越南紀行−7

本日はメコンデルタとメコンデルタの真ん中で投宿した農家民宿について語ろう。ホーチミン市内を流れるサイゴン川も結構な大河であるが、メコン河はチベット高原に源流を発し、中国の雲南省を通り、ミャンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境、カンボジア・ベトナムを通り南シナ海に抜ける。典型的な国際河川の一つである。

メコンデルタは、55000k㎡の面積に1800万人の人口を抱える広大な地域である。ベトナム語ではこれらの流れをまとめてソン・クー・ロン、すなわち九龍川と呼ぶが、これはメコンが9つの流れ、9匹の龍になって南シナ海に注ぎ込むと考えられていたからであった。

『メコンデルタと民宿』
20日から21日にかけては、メコンデルタクルーズと川中島の民宿宿泊である。
早朝6時にAnan Hotelに迎えにきたチャーター・カーに茫猿ファミリー一行は乗車し、途中で買い求めた朝食バインミーを食しながら、高速道路と一般道路を約2時間強も走るのである。

走りっ放しは疲れるから、途中で休もうとするのだが、適当な休憩施設が見当たらないのである。高速道路にサービスエリアは無いし、一般道にも女性や幼児が利用できそうなドライブインは少ないのである。女性と幼児にとってはトイレがそこそこ整っていることが求められるが、市内でも場末に行けば柄杓で水を流すスタイルのトイレが未だ多いのである。

そこで立ち寄った休憩施設が此処である。ずらりとハンモックが並んでいる。聞けば通行するバイク利用者が昼食兼休憩するのだそうである。立ち寄った時は朝九時前だから休憩しているのは我々だけだったが、昼近くになればこのハンモックが一杯になるそうだ。この手の施設は沿道の随所で見かけた。《ここのトイレも水洗ではあるけれど、柄杓で水を流すスタイルであった。》7015hanmoc

チャーターカーは10時前にメコン河畔の川港があるカイベー市に到着し、トイレ休憩の後、チャーター船に乗り込むのである。チャーター船は想像していたよりも大きく、最大三十人程度は乗船できそうな船だった。船は椅子席だけでなく中央は板の間に茣蓙を敷いてあった。椅子そのものが並べてあるだけで固定されているわけではない。またトイレも設備されている。ドライバーとガイドが乗船しており、茣蓙の中央にはテーブルが置かれてウエルカムフルーツが飾られていた。20150920sennai7015welcome

船はメコン河に進み出してゆくのであるが、デルタ地帯のメコン河にいわゆる本流と云うのは無い。多くの支流に分岐していて、分岐したまま多くの川中島を形成して南シナ海に流れ込んでゆくのである。川中島と云っても小さなものではない、詳しいデータの持ち合わせは無いが、学校やマーケットも存在する町や村が存在できる大きさなのである。茫猿たちがどんな航路を辿ったのか、今も判らないけれど、以下の写真は全てデルタ川中島である。今でも橋は少なく渡し船や主にバイクと人を乗せるフェリーが活躍している。立派な教会が見える町もある。7015mecon

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メコンクルーズは途中で小舟に乗り変えて、迷路のような水路を体験するのである。小舟は二人〜三人乗りで中年のおばさんが、交差させている二本の櫓を器用に扱って漕いでくれる。7015kobune

朝食のレバーペースト入りのバインミーが口に合わなくて吐いてしまい、船で横になっていた家人に付き添っていたから茫猿はこの小舟ツアーは体験していない。その代わりに、一行が水路から出てくるところを待ち構えて貴重な写真を撮ることができた。

彼等は途中で昼食を摂ったりしていたから、親船で待つこと約二時間もあったろうか、その間は静かなメコン河船上で風に吹かれ、行き交う船のエンジン音を聞き、時にガイドさんにあれやこれやを尋ねたりして、のんびりと過ごしたのである。

船は午後四時前に、宿泊場所の私設停船場に着くのである。小さな桟橋を上がって迎えられた民宿は部屋数七つか八つくらいのこじんまりした宿である。それでもシャワールーム・トイレが付き、各部屋にはベッドが4個設けられていた。我々は三家族に別れて投宿するのである。写真は宿のテラスと中庭である。翌朝の朝食はこのテラス席でいただいた。
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各部屋のベッドには蚊帳が設えてあった。デルタ地帯だから蚊や羽虫が多いからそれに備えてのことであろう。祖父母たちだって蚊帳は未体験か、体験していても数十年以上も前の子どもの頃のことである。若夫婦と孫娘は初体験であるから、孫娘は蚊帳にはしゃいでいた。私はこんなこともあろうかと、農作業時に携帯する蚊取り線香を持参していたから、早速に点火して窓際に下げておいた。蚊帳と蚊取り線香のおかげで蚊の被害には誰もあわなかった。7015kaya

