官能都市が地方を創生する

空き家の有効活用と地域創生に関する勉強会に出席してきた。大垣市都市計画部の主催という官製セミナーではあるが、清水千弘氏がモデレーターを務められることと、講師の顔ぶれにとても興味をそそられたからである。地方にいて、この方々のお話を無料で聞けるのだから得難い機会だと考えたのである。

「空き家の有効活用と地域創生に関する勉強会」(大垣市都市計画部主催)
モデレータ・清水千弘氏 (日本大学教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員)20161028simizu
第一回 勉強会 2016/10/28 13:00-15:00
場所: 大垣市情報工房2階 多目的研修室
テーマ. リノベーションを通じた地域創生
講師・島原万丈氏(リノベーション協議会理事,Home’s 総研所長)

島原氏の二時間近い講義はとても興味深いものであった。島原氏は東洋経済誌が公表している「住みよさランキング」《2016年次では一位が印西市、二位が長久手市、三位が砺波市である。》を引き合いに出して、都市の住み易さは、東洋経済誌が云うところのそれぞれの市が持つ“都市力”すなわち、「安心度」「利便度」「快適度」「富裕度」「住居水準充実度」の観点では計れないと云う。20161028shimabala

五つの指標の詳細は東洋経済誌サイトに示されているが、例えば[安心度]については、病院・一般診療所病床数(人口当たり)、介護老人福祉施設・介護老人保健施設定員数(65歳以上人口当たり)、出生数(15~49歳女性人口当たり)、保育施設定員数-待機児童数(0~4歳人口当たり)を指標とするものである。

[利便度]については、小売業年間商品販売額(人口当たり)、大型小売店店舗面積(人口当たり)を指標としているのである。それら施設の充実度や富裕度等の指標は住みたい指標であるかもしれないが、住み続けたい指標ではないであろうと云うのである。

防災や効率性など都市工学的に機能的で、不動産投資の市場原理に合理的で、すなわち科学的で客観的な理論と数字を根拠に計画される再開発がある。《湾岸エリアに代表されるいわゆる未来型都市を島原氏はアトム的なまちと云う》 それに対比されるジブリ的なまちは、安全性を問題視され、合理性を否定され、風景として前近代的として貶められる。

ジブリ的なまちとは、風土に根ざした原風景的な懐かしさを感じさせる、商店街や路地裏や横丁が残る風景である。例えば、谷根千(谷中・根津・千駄木)や神楽坂などが象徴的で、吉祥寺や阿佐ヶ谷や高円寺などもジブリ的まちである。いずれも木造家屋密集エリアである。

ジブリ的なまちが再開発によって一掃されてしまうことを受け入れたくない立場は、ノスタルジーや個人的な好き嫌いとして退けられ、議論の土台にすら上がることができない。住民説明などで異を唱えたとしても、機能性・合理性の価値軸で設定された土俵の中では、為す術もなく沈黙するか、日照権や風害や景観破壊など、ややもすれば住民エゴと見なされかねない武器にすがるしかないのが実態である。その結果としてアトム的な再開発は、都市を没個性化し”ファースト風土化”すると云うのである。

東洋経済誌が述べる都市力指標では、アトム的なまちの都市力は計れても、ジブリ的なまちは計れないと云うのである。ジブリ的なまちの都市力指標として島原氏は「Sensuous City  センシュアス・シティ[官能都市] という指標を提唱する。官能都市の魅力を可視化する指標として、人が歩き、立ち止まり、座り、話し、聞くというまちのあり方から次の八個のキーワードを示す。

・共同体に帰属する、・匿名性がある、・ロマンスがある、・機会がある、・食文化が豊か、・まちを感じる、・自然を感じる、・歩ける 以上の八個である。これらキーワードの詳細な説明並びに「センシュアス・シティ・ランキング」は、HOME’S総研・Sensuous City[官能都市] サイトで詳しく読める。

”官能”という用語には違和感を感じるかもしれないと島原氏は云う。しかしながら、製品開発に官能検査は今や常識であり、都市計画においても官能検査的視点は必須となるべきだと云う。センシュアス度が高いまちは人口の定着傾向が高く、低いまちは人口流失を招き易い。センシュアス度が高いまちは多様で個性的な飲食店が多く、ナショナルチェーン店舗はセンシュアス度に相関しない。チェーン店は存在してもよいが、それだけとなれば駄目なのである。活気のある商店街やダイバーシテイ化がセンシュアス度を高めるのである。

