潮目は変わるか

民主党の迷走に助けられ、民主党野田政権の右振れなどは大きく凌駕する清和会及び青嵐会由来の右旋回で、2012年総選挙に大勝利し政権に復帰した安倍総理は2013年参議院選挙にも勝利した。

そして2020年東京五輪を招致し、特定秘密保護法を制定し、普天間基地の辺野古移転を押し進め、アベノミクスによる金融超緩和と円安誘導を背景に消費税先送りを掲げて2014年アベノミクス解散総選挙《茫猿は自公圧勝予測:争点隠し選挙  投稿日:  と名付けた》にも勝利して、集団的自衛権を容認する切れ目の無い安全保障法制整備法案を強力に性急に押し進めている。 ところが再登場以来上げ潮ばかりだった安倍総理総裁の潮目が変わる兆しを見せ始めている。

個別自衛に限定し専守防衛に邁進する日本と自衛隊を、解釈改憲という禁じ手により、集団的自衛権行使を認めさせ自衛隊の海外派遣《派兵》に道を開こうとする。 「切れ目の無い安全保障法制」は戦争法制法案に道を開くものであり、海外派兵への地ならしを潜めるものであろう。なぜならば、如何なる場合にも「攻撃は最大の防御」と論じる人たちが存在する。 安倍総理も防衛省も外務省もホルムズ海峡をはじめとするマラッカ海峡以西のシーレーン防備など考えてもいないだろうが、マラッカ海峡から日本近海に至るシーレーン防備は視野にあるだろう。東シナ海や南シナ海の波風も高いことであり、抑止力としての集団的自衛権行使もスケジュールのうちであろう。
《ワイマール憲法はナチスを生み、九条平和憲法は戦後レジュームからの脱却を標榜する政権を生み落としたのではなかろうか。 12.14の重要性   投稿日:   

そのような右旋回ばかりの潮目が変わる予感がする。

羊皮の下に狼牙を隠す積極的平和主義の目くらまし、武力行使と武器使用の違い、戦闘地域と後方支援地域の違い、ホルムズ海峡機雷掃海の是非、邦人を救護する米軍艦艇の警護、後方支援と兵站作戦、ポツダム宣言を詳らかに読んでいるのか否かなどなど、一つ一つは重要であるが全体としては瑣末ともいえる事がらに忙殺されていた国会審議が変わる予感がある。瑣末議論が本質議論へ大きく舵を切ってゆく予感がある。

ポツダム宣言から始まり現在に至るのが戦後レジュームなのであり、ポツダム宣言も東京裁判も九条憲法も専守防衛も、いずれもが戦後七十年間維持してきた「日本が世界へ示す約束」なのであると考えている。 ちなみに防衛省による自衛隊の英訳は「Self-Defense Forces (SDF)」なのであり、 Armed Forces  でも Military Forceでもない。そういう七十年にも及ぶ日本国が世界に果たしてきた約束を変えてゆこうとする、なし崩しに変えてゆこうとする安倍総理の目論見が崩れ始めている予感がする。

2015.06.04開催された衆議院憲法審査会で参考人質疑にて、安全保障関連法案について、出席した3人の憲法学者がいずれも「憲法違反に当たる」という認識を示した。 自民公明次世代三党推薦の早稲田大学法学院教授:長谷部恭男氏「集団的自衛権の行使が許されることは、従来の政府見解の基本的論理の枠内では説明がつかず、法的安定性を大きく揺るがすもので憲法違反だ。自衛隊の海外での活動は、外国軍隊の武力行使と一体化するおそれも極めて強い」と述べる。

民主党推薦の慶応大学名誉教授:小林節氏「仲間の国を助けるため海外に戦争に行くことは、憲法9条に明確に違反している。また、外国軍隊への後方支援というのは日本の特殊概念であり、戦場に前から参戦せずに後ろから参戦するだけの話だ」と述る。
維新の党推薦の早稲田大学政治経済学院教授:笹田栄司氏「内閣法制局は、自民党政権と共に安全保障法制を作成し、ガラス細工と言えなくもないが、ぎりぎりのところで保ってきていた。しかし今回の関連法案は、これまでの定義を踏み越えており、憲法違反だ」と述べる。

野党推薦の参考人が反対意見を述べるのは予見されることであろうが、与党推薦参考人が政府提出法案に反対意見を述べるのは異例であろう。しかも三氏が揃って、政府提出法案を憲法違反であると述べるとは異例を通り越して前代未聞のことと云わざるを得ない。 そこには安倍政権が立憲主義の形骸化や空洞化を図ろうとする意図への批判が垣間見えるのであり、戦後民主主義が議会審議を通じて積み重ねてきた「憲法解釈や自衛隊や専守防衛」に関わる国民の合意をないがしろにしようとする底意が覗くのである。

自民党の副総裁であり与党協議の座長を務めた高村正彦氏は五日の党役員会で「憲法学者はどうしても(戦力不保持を定めた)憲法九条二項の字面に拘泥する」と反発した。

中谷元防衛大臣は「政府としては国民の命と平和な暮らしを守っていくために、憲法上、安全保障法制はどうあるべきかは、非常に国の安全にとっては重要なことだ。こういった観点で与党で議論をして、現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけば良いのかという議論を踏まえて、閣議決定をおこなった」と答えた。

谷垣禎一自民党幹事長は記者会見で「憲法学者には自衛隊の存在は違憲と言う人が多い。われわれとは基本的な立論が異なる」と反論した。
菅義偉官房長官は記者会見で「(憲法解釈を変更した)昨年七月の閣議決定は、有識者に検討いただき与党で協議を経て行った」と指摘。その上で「現在の解釈は、従来の政府見解の枠内で合理的に導き出すことができる。違憲との指摘はあたらない」と強調した。

安倍総理がサミット開催地のドイツで行った記者会見で引用した「1959年最高裁・砂川判決」なるものは、まだ戦後間もなく自衛隊も発足したばかりの頃に、東京都内の立川基地における基地拡張反対闘争に関わる判決である。 米軍駐留が違憲か合憲かが争われた違憲訴訟であり、国が自衛権を有することは認めたが、個別自衛権及び集団的自衛権論争にまで踏み込んではいない。この判決を引用して安全保障関連法案や解釈改憲手続きに違法性は無いとする論建ては、牽強付会そのものといってよいであろう。

国会の中に、まだ多少はいるであろう論旨が滑らかな論客に期待したい。ディベート上手というか論旨のすり替えや詭弁の巧みさに誤摩化されない論客の存在に期待したいのである。

もう一度云おう。 戦後レジームとは、沖縄戦や広島長崎、東京空襲、太平洋の島々で、中国大陸で、ビルマ戦線で倒れた数多くの人々の骸《むくろ》の上に築かれたものである。その後七十年間にわって紆余曲折はあったものの、正面切って砲火を交えること無く戦争に参加すること無く平和を維持してきた日本である。これを軽々しく「平和呆け」などと揶揄すること勿れと念ずるのである。

あと十日もすれば、梅雨晴れの日には摘み取れるだろう、三年目にして実りが多そうなブルーベリー。20150610BLUEBERRY

こちらは二年目の木いちご《ブラックベリー》。20150610KIICHIGO

今日から、独サミットから帰国した安倍総理を迎えて国会審議が再開する。「一部の学者諸氏の違憲と云う見解は承知するが、政府見解は合憲である。」という論争にもならない論理、「総理が合憲と云うから合憲なのだ。」、「非戦闘地域と認めるから非戦闘地域なのだ。」などという強弁を冷静に論破する野党議員の出現が待たれる。

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