昨今のiNet状況と鑑定評価−2

昨日掲載の「昨今のiNet状況と鑑定評価−1」の続編である。
四、今、着手したいこと
五、終わりに  を掲載する。

四、今、着手したいこと
小規模ではあるけれど、全国に展開している専門家集団でありかつ組織化されている専門家集団として取り組み可能なことがあろう。クラウドコンピューティング( cloud computing)が普及した今であればこそ取組み可能なことも多かろうと考える。

コモディティ(commodity)化が避けられない業務からの撤退縮小も視野におくべきであろうが、市場の論理は放っておいても淘汰してゆくのであろう。老退隠鑑定士でも考えられる具体的かつ直ちに取り組み可能なことを幾つか揚げてみよう。いずれも”雀百まで”論ではあるが、今でも有効であろうと考えている。

《GISと写真》
地価公示などの公的評価に従事していなくとも、鑑定士は実査現場に出て多くの写真を撮るのである。評価対象地、取引事例地、賃貸事例地、公示地や地価調査基準地などなど多くの写真を撮影する。これらの写真を士協会などが管理するクラウドサーバに撮影と同時に送ろうと云うのである。

サーバに送られてくる写真は自動的に500ピクセル四方(60KB)以下に圧縮保存する。写真の付属情報は緯度経度情報、撮影時点情報、撮影者コード情報があればよい。 昨今のスマホを用いればいずれも自動で実行される。五年もすれば有効な地域推移情報となり十年もすれば社会に問える有益な地域歴史情報となるだろう。地価公示地に添付される写真が、いつまで経っても選定時点のままというのも不思議なことである。

複合不動産の評価に際して写真が果たす効用も大きいことであろう。複合不動産取引事例にとって建物外観写真は、後に事例を精査する上で不可欠であろうし、当初作成者の判断基準を高めてゆき同時に普遍化してゆくであろう。建物写真とAIがリンクする状況を想像してみるのである。

《地域価格形成要因のデジタル化》
広域市町村合併で埋没し失われた多くのデータがある。旧市町村毎・行政区毎の人口や世帯数推移が先ず上げられるが、それらを復元可能なうちに整理保存しておくのである。結構手間ひまのかかる作業だが手分けして取り組めば実施可能であろう。人口統計以外にも取引件数や面積の年次推移、納税額、商店販売額、商工業事業所数などが上げられる。

挙げたこれらは、直ちに不動産鑑定評価 の精度向上に寄与しないが、説明責任を果たす上で有効なエビデンスとなるであろう。もっと大事なことは変化する環境を意識し理解し適応することに大きく寄与するであろうということである。

《ナレッジマネージメントの確立と向上》
SNSを垣間見ていてもROM会員が大多数を占めている現状はお寒いものがある。しかしながら、裾野の広がりを持たなければ頂きは高くならないのである。ROMの多さを嘆くよりもROMメンバーを増やすことに意を用いようではないか。

情報を個人が秘匿すれば、そこからは広がりは生まれない。独自に収集した墓地、急傾斜地、大規模画地などの特殊要因画地情報を開示して、多くの会員の利用に供し、更に類似情報の集積を図ってゆくような考え方が採用できないであろうか。DCF法における経費率などの採用数値についても同様のことが言えはしないだろうか。「多く開示する者、多く報われる」と考えるのである。

重ねて云えば、地価公示や競売評価において評価書が開示された折、鑑定士は如何に対応したのであろうか。積極的に納品書類のデジタル化及びiNet化を図ろうとしたとは寡聞にして聞き及んでいない。過剰適応は不要であるが、情報開示という環境の変化を積極的に取り込み、自らを多く開示する者へと進化させていったであろうか。

同時に、コンピュータでは容易に可能とはならない「人間知能の柔軟さと汎用性」に着目すべきであろうし、それこそが専門職業家の目指す道であろうと考えるのである。

五、終わりに
この記事を結ぶにあたって、過去に掲載した記事の一部を再掲する。

《一石を投じることはできたか 掲載日: 1999/5/15》
茫猿がかつて全国の鑑定士諸氏に問うたのは、
(1)PCネットワークを基軸にした有機的ネットワークの構築
(2)土地センサス等、土地情報基盤の整備
(3)地図情報システムや数値比準表の基盤整備  の三点であった。

このいずれもが、当時とは格段の進化を遂げている。その軌跡は「鄙からの発信」掲載記事からも読み取れることである。しかし、真のナレッジマネージメント(knowledge management)としての有機的ネットワークが確立し得ているかとみれば、心もとないのである。土地情報基盤も悉皆調査が実施されるようになって十年を経たものの、鑑定士が初期データを含めて有効に活用できる環境が整っているかと云えば否であろう。GISや数値比準表の整備と活用においては、日暮れてなお道遠し云えば言い過ぎだろうか。

《ICT化の光と影   掲載日: 2006/5/23》
土地取引価格情報が、より広汎にネット公開されてゆく方向の落ち着く先は、単に情報の存在を基盤とするようなレベルの業務が存在し得る蓋然性を薄めてゆくのであろうと思われる。 GIS一つをとっても、Googleの提供サービスを見ていれば、そんなに遠くない時期にマンション物件情報や賃貸物件情報などが、地図/緯度経度情報(GIS)とをリンクさせるサービスが始まるのであろうと予想する。

