から建物土地市場へマンション市場へと変化し、JREITも拡大を続けている。 少子高齢化に伴う社会環境も様変わりに近い状況である。世代間格差、都市と地方格差、富める者と富まざる者の格差も広がる一方である。その変化のなかで不動産鑑定評価 は何処へ向かおうとするのか、向かうべきなのかまで語り得るとすれば、将に望外であるが、それは望み得ないことでもあろう。 今にして思えば、鄙からの発信とは地方から都市への語りかけでもあった。 いずれにせよ、鑑定士残日録は綴り始めるのである。

茅庭に自生する熊笹《正月飾りに使われる》採取の謝礼に今年も葉牡丹が届けられた。紅い実を付ける万年青(おもと)、同じく万両と合わせて迎春準備の一つが整った。《どういうわけなのか不思議なことに、この暮れは千両が一つも実を付けていない。》IMG_0734

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