残日録- 続びわ湖会議Ⅱ

続びわ湖会議のメインテーマは「DIサミット2015」であるが、提示されるもう一つのテーマは「DI調査を切り口として、不動産鑑定士の社会的責任《 appraiser’s  social  responsibility 》と信頼関係の構築《 public  relations 》」であった。

不動産鑑定士のASRとPR《一方的な広報ではなく、双方向性をもつ戦略的コミュニケーションプロセスを云う》について、三方善し《会議の開催地に伝わる近江商人の三方善し精神、すなわち売り手よし、買い手よし、世間よしの精神である。》の観点から語ろうというのである。 鑑定評価と云うスキルを持つ者の無償奉仕の話ではなく、ビジネスとして成り立ち、世に貢献できる話を語ろうというのである。

この第二のテーマに関連して六つの課題毎に分科会が構成され、会議参加者の全員が六分科会に分かれて討議を行った。 なお、DI調査に関しては、DI実施士協会並びに実施準備中士協会を代表する参加者が第一分科会を構成して、現状における情報交換と今後強調して取り組むべき事項について議論を深め、DIサミットとしての合意が模索された。

不動産鑑定士の社会的責任と信頼関係の構築に関して構成された六つの分科会テーマは以下のとおりである。
・世の中から信頼される業界を目指して《自浄作用ある業界・団体へ》
・2025年の不動産鑑定士像を描く《十年後の社会における鑑定士の存在》
・鑑定評価と価格査定の棲み分けを考える《巷に流布する価格査定書を論じる》
・政策提言・公的評価のあり方《公的評価の原点に返って》
・士業連携のビジネススキームについて《関連士業との連携モデル》
・コンサル分野で輝くには《不動産鑑定評価法第三条2項業務について》

各分科会の討議結果は分科会ファシリテーターから総括報告が行われたが、その内容については近いうちに主催者から総括報告が公表されるであろうから、ここではふれない。

特段の配属希望を持たなかった筆者が配属された分科会は「コンサル分野で輝くには」をテーマとする第七分科会であった。これは不動産の鑑定評価に関する法律第三条2項に記載される業務「不動産鑑定士の名称を用いて、不動産の客観的価値に作用する諸要因に関して調査若しくは分析を行い、又は不動産の利用、取引若しくは投資に関する相談に応じることを業とすることができる。」について如何にビジネスとして確立できるかを論議しようと云うのである。

第七分科会では近江産品を盛り込んだ昼食弁当を食しながらの自己紹介に始まり、様々な意見交換が行われた。 鑑定評価をベースとしつつも、それを超えたところに国民の期待(ASR:Appraiser’s  Social  Responsibility )が存在するという論点から、三条2項ビジネスの確立(PR:Public Relations )を目指す議論が展開されたのである。

ファシリテーターを務められた高平氏にとっては、とても難しい舵取りが求められたのであろうと思われる。なぜならば、「コンサル分野で輝くために」と云う時に、信頼される業界でなければならず、目指す将来像が確かなものでなければならず、流布している価格査定書の実態が的確に把握されねばならず、公的評価の存在感が確かなものでなければならず、士業連携の比重が高まっていなければならないからである。 それらのいずれもが確かなものであり、存在感が高まっていればこそ、鑑定士はコンサルタントとして輝くことであろうと容易に考えつくことである。

だから議論は拡散し易いのであり、110分という限られた時間の中で集約までゆかなくとも方向性を保った討議を維持するという難しい役割がファシリテーターに求められたのである。 前回会議においてもファシリテーターを務められた高平氏は、この難しい役回りを的確にお務めになったと、今振り返っても思わされている。

具体例に基づくビジネスモデル構築論と原則論が交錯するなかで、地域毎に、個々の鑑定士が置かれた様々な背景毎に、分科会討議は時に拡散しそもそも論の応酬もあった。コンサルタントとして輝くということは、鑑定士として輝くということでもある。

不動産取引業界では宅地建物取引士なる名称資格が2015.04.01よりスタートし、不動産流通近代化センターが作成する価格査定マニュアルも公開されている。然れども、不動産価格査定書なるものの現物を見たことも無い鑑定士が意外に多いというのが現実でもある。鑑定評価と価格査定の棲み分けを考えようと云う時に、論議の対象たる価格査定の実態を知らないというのでは、話の進めようもない。

