柚餅子の季節

雨の土曜日、茫猿は柚餅子づくりに勤しむのである。土曜日とはいっても退隠の身である茫猿には毎日が日曜日だから昨日に変わらぬ今日ではあるけれど、雨降りだから野良仕事ができないので草深包丁にいそしむというわけである。

茫猿が作る柚餅子は「味噌柚餅子」である。牛皮餡などを詰めた菓子柚餅子と異なり晩秋に拵える保存食である。以前から晩秋には数十個から多いときは百個を越えた量を作って、保存食としていたが、この数年はなぜか作らずにいた。特に理由は無く、寄る年波で作業が面倒になっていただけのことである。酒のつまみにもお茶漬けのお伴にもとてもよい食品であり、時間が経てばたつほど塩加減が丸みをおびて好ましい味となる味噌柚餅子の味が懐かしく久しぶりに励んだと云うわけである。

1.材料《柚子、クルミ、ピーナッツなど、砂糖と酒少々》
柚子は小振りな花柚子が望ましいが、一般の本柚子でもかまわない。ただし本柚子は大きいから乾燥がたいへんだろうと思われる。茫猿は本柚子で作ったことはない。
柚子に詰める味噌は岡崎の八丁味噌に信州味噌や仙台味噌を合わせている。作ったことは無いけれど白味噌を合わせるのも面白かろうと思っている。味噌に煉り込むのはクルミ、ごま、えごま、ピーナッツなどのナッツ類である。写真の左は本柚子、右が柚餅子にする花柚子である。20161119yuzu2.味噌造り
クルミ味噌を作るのであるが、クルミでなくとも、ごま、ピーナッツ、アーモンドなど好みで作ればよろしいのである。この辺りは男の料理である。素焼きクルミを買い求め擂り鉢で細かくなるまで擂る。このクルミの擂り粉木作業の手を抜かないことが肝心である。手抜きのクルミ味噌は舌にざらついて美味しくない。
すりおろしたクルミに八丁味噌と仙台味噌を合わせて加える。味噌は各地の地味噌を好みで適当に合わせればよい。味噌をクルミに合わせる時に、味噌を柔らかくするために適量の日本酒で味噌を緩くする。砂糖は入れても入れなくとも構わないが、そこは甘めが好きか辛めが好きかだけである。20161119suru

3.柚子の準備
柚子は、頭の部分を蓋になるくらい切り落とす。この時に切り落とした部分は後ほど柚子釜の蓋になる。続いて、細身のスプーンを柚子皮と袋身の間に入れて回しながら、皮と身をはがす。ゆっくりとスプーンを回せば、簡単に袋身が取り出せる。取り出した袋身は搾って柚子酢や柚子ポン酢を作る材料になる。左から、蓋を切り落した柚子、袋実を取り出した柚子釜。出来上がった柚子釜に、作っておいたクルミ味噌をスプーンで詰めた柚子。この時に、一杯に詰めないことで、八分目くらいが適量である。味噌を詰め終わった柚子に切り取っておいた蓋を回し込みながら釜の中に入れる。丁度、落とし蓋の状態になる。20161119tumekomi4.柚餅子蒸し上げ
この味噌柚餅子を蒸し器で約10分蒸し上げる。味噌に火が通り、柚子が柔らかくなれば出来上がりである。蒸し器から取り出して平たい笊などに並べて冷ます。写真の状況はやや蒸し過ぎであり、幾つかの柚子が少し吹きこぼれている。20161119mushiage5.干し上げ
冷めた柚子を一つ一つ、キッチンペーパーで包む。丁度てるてる坊主を作るように包み込んで紐でからげて振り分け柚餅子を作る。元々は奉書紙で包んでいたけれど、この頃はキッチンペーパーを使い、進物にする時などは奉書紙で包み直している。20161119tutumikomi6.振り分けにした柚子を、風通しがよくて雨露の当たらない軒先などに干す。乾燥させる期間は約一ヶ月ですが、柚子の大きさによってはもっと長くかかる。最初の一週間ほどで、和紙に味噌がしみ出してきて茶色になるが、それが乾いてくれば食べることができる。20161119hoshiage7.食し方
一ヶ月ほど軒先で干した柚餅子は、冷蔵庫で密封保存する。冷暗所に菓子缶などに入れて保存しても良い。また包み紙はしみ出した味噌で汚れているので、奉書紙などで包み直すのが好ましい。食し方に決まった食べ方があるわけではなく好みでよいのだが、茫猿が好むのは、皮ごと薄く、出来るだけ薄く切って食べることである。口の中でくるみ味噌と味噌のしみ込んだ柚子皮が絶妙な味わいを醸し出すのである。熱い白飯に数片載せてお茶を掛ければ、幸せな茶漬けなのである。数ヶ月もすると、味噌がさらに馴染んでもっと美味になる。

《さて、その後》
柚子はまだたくさんあるから、明日もまた柚餅子を作るか、それとも柚子練りを作るか取るに足らぬ思案をしている。柚餅子ばかりでは芸が無いから、柚子練り《柚子皮で作ったママレードと云えば佳かろう》を作るとするか。

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