ここまで聞いていて、茫猿は疑問を感じたのである。この話しは”谷根千”(谷中・根津・千駄木)や”神楽坂”に代表される大都市圏域の話しであり、地方都市の創生とどう結びつくのかと疑問に思ったのである。そして、話しは大垣市のような地方都市のリノベーション《刷新・修復》へと続くのである。

地方都市のリノベーションは、・低いコスト、・スモールビジネス、・ローカルビジネス、・多様なコンテンツであることに意味があり、小さく少しずつ変えてゆくことから、官能都市化を進め、居住満足度を高め、人口流失を防ごうと云うのである。その際に「空き家」はローコストな資源なのである。空き家と云うローコストな資源をもとにフレキシブルな事業展開を目指すべきと云うのである。

勉強会を主催した大垣市は城下町である。工業集積都市である。奥の細道結びの地という文化都市でもある。歴史ある料亭や老舗和菓子店も多いし醸造業も幾つか存在する。大垣城趾や水門川をもちソフトピアジャパンもある。周辺は農村地域であるとともに、関ヶ原町、垂井町、揖斐川町、池田町、養老町などという自然と歴史遺産に恵まれた町が存在する。

これら隣接町村と人口争奪争いを繰り広げるのではなく、西濃圏域として連携し、今は何も無いことを強みとしてオンリーワンを目指すべきであろうと云うのである。

空き家ビジネスでネックとなるのは借り手の存在ではなく、貸し手の存在である。空き家所有者自身にリノベーションを期待すべきではない。彼等は高齢化していたり不在所有者化していたりする。そこで空き家を借りてリノベーションする「若者、余所者、バカ者」に期待されるのであるが、貸し手が容易には見つからない。空き家は存在しても所有者が確認できないし、利用の意思確認もできない。

そこで、貸し手探しに行政のサポートがとても重要である。行政が空き家バンクのようなシステムの形成や運営に乗り出して、所有者の利用意思確認をすることが重要になってくる。大垣市都市計画部が主催し周辺町村にも参加を呼びかけて開催された、この勉強会の趣旨がここに存在しているのである。

講演終了後の質疑応答では否定的な疑問点が幾つか出された。その質疑を伺っていて思わされたことがある。何かを始めようとする時に、ネガティブリストの読み上げからスタートするのは芽を摘むことになる。ポジティブリストから始め、事業の遂行とともに当初計画にこだわること無く柔軟に状況に応じてゆくことが大切なのだと思わされた。であればこそ、ローコスト、スモールビジネス、ローカルビジネス、多様なコンテンツなのである。

官能都市化を茫猿流に表現すれば「肌にふれる、ふれあう町づくり」ということになろうか。近未来型機能都市を目指すのではなく、施設・箱もの重視ではなく、人に優しい路地があり、軒先とまちがつながり、風に季節を感じられる町づくりと云うことであろうか。その昔、不動産鑑定業の本拠地を名古屋にするか岐阜にするか迷った時に、長良川と金華山がまじかな岐阜を選んだことにも通じる気がしました。山や海や川が近くにあり、散策に適当な歴史ある町並みもあるような場所が好ましいと思ったことでした。東京や大阪や名古屋でなく、岐阜や神戸や京都や金沢が好ましいとも思っていました。

《次回以降の地方創生研究会》
※来月以降の日程と講師は次のとおりである。会場に余裕があるようだから、参加は可能だと思われる。《詳しくは大垣市都市計画部住宅課までお問い合わせられたい。》
第二回 勉強会 2016/11/18 13:00-15:00
場所: 大垣市情報工房2階 多目的研修室
テーマ. 空き家対策における物件調査
講師・長嶋 修(インスペクター協会会長,さくら事務所会長)

第三回 勉強会 2016/12/16 13:00-15:00
場所: 大垣市情報工房2階 会議室4
テーマ. 官民連携による地方創生
講師・矢部智仁(東洋大学大学院 経済学研究科 公民連携専攻 客員教授,ハイアス総研主席研究員)

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