巨大企業や官公庁が提供するGISインフラに、long tail的に不動産情報がひもづく流れが加速すれば、専門家が情報を握ることで持っていた優位性はあっさりと消えるだろうと思うのであるし、既に消え去りつつあると思うのである。

ICT化による情報の低価格化迅速化効率化などは結果としてサービス対価の低廉化をもたらす、現にその状況に入っているのではないだろうか。
大量処理の評価業務分野では、地価公示・地価調査をはじめ、固評標宅・固評路線価・相評路線価、それに加えて今度の取引価格情報がもたらす、いわばアルゴリズムを中心とする人為的判断を排除した評価システムが稼働しつつあるのだろうし、既に大量のデータと様々な解析手法の駆使による新しいサービス提供が生まれつつあるのだろうと思う。

我々の戦略の方向性は、将来的には外部公開というものも視野に入れながら、詳細な不動産情報を大量に流通させ、その上で個別評価事案の特殊性をどう精緻化させていくかということが問われているのではなかろうか。とにかく全面開示・全面共有に主眼を置く、その上でその成果や分析を外部発信していくスキームを整備して、専門家集団としてのブランディングを図ってゆくことが求められる。個別精緻化に限らず大量データ処理に関わるノウハウやツール開発も今や遅きに過ぎているのかもしれない。

《頂門の一針 掲載日: 2010/2/24 》
不動産鑑定士、医師、弁護士、建築家、会計士などの知的職業にたずさわる者は、人間同士の微妙な触れ合いに精通しなければならない。なぜなら、デジタル化できるものはすべて、もっと賢いか、安いか、あるいはその両方の生産者にアウトソーシングできるからだ。 バリューチェーン(価値連鎖)をデジタル化でき、切り分けることができ、作業をよそで行えるような活動は、いずれよそへ移される。

デジタル化の進展は、逆説的であるが、アナログ処理能力すなわち対人折衝能力であり、Liberal Arts の質的優劣を際立たせてゆくと云うことなのである。

《総じて》
連合会や全国士協会は、今日明日の業益につながることを事業として取り上げることであろうが、同時に五年後十年後に花開き実を結ぶ事業も並行して取り組むべきであろう。そのような斯界の姿勢こそが業界に集う若者の夢を育むことであり、斯界を目指す若者を増やすことなのであろうと考える。何かと話題になる地価公示について言えば、ルーティンワークに習熟する片方で、地価公示を踏み台にしてルーティンワークを超えることも目指すべきなのである。

《追記》《人間できてAIにできないこと》
様々な可能性を秘めており大きな進化が予測されるAIではあるが、万能にはならないとも予測されている。また、真新しく見えるAIと云えどもコンピュータシステムの発展系の一つで有ると云うことを留意しておきたい。
AIは「事実だけを判断根拠とする」ものであり、多数のデータから「共通性を浮かび上がらせる」ものと云われる。つまりアルゴリズムに載せられる行為はAIに置き換えあるいは移植可能であるとされる。

人間は、この二つの「ルール」の真逆のことができる。人間は「事実以外のことも見る」ことができるし、「個別性の認識」もできる。経験を積み重ねて生まれる直感であったり、ケースに応じて短期的には論理性に反する対応もできる。AIが最も不得意とするのは「仁」と称される行為であり、「慈」と称される行為であろうと云われている。いずれも、”知能”を使ってする行為ではなく、”智慧”に基づく行為だからである。論理的行為はAIに得意であっても、非論理性が潜む倫理的行為は不得意なのである。
【この記事の前半は 昨今のiNet状況と鑑定評価−1 】
【2016年4月14日の記事 AIと鑑定評価  】
【2016年3月21日の記事 GISと不動産鑑定評価  】

《追記2》《自動運転システムの難題》
自動運転システムを構築する上で、衝突回避と乗員の安全確保と云う問題がある。車道に飛び出した歩行者に衝突しそうになった時、例えばボールを追いかけてきた児童に遭遇した時に、停止可能距離が無く、回避が困難な場合などにどうするかと云う問題である。

歩行者をはねてしまうのか、塀にぶつかっても側溝に落輪しても法面したに落下しても、歩行者の安全を優先し乗員の安全は二の次にするのかという二者択一問題にどう対応するかについて、解は得られていないそうである。

乗員の安全を優先すれば倫理的批判を受けるし、歩行者の安全を優先し乗員を危険にさらすような車は売れないということである。 この問題は人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする考え方によるAI構築ではなく、人間の知能そのものをもつ機械を作ろうとする考え方のAI構築において直面する課題である。

不動産鑑定士に求められる「人間同士の微妙な触れ合いに精通しなければならない。」という課題は、このような問題にも通じるのである。当面の利益、当面の論理性や非経済性といったものを二の次にしても選択したい、あるいは選択すべき経済行動というものが往々にして存在する。不動産の売買、相続、賃貸などの様々な局面において認められることである。そのような局面に対峙する当事者にどのようなアドバイスを伝えることが出来るか問われるのである。

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