法三条2項は鑑定評価の処理計画を骨格として、その派生的分野を示していると読むこともできるのであり、別の表現をすれば鑑定評価の前置業務という側面及び後置業務という側面と言い換えることもできよう。 持ちかけられた依頼業務が鑑定評価には馴染まないもの、鑑定評価には至らないもの、鑑定評価の範疇を超えるものがある場合に、それらをビジネスとして成り立たせる上で欠かせないものは「鑑定評価の処理計画」であろうと考えられるのである。 後置業務としては鑑定評価書交付後におけるフォローアップも欠かせないことである。

鑑定評価書が依頼者にとって真に役立つものと成り得るためには、或は鑑定評価に至らない場合であっても、フォローアップが欠かせないことであり、依頼者の抱える事案が完了する過程には多くのコンサルタントビジネスが存在することであろう。

何よりも、それら派生業務や周辺業務の依頼あるいは相談を持ちかけられる上で、鑑定士として信頼され輝いていなければあり得ないことである。茫猿の鑑定士人生を振り返ってみても、茫猿が鑑定士であればこそ「こんな相談を受けてもらえるだろうか」とか、「こんな場合はどうしたら良いだろうか、智慧を借りたい」などという話が日常的に持ちかけられたものである。

それらの問いかけに対して、相談業務として簡単なリポートを交付した時もあれば、調査報告書を交付した時もある。時には予算的な関係から鑑定評価書の付随事項として別冊意見書を交付する場合もあった。ビジネス形態は鑑定評価業務であるがその中核業務は意見書作成業務という場合もあったのである。

コンサルタントとして輝くということは、とりもなおさず鑑定士として輝くことであり、鑑定士自らが存在する社会《世間》のなかで的確に認知される存在であらねばならないと考えられる。 その為には鑑定士と云う枠や鑑定評価業務という役割に閉じこもることなく、地域社会における接点を増やしてゆくことが大事なことであろうと思われる。

ロータリークラブやライオンズクラブ、あるいは法人会や商工会議所などの様々な地域活動に積極的に参加してゆくことが求められるのであろう。地味であり一見無縁にも見える自治会や寺社関係役員活動もあながちに敬遠しないということも大切であろう。個々人の社会活動参加が道を開くとも言い得るのである。 忘れてはならないことであるが、如何なる場合にも鑑定士としての能力向上並びに間口の広さと柔軟性こそが、それらを確かなものとしてゆくであろうということである。

討議の終盤には、コンサルタント業務をビジネスモデルとして確立してゆく上で、必須事項である「コンサル報酬」が話題として取り上げられた。どのようにコンサル報酬を積算し請求したら良かろうかというのである。報酬請求が至難な場合は如何に対処すべきかとも話題となった。

コンサル報酬とは、自らの日給を的確に正当に意識すること、把握することから始まると考えられるのである。自ら決めれば良いとは云いながらも、是認される正当妥当な報酬請求でなければならず、それは自らの業務活動対価を的確に把握することから始まるのであろうし、価値ある業務活動であらねばなるまいと考えられる。

【追記 DI調査について】

DI調査の調査対象サンプリング、集計分析手法等についての統一的マニュアルを検討する上で、最も良く知られているDI調査である日銀短観が参考となるであろう。

「日銀短観(全国企業短期経済観測調査)」の解説《引用》
1. 調査の目的
短観は、統計法(平成19年法律第53号)に基づいて日本銀行が行う統計調査であり、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的としている。
2. 調査方法
所定の調査表による郵送およびオンライン調査。なお、統計法の規定により、日本銀行に対し、調査対象企業から回答を受けた秘密事項を厳正な管理によって保護すべきことが義務付けられている。
3. 調査・公表時期
毎年3、6、9、12月に調査を実施し、原則、それぞれ4月初、7月初、10月初、12月央に調査結果を公表している(公表時刻は午前8時50分)。なお、6、12月末頃に、先行き12か月間分の公表日を事前公表している。
4. 調査対象
(1)全国短観
母集団企業は、総務省の「事業所・企業統計調査」(2006年10月実施分)をベースとした、全国の資本金2千万円以上の民間企業(金融機関を除く。約21万社)。調査対象企業(標本企業)は、以下の業種別・規模別の区分毎に、統計精度等に関し一定の基準 を設け、母集団企業の中から選定している。

日銀短観に関わるこの解説をざくっと眺めただけでも、現状の不動産市況DI調査を本来のDiffusion Indexへと昇華してゆく上では、調査対象のサンプリング一つとっても越えなければならない高い峠が幾つも立ちはだかっていると思わされる。

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