連合会財政とインフラ整備

今や部外者となった茫猿であるから、もうどうでもよいことではある。しかしながら、2004年頃から2012年まで関わっていた事がらである。一時は深奥部で関わっていた事がらでもある。

最近、不動産鑑定士協会連合会の財政事情に付いて耳にすることがあった。多額の事例閲覧収入により、連合会の財政事情は好転し潤沢な資金を蓄えているというのである。然もありなんと思われる。

事例収集並びに閲覧事業に関わる新スキームに付いて《当時は新スキームと称していたので、便宜上本記事でも新スキームと云う。》、2010年頃から2013年にかけて連合会では侃々諤々、喧々囂々の議論が行われていた。

事例の閲覧料を低額・全国一律にし、同時にオンライン閲覧を導入して守秘義務に関わる安全性を担保しようと云う執行部提案があった。 これに対して単位士協会の閲覧収入を連合会に巻き上げる提案であり反対とか、オンライン閲覧などもってのほかであり士協会事務局窓口における閲覧を堅持すべきだ等という強硬な反対意見が渦巻いていた。《このあたりの事情は、当時の「鄙からの発信」記事に詳しい。”タグ・センサス”或は”新スキーム・検索”にて検索可能。》

その当時というより、この問題に関しての茫猿の提案は当初から最もラジカルであり、一貫していた。 安全性の面からも、利便性の面からも、鑑定評価のインフラ構築と云った面からも、全面オンライン閲覧に移行し全会員一律サービスに移行すべきであると、機会ある毎に提案していた。また、連合会並びに単位士協会の財務改善の面からも、オンライン閲覧に移行すべしと提案していた。

2011年当時に予想された閲覧料総額は、当時の士協会閲覧実績約74万件、新スキーム負担金《会員が負担するアンケート郵送費》及びシステム維持費合計約2億5千万円という経費総額をまかなう観点から試算すれば、1件あたり約300円と見込まれるが、閲覧件数の減少やシステム構築費の償却等を勘案すれば、 500円前後が相当と予想していた。 閲覧料総額は500円×740,000件=3億7千万円と見込み、収支差額1億2千万円を士協会と連合会で配分すればよいとも考えていた。《2012.10.25 「鄙からの発信」記事より》

この予想収支は控えめなものであり、全国オンライン閲覧に移行すれば閲覧件数並びに閲覧収入は大きく伸びるであろうとも予想していた。全国各地の単位士協会窓口まで出向く時間と旅費の閲覧会員負担が無くなることや、閲覧料が大幅に低額になることから閲覧件数も相当に伸びるであろうと予想していた。《当時の閲覧料は高額であり閲覧件数制限も付加されていた。なかには閲覧一件あたり5千円を越える例もあった。》

何よりも鑑定評価の基礎である取引事例資料は豊富でなければならないと考えていた。豊富な事例資料を基礎とすることが、鑑定評価の精度向上に寄与するとも考えていた。

連合会HPに公表されている連合会総会資料に依れば、
A.平成 25 年度 正味財産増減計算書(H 25. 4.1 からH 26. 3. 31まで)
収益計上される 閲覧事業収益 794,711,985
事業費計上される 支払助成金 111,367,200 、支払負担金 76,560,000
収支差額 606,784,785 円 (注)

B.平成 26 年度 正味財産増減計算書(H 26. 4.1 からH 27. 3. 31まで)
収益計上される 閲覧事業収益 714,987,655
事業費計上される 支払助成金 234,643,200 、支払負担金 190,144,800
収支差額 290,199,655円 (注)

(注)支払い助成金は単位士協会の閲覧収入減少に対応する士協会財政助成金であろうと推定される。支払い負担金はアンケート発送郵送費であろうと推定される。閲覧事業収益、支払い助成金、支払い負担金のいずれの科目も平成24年度には計上がなく、平成25年度からの新規計上科目である。 助成金・負担金ともに平成26年度は前年度に比較して大幅に増額しているが、収支差額が予想以上に多額であることから士協会助成を増やしたのであろう。支払い負担金が倍増している経緯は不明である。《収支差額が正確であるか否かの検証手段を茫猿は持たないけれど、そんなに的外れではなかろうと考えている。》

