刑事フォイル

「刑事フォイル」は、荒唐無稽なスジ立てで後半は無惨になった奇皇后の後継番組として、先週日曜日からの新番組である。 舞台は、第二次世界大戦さなかのイギリス南部、ドーバー海峡に面した美しい町ヘイスティングズ。この小さな町に忍び寄る戦争の影。戦時下だからこその悲しい殺人事件や犯罪を生む…。

警視正・フォイルは、一人の人間としてゆるぎない信念を持ち、次々と起こる事件に真摯に立ち向う! ドラマの中では、戦争の悲惨や不条理も生々しく描き、これまでの刑事ドラマとはまったく異なる奥行きを持った作品として、イギリスでロングランのヒットシリーズとなった。《以上、NHK番組紹介サイトよりの引用》

刑事フォイル《日曜21:00、全28回》は、久々に見る骨太の刑事ドラマである。第一回と第二回を見ただけだから即断は禁物だが、二回を見た限りにおいては正統派かつ重厚な刑事ドラマである。溢れている刑事ドラマのような派手なアクションやカーチェイスなどは無い。pic_intro02

第二次大戦下のイギリス田舎町の警察署に勤める主人公は妻に先立たれ、息子は従軍中の独り暮らしである。戦時下でも事件は起きる。ナチスドイツと戦争中であるが故に、戦争を反映した事件が起きる。

戦時下で人手不足な警察署で単独捜査を続けていたフォイルに、陸軍輸送部隊出身の女性サムが専属運転手として配属されてくる。警察官ではない彼女が捜査に首を突っ込むことは許されないが、微妙に気の利いた働きをして彼を助けるのである。フォイルもまた、そんな彼女を優しく見守っている。

彼の元部下で従軍中に負傷して、片脚を失ったポールが復員してきた。希望をなくしているポールに主人公は、「隻脚でもできる警官業務はある」と励まし、警察に復職させ、隻脚ポールに女性運転手のサムとトリオを組んで事件解決に向かってゆく。

前編後編に分けて放送された最初の事件は、敵国ドイツ出身である地元有力者の妻が殺されたことから始まる。戦争が始まったからには敵国ドイツ出身者は収容所に隔離されるか、ドーバー海峡沿岸部から内陸部への移住が義務づけられるにもかかわらず、以前と変わりない暮らしを続けていた。その彼女が殺されたのである。

彼女が収容所送りにならずに自由を得ているのは、有力者の妻だったからか、その審査に上司の警察署長や主治医は手心を加えてはいないのか。殺された被害者とは義理の仲になり相続問題が絡む有力者の娘、その婚約者は陸軍諜報部に勤めている。

事件の大詰め近くで、主人公の警視フォイルは上司の警察署長にも被害者の夫である地元有力者にもおもねることなく、捜査を貫いてゆく。 戦争を遂行し勝利を得ると云う「大義」の前では、敵国出身者の殺人などは些末な小義と片付けようという圧力が彼にかかるのである。

しかしフォイルは、大義の前の小義だと言わずに、敵国ドイツ人でも殺人は殺人なのだと言う。ドイツ出身者だから殺されてもいいと言うのであれば、ナチスと同じことだと撥ね付けて、真相に近づいてゆく。

イギリスらしいといえば、らしい重厚なドラマである。原題は「Foyle’s War」である。「フォイルのいくさ」とでも訳そうか。 戦時下に独り信念を貫いてゆく中年ヤモメ男の重厚なドラマであるし、推理ドラマとしても簡単には底が割れない巧みさを備えている。「戦時下でも殺人は起きる」というテーマのもと、渋い魅力があふれる主人公フォイルの、戦争と謎解きと人間愛が交差する、秋の夜長にふさわしいドラマである。

《蛇足》BSのドラマやドキュメンタリーはダイレクトに見るよりも、録画してみることが多い。ダイレクトに見る場合でもバックで録画を続けている。 トイレタイムやちょっとした用をたすのに便利であるし、何よりも見逃し聞き逃した時に困らないのである。

朝ドラや民放バラエティーであれば、流し視聴でいっこうに構わないが、「刑事フォイル」では、ふと挟まれる一言を聞き逃せば、推理の筋道が追えなくなってしまう。先号で記事にした「映像の世紀」であれば、挿入される字幕を見逃すと場面展開が理解できなくなってしまうのである。そんな時にはバックラウンドの録画がおおいに助けになる。

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