祭りのあとで

びわ湖会議と云う三年に一度の「お祭り」は刺激的であり心弾むものであった。全国から琵琶湖畔に集まった多くの知友たちと歓談するのも楽しかった、斯界の将来を危惧する畏友たちに教えられ刺激されることも少なくなかった。そして今、祭りを終えて三日を経てみると、高揚した心持ちが静まるとともに異なるものが見えてくる。

資料が得られるこの五年の間に《2008年➡️2012年》、鑑定業界は如何に変わったか変わらなかったかを不動産鑑定業者事業実績より眺めてみる。
《鑑定業界の実態を業者数から眺めると》
(年次)    《2008年》     《2012年》
業者の数    3,283業者     3,249業者
鑑定士数    4,997人      4,893人
※業者数に大きな変動は認められない。鑑定士数は鑑定事務所に所属し鑑定評価業務に従事する不動産鑑定士等数である。不動産鑑定士登録者数とは異なる。
※2012年の不動産鑑定士登録者数は9,194名、うち4,893名が鑑定評価に従事している。さらにそのうち2,592名が2016年地価公示に従事する。

《鑑定士一人当たりの受取報酬額を登録業者別から見ると》
(年次)    《2007年》     《2012年》
大臣登録    14,769千円    14,612千円
知事登録     7,331千円     5,541千円
《固評評価替え年次における鑑定士一人当たりの受取報酬額》
(年次)    《2008年》     《2011年》
大臣登録    16,728千円    15,856千円
知事登録    11,155千円    10,317千円

鑑定士一人当たりの受取報酬額推移を固評評価替え時期である2008年と2011年を除いて比べると、知事登録業者所属鑑定士の報酬額減少が著しい。 固評評価替え年次を比較してみても縮小傾向にある。 なお、縮減傾向が声高に云われる知事登録業者所属鑑定士の一人当たり報酬額を詳細に見てみると、2009年に急落して以降は、2009年5,593千円、2012年5,541千円であり、弱含み傾向に止まっている。地価公示地価調査報酬額が横ばい傾向にあることを考え合わせれば、弱含み低位安定傾向にあると云えよう。ちなみに、2016年の地価公示従事鑑定士数は2,592名である。《国交省公表資料:不動産鑑定士と不動産鑑定業者の現状》 《土地情報総合ライブラリー:不動産鑑定業者》

《鑑定業界の実態を受験者数や年齢構成など人的要素から眺めると》
鑑定士試験受験者数は現行試験に改正された後、2006年には4,605人を数えたが年々減少の一途をたどり2014年には1,527人にまで減少した。合格者数も2008年の132人をピークとして減少しつつあり、2014年合格者数は84名である。

年齢構成を見れば、30歳代後半から40歳代にかけてと、60歳代前半の不動産鑑定士の人数が比較的多い。(2012.03.31現在のデータ、国交省・不動産鑑定士と不動産鑑定業者の現状より)団塊世代後期の人たちが一斉リタイアした後の業界はさらに縮小するであろうと予想される。2015年現在では、66歳の鑑定士が270人強を数えて最大値を占めていると推定される。

不動産鑑定業者に所属する不動産鑑定士等は、10年前と比較して164名増加している。  なお、平成24年1月1日現在で不動産鑑定業者に所属する不動産鑑定士等(4,968名)は、不動産鑑定士等名簿への登録者数(9,194名)の約54%になっている。したがって、前記年齢構成が不動産鑑定士業者に所属する実働鑑定士の年齢構成とは必ずしも一致しない。特に若年齢層においては資格を眠らせている割合も大きいだろうと推量できる。

一事務所平均で七百万円前後を数える知事登録業者報酬についてみても、業務経費を考量してみれば、決して楽な経営状況とは云えないであろう。《地価公示と地価調査報酬は以上の金額には含まれないし、三年毎に生じる固評評価替え報酬の増加も併せて考えれば、少なからぬ自宅開業事務所の経営はさほど厳しくはないかもしれない。》

《業界の動向》
以上、報酬面からと人的構成要因の両面から不動産鑑定業界をざくっと眺めてみた感想は、世上に言われるほどの縮減傾向にあるとは思えない。バブル期のことを思えば、縮小した業界ではあるが、その間に鑑定業法第三条2項業務も徐々に拡大する傾向もあるし、公的評価を中心とする年毎に用意される業務量は安定的に推移しているとみられる。

いま業界を覆っている閉塞感は、特に知事登録業者において2009年に急落して以降、今後五年、十年後の業容拡大が楽観できないことや、公的評価のデジタル化が進むことにより、個々の鑑定士の創意工夫や資質格差を地価公示等成果物に容易には反映できない窮屈さがもたらしているのではなかろうか。

それだからこそ、個々の鑑定士の資質格差が如実に現れ、個々の努力が報われ易い鑑定業法第三条2項業務が、鑑定士の将来を開くものとして語られるのであろう。

公的評価依存に安住することをもって良しとする少なからぬ鑑定士にしてみれば、マスデータ解析につながる事例調査のさらなる充足も、地理情報の充実も、三条2項業務への組織的取り組みも、見返りの乏しい余計な負担に思えるであろうことが頷けるのである。

そんなことを考えていれば、閉塞感や低位安定状況を打ち破る為の組織的対応を、士協会新役員諸氏に求める気にはならないのである。労多くして得るものが乏しい、否、なにがしかでも得るものがあれば救われようが、負担と批判ばかりを受ける活動を促す気にはなれないのである。

では、どうするかといえば、個々の努力精進、志を同じくする鑑定士のグループ的対応、そして可能であれば所属士協会による組織的対応、さらには士協会連合を模索しても良いであろうと考えるのである。 つまりは隗より始めよなのであり、その際の出発点は個々の精進であり努力であり、鑑定士仲間を増やすことよりも、異業種や業際人仲間を増やすことに努力した方が道は拓けるのであろうと申せば、やはり茫猿孤愁なのでしょうか。

さて、このあとに書き加えた捨て台詞めいた何行かを消した後に考えた。隠退した身としては、 言揚げも程々にしておくべきだろう。それにしても、自分が現役であれば、何を考えるだろうか、どのような行動を選択するであろうかと考えた。

DI調査に関して云えば、その調査は公益性の高い事業であり、鑑定士の存在感を増すことに役立つであろう。でもそれだけではない。調査成果だけでなく調査を充実させる過程から得るものも自分の鑑定評価の深みを増すことであろう。サンプリングを的確に行うことが必要である以上、納得でき得る努力を払おうともするだろう。

でも他者にそれを求めることはないだろうと考えた。可能な限りの範囲で納得するだろうと考えたと付け加えれば、格好をつけ過ぎか。DSC08537風のない日は、梅香が濃い。紅梅は彩り鮮やかだが香りは薄い。その白梅の香りをききながら畑を耕すも結構なことである。

 

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