(注2)閲覧事業に関わる会計区分について、総会資料は次のように説明している。
公益目的事業会計【公 4】国土交通省の不動産取引価格情報提供制度に係る支援及び普及促進並びに収集した情報の利活用等に関する事業。

連合会事業収益 882,032,774 のうち、81%強を占めるのが閲覧事業収益であり、2億9千万円を超える収支差額を連合会にもたらしている閲覧事業なのである。しかしながら、現在でも単位士協会会員以外の他士協会会員は士協会窓口での閲覧を強いられていると伺っている。未だに全国オンライン閲覧は実施されていないのである。

事例資料と云うものは日々コモディティ化し陳腐化するものと、茫猿は今でも考えている。また鑑定評価の精度向上に、豊富な事例資料は必要欠くべからざるものであり、全国オンライン閲覧の便宜を図り利便性を向上させることが公益性にも叶うものと考えている。さらにオンライン閲覧の実施は、必然的に閲覧件数を増加させ閲覧収入を増額させるであろうとも考えている。その観点からすれば、全国オンライン閲覧の早期完全実施が期待されるのである。

最も重要なことは、閲覧事業収支差額の効果的な利用方法であり、それは事例資料の精度向上と鑑定評価の精度向上につながる事例属性データの充実であろうと考える。例えば、属性データとして、位置情報《緯度経度情報》を伴う事例写真の充実、転売等事例の時系列分析、全般的なアンケート回収率の向上、なかでも商業地関連事例の回収率向上が図られなければならないと考える。

並行して、事例調査にあたる会員鑑定士の負担軽減も図られなければならないと考える。地理情報を駆使して、多くの属性データを半ば自動的に採集するシステムも構築されなければならないであろう。地価公示等公的評価をバックアップする「コンピュータ解析」に関わる評価演算システムも開発構築されなければならないであろう。

商業地関連事例に付いては、レインズ資料等とのリンクも検討されなければならないであろうが、既にWEB上に氾濫している不動産取引市場データとの有効なリンクも研究されねばならないと考える。またオンライン閲覧それ自体の利便性向上も図られなければならないと考える。評価対象不動産現地における、スマートホーンやタブレットによるモバイル閲覧も早急に視野に入れなければならないであろう。

同時に取引事例資料に関わる地理情報の充実も早期に着手されなければならないであろう。アンケート回収データのみならず原始データも含めて、マスデータとして統計的解析や地理情報的解析が図られねばならないし、ノウハウの蓄積が待たれるのである。国土交通省が実施する不動産取引価格情報提供制度なるものは、その目標として取引価格の開示を目指すものであると云うことも留意しておかなければならないであろう。

それらの総ては、鑑定評価インフラ整備の一環であり根幹でもあろうと考えるのである。不動産鑑定評価 冬の時代を云われて久しいが、旧来型の鑑定評価にこだわる時代はとっくに終わっているのであり、鑑定評価の新しい展開を考えなければならないのである。その際において、取引市場の現場もしくは近縁に位置する不動産鑑定士が市場の現況を解明し開示してゆく存在であることが、鑑定士の存在感を高めてゆくのであろうと考える。

なによりも肝心なことは、不動産取引価格情報提供制度に係る取引事例なるものは、その根幹において鑑定業界の資産ではなく国民の資産であると云うことである。属性データを付加するのは不動産鑑定士ではあるが、それも地価公示等業務の一環としての結果なのである。不動産鑑定評価 の基礎資料として利活用するのと並行して、その成果を国民に還元することが国民の期待に応えることであろう。

さらに付け加えるとすれば、不動産取引価格情報提供制度による事例収集は既に七年余を経過しているのである。この間の全データを基礎とする不動産取引市場センサスの実現に向けて連合会の総力を傾ける時ではなかろうか。不動産の専門家としての視点から解析する不動産取引市場センサス事業は、鑑定士のプレゼンス向上に大きな力となるであろう。

時あたかも連合会創立五十周年である。次の五十年に向けて格調高い総論を述べることを否定しないし大切なことと考える。同時に、WEB・デジタル時代に即応した鑑定士と鑑定評価のあり方を具体的に提案し、その実現に向けて着実な一歩を踏み出すことも忘れてはならないと考えるのである。

 

 

 

 

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