夕食は蛍狩りと合わせて船上デイナーだった。蛍は最盛期を過ぎていたから、その数は少なかったが、それでも船の明かりを消すと、木陰に光る数匹のメコン蛍を見ることが出来た。写真は夕食のメインデイッシュ・エレファントイヤーフィッシュ《象耳魚》の唐揚げである。この魚をナイフフォークときに手でむしり取って、野菜とあわせてライスペーパーに巻いて食べるのである。いわば、生春巻きの大型版みたいなものである。魚の大きさは隣の幼児と較べればお判りいただけよう。旨い料理であったけれど、他にも揚げ春巻き、鶏の唐揚げなどがあったし、ベトナム焼酎がとても旨かったから、茫猿は一巻き以上は食していない。7015dinar

翌朝は民宿テラスで、バケットパン、ベトナムコーヒー、オムレツの簡素だけれど旨い朝食を頂いた。デザートは外郎のような米蒸し物とたっぷりのフルーツで、満腹した。朝食後に一行はヴィンロン市に渡り、マーケットを見学するのである。《民宿の朝食》3015mekondelta

幾つかの市場の路上販売を見ていて思ったことがある。最初は路上の一籠売りから始まり、販売品の入った籠の数を二つ、三つに増やしてゆく、《たぶん場所代などの関係があるのだろう》、それからテントのある路上店舗に昇格し、さらには屋根と水道の整備された屋内販売店舗に昇格してゆくという過程を辿ってゆくのではなかろうか。棹売りから始めて一軒を構えるまでと云う話である。20150921ischiba

途上国のエネルギーは、こういったサクセス・ストーリーが随所に溢れていることに源があるのではと思うのである。頑張れば報われる経過が、誰にでも目の前にあるという現実が、人々のヤル気を喚起させるのであろう。7015market

一行は高速道路でホーチミン市内に戻り、フォーの昼食をいただき、マジェステイック・サイゴン・ホテルに投宿するのである。荷物を片付ける間もなく婦人御一行は町歩き買い物ツアーにお出かけである。 買い物に付き合っても退屈で邪魔者になるだけの茫猿は、ひとり町中歩きをするのである。

この日の夕食はホテルのレストランで、生春巻き、揚げ春巻き、鶏の唐揚げ、野菜の炒め物、炒飯などであった。生春巻きはそれほど旨いとは思わなかったが、揚げ春巻きと鶏の唐揚げは旨かった。

この時に一悶着があった。この頃は味噌汁も煮物も薄味の調理生活をしている茫猿たち老夫婦は、出された料理に薄い下味が付いていることと素材の旨味が判ることから、小皿に添えられている辛いものや濃厚な地元調味ソースは不要なのである。 何もつけずに食しているのが不審だったのか不満を表わしていると思ったのか、息子が「郷に入っては郷に従えと云うではないですか。地元調味ソースを付けて食べてみなさい。旨いですよ。」というのである。

些か憮然とした茫猿は、「薄味が好きだから。」と、それでも何も付けずに食していたら、さらに追い打ちをかけるように「肩肘張らずに、気楽に食べて。」と言うではないか。憮然を通り越して、「俺は俺の流儀がある、どのように食べようと俺の勝手だ。」と言いそうになったが、一行の気分を考えて黙々と食べ飲んでいた。

ツアコンの説明に従って、地元流儀を味わってほしいと云う彼の気持ちも判らないではないが、香辛料の強い地元調味料が口に合わなくて吐いた母親のことも考えろと内心思っていたのである。気分を害した茫猿は、まだまだビールを追加して盛り上がっている一行をレストランに残し、独り酔いが廻ったからと部屋に帰った。部屋に帰りながらも、飲み直したくてホテル階上のメインバーに行くのである。

メインバーはサイゴン川に向かって解放された店内であった。八階にあるメインバーは、室内と屋外とのあいだにガラス窓も仕切りネットもなく、店内に川風が流れ込んでくる。日本では考えられないことである。酔客が下を覗き込んで転落したり、酔った勢いで飛び降り自殺も可能なのである。危険防止よりも見晴らしや川風の雰囲気を楽しむことを優先しているようである。《北風が吹き抜く寒い季節が無いせいでもあろうが。》7015bar

バーでは、茫猿お決まりのソルテイードッグを注文し、チーズを肴に三杯ほど呑んだだろうか。この日も家人の迷惑を余所に高いびきであったろう。《本人は自覚していないが、家人の恨みつらみを聞けばのことである。》

実はアリバイ工作を兼ねて、家人をバーに呼び寄せたのである。カップルの多い店内は孤客は茫猿だけであり、異国に侘しく呑むという風情が嫌だから、久しぶりに家人とおとなの会話を楽しもうと考えたのである。電話で最初は渋っていた一滴も呑めない家人だったが、来てみれば夜景は美しく、川風は心地よく、ラテン系の生演奏は心に響いたのであろう、ご機嫌に過ごしてくれた。これも長年の無沙汰を詫びての女房孝行のつもりなのだが、通じてくれたかどうかは、今に至るも定かでない。

 

 

 

 

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