学校出てから五十云年

新緑が薫る五月十二日、高校出てから五十云年、個々には顔を会わせているけれど、五名が一堂に会するのは卒業以来のこと、今や古稀を越えた仲間が集まって昼酒を酌み交わしました。

1959年春、岐阜県大垣駅近くにあった古びた木造校舎に市内をはじめ西濃各地から集った少年たちがいました。1961年春に母校は郊外の新築校舎に移転しました。今や周りを住宅に囲まれ校舎校地も見違えるほどに整えられていますが、当時は水田ばかりのなかに校舎だけがポツンと建っている新開地そのものの風景でした。

雨が降れば石ころだらけのグランドは水浸し、大垣駅までのシャトルバスを待つのも傘をさして雨風のなか、体育の授業はもっぱらグランドの草むしり、全校集会はグランドに座り込んで、昼食になにかを買い食いしようにも購買部に菓子パンがあるだけ、高度成長期を迎える前の昭和35年頃の世相そのままの高校生活でした。

高校を卒業して、関東、東海、関西のそれなりの大学に進み、様々な紆余曲折を経た挙げ句、兎にも角にも人生の老境に差し掛かった五名です。三年前に亡くなった共通の友・村北君を偲ぼうと集まりを企画したのです。当初は岐阜県の根尾谷薄墨温泉でと考えたのですが、体調がすぐれない仲間を案じて大阪府高槻市郊外で集まることにしたのです。

午前十時半に京都駅中央改札口で、東京から大垣から四日市から鄙里から集まる老人たちが待ち合わせたのです。予定の時刻近くになって構内の柱の前に立っている善佐クンを見つけた茫猿が近寄ってゆきますと、不審げな視線をしばらく見せた後に「モリシマクン?」と破顔一笑、男同士のハグです。

すると、1mも離れていない場所から、信吾クンが「オオー!」と声を挙げたのです。十分ほど前から並んで立っていたのに、互いに気づかなかったのです。確かに紅顔の美少年?も今や髪薄くシワとシミのみが増えていますから、幹事役の茫猿を探し求めていれば、横に立つ旧友に気づかなかったとしても仕方ないことです。もう一人の尭クンは構内を行きつ戻りつした挙げ句に、携帯電話で連絡が取れて再会できましたが、耳が衰えているから騒音の大きい駅構内では携帯電話が聞き取り難いというオマケ付きです。

茫猿が善佐クンを見つけたのも、彼から「十分後に到着する」とショートメールをもらって、到着や今や遅しと探していたからです。何の連絡も無かったら、インバウンド観光客と修学旅行生で雑踏を極めている京都駅構内で、彼をあんなに早く見つけることはできなかったことでしょう。

京都駅から在来線各駅停車で高槻駅に向かい、駅からはタクシーで市内の摂津峡・山水館に向かいます。詳しいことは何も伝えていませんでしたから、こんな山のなかのどんな場所へ行くのかと、途中不審げな三名も、山水館に到着してロビーで待っている英信クンに会えば一気に賑やかになります。

高校時代の悪童連といっても、今から思えば可愛いもので、サッカーや柔道あるいは水泳に明け暮れた者、雨の日も風の日も揖斐川沿いの砂利道20kmの通学に明け暮れた者たちです。 大垣城付近にあった名曲喫茶”まどか”で集団喫煙をしていて、見廻りに現われた指導教師と店内で鬼ごっこをした者たち。 卒業生を送り出す予餞会では自作自演劇を演じて大爆笑を得たこと。《1961年春浅く、二年B組予餞会出演者たち、男子クラスですからスカートをはいた女形もいます。皆の背後は旧校舎。脚本は当時流行っていた演歌”無情の夢”を下敷きにした書き下ろしでした。》20160512yosenkai

五名に共通する極め付きは、修学旅行飲酒事件です。宿の一室に入りきらないほどの生徒を集めて、持ち込んだお酒で宴会をすればバレない方が不思議と云うものです。「北高始まって以来の嘆かわしい事件」と叱られて、首謀者五名は自宅謹慎一週間という処分を受けたのです。それも半世紀を経たいまでは「青春の勲章」に思えてくるのです。

今やリタイアして、病をえて闘病する者、年ごとに口喧しくなった女房に手を焼いている者、有り余る時間を持て余してジム通いを日課とする者、時には野宿も厭わずに寺社巡りをする者、亡くなった親が養老山麓に残した旧宅の風通しに通う者、元気そうに見えても尋ねれば様々な衰えを隠せない者たちです。露天風呂に入るにしたって、一人でゆけば危なかろうと二人連れで湯に向かうお年寄りたちなのです。

三時間ほどの昼宴会でしたが、飲めた酒はビール中瓶八本、冷や酒二本だけという侘しさです。呑めない者もいるとはいえ、呑ん兵衛連の面影は今何処と勘定書を見て溜め息がでてきました。再会を約して高槻駅で別れましたが、次に会えるのはいつのことか。半世紀を一気に飛び越えることができた楽しい集いは得難く、とても有り難いものです。20160512kitakoh

日のあるうちに帰り着いた鄙里は楠の新緑がやさしく薫っていました。20160512shinryoku

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