ゴルフ場・固評判決と鑑定評価

不動産に関わる諸税のうち、固定資産税は不動産の所有者に毎年課税される税である。相続税は相続時のみの課税であり、譲渡所得税は不動産の取引時のみの課税であることに比べれば経常的な課税であり、その意味において影響や負担が大きいといえる税である。

この固定資産税について注目される判決が出たのである。いささか旧聞に属する事件ではあるが、岐阜県瑞浪市に所在するゴルフ場の課税について、正面から不動産鑑定評価 の信頼性を云々する判決(注.4)である。旧聞ながら多くの不動産鑑定士が三年に一度の固定資産税評価替え(注.2)に取り組んでいる時期でもあることから、《また、情報提供者へ応える意味もあり》等閑にすることはできないと考え《些か気重であるが》記事とする。

先ずは、不動産鑑定評価 に直接の関連性が薄い事項を除く事実関係である。本事件は瑞浪市固定資産評価審査委員会(注.3)が行った「審査申出棄却決定」について争われるものである。
《岐阜地裁H25(行ウ)第6号事件》
原告:株式会社ベルエナゴルフ、瑞浪市東大島生産森林組合
(以下、ゴルフ場)
被告:瑞浪市固定資産評価審査委員会
(以下、審査委員会)

「被告・審査委員会が依頼した不動産鑑定評価 」
(以下、委員会鑑定)
・地元在住と推定される不動産鑑定士三名《実名不詳》
・H24.1.1時点の1平方メートル当たりの評価額:1,100円

「裁判所が命じた不動産鑑定評価 」
(以下、裁判所鑑定)
・名古屋在住の不動産鑑定士O氏《判決文に実名記載》
・H24.1.1時点の1平方メートル当たりの評価額:800円

両者に約三割の開差を生じているが、本稿で問題とするのは開差の多寡ではない。判決が述べている委員会鑑定と裁判所鑑定についての信用性云々の記述である。

「裁判所鑑定の信用性について」《判決文より抜粋》
a.裁判所鑑定は宣誓の上、公正中立な立場からその学識経験に基づいて行ったものであり、基本的に信用し得るものであるというべきである。
(筆者注)《裁判所が命令し徴収する不動産鑑定評価書を重視し、原告被告が証拠提示する鑑定評価書を軽視する傾向がここにも認められることは、斯界全体の信頼性向上という観点からすれば問題無しとは云えない。》

b.裁判所鑑定は比準価格及び公示価格等と規準した価格の双方を求め調整の上で決定している。
(筆者注)《公示価格等との規準については、その詳細が記述されていないので不詳であるが、ゴルフ場用地評価に際して規準とする適切な公示価格等が得られるのか疑問が残る。》

c.比準価格を算出するに当たって、多数(45事例)の取引事例を収集した上で、9事例を選択して比準している。また比準に際しては、(一財)資産評価システム研究センターが作成する「ゴルフ場用地の評価について・山林比準表」を参考にしている。
(筆者注)《採用した山林格差比準表については、委員会鑑定との対比で重要である。》

d.《判決文は》以上のとおり、裁判所鑑定はその内容も、取引事例の選定や格差率の判定等の点において不合理な点は認められないため、全体として信用性が高いものと認められる。《と結論する。》

「委員会鑑定の信用性について」《判決文より抜粋》
a.委員会鑑定が採用した5事例中、民間取引事例は1事例のみであって、国・地方公共団体が買主となる公共取引事例に偏った選定がされている。

b.委員会鑑定は、土地価格比準表を用いるに際して林業生産活動の観点から評価しており、北側傾斜地は南側傾斜地より評価が高くなる。しかしながらゴルフ場利用という観点からは積雪・凍害対策等からして南側傾斜地の方が評価が高くなる。

c.委員会鑑定は個々の地域格差の判定に関し、特に「宅地化の影響」の項目について最大65%という大きな格差率を付けているが、その内訳や根拠について説明がされていない。

d.なお、委員会鑑定をした不動産鑑定士らは、意見書において、本件鑑定人は岐阜県東濃地区の地元精通度が低く、また複数鑑定士による合意形成の過程を欠くなどとも主張して、裁判所鑑定よりも委員会鑑定の信用性が高い旨述べているが、鑑定の信用性の判断はそれぞれの鑑定内容から行われるものであって、上記意見書が指摘する点は、いずれも裁判所鑑定の信用性を何ら疑わしめる根拠とはならず、上記結論を左右するものではない。《以上で判決文引用を終了する。》

以上が岐阜地裁判決文が述べる、裁判所鑑定と委員会鑑定についての裁判所の判断である。また上級審は「控訴人が控訴理由として種々主張する点は、補正して引用した原判決の認定説示を左右するものではない。」として、控訴を棄却している。

選択した取引事例の当否、地域格差比準の格差判定内容(ゴルフ場用地林地と林業生産林地)、宅地化の影響に関わる大きな格差率の内容と根拠明示など、ゴルフ場用地評価に限らず大規模地や開発見込み地などの評価に際して、留意すべき事項が幾つか指摘されていると云えるものである。

(注)1.ゴルフ場の固定資産税評価
固定資産評価基準によればゴルフ場等用地の評価は以下のとおり定められている。
ゴルフ場等の用に供する一団の土地の評価は、当該ゴルフ場等を開設するに当たり要した当該ゴルフ場等用地の取得価額に当該ゴルフ場等用地の造成費を加算した価額を基準とし、当該ゴルフ場等の位置、利用状況等を考慮してその価額を求める方法によるものとする。

(注)2.固定資産税の評価替え
評価替えとは、資産価格の変動に対応し、評価額を適正な均衡のとれた価格に見直す作業のことをいい、3年に一度行われる固定資産の評価替えのことである。

本来であれば、毎年度評価替えを行い、これによって得られる「適正な時価」をもとに課税を行うことが納税者間における税負担の公平を図ることになる。しかし、膨大な量の土地、家屋について毎年度評価を見直すことは、実務的に不可能であることや、課税事務の簡素化を図り徴税コストを最小に抑える必要もあることなどから、土地と家屋については原則として3年間評価額を据え置く制度、言い換えれば、3年ごとに評価額を見直す制度がとられている。

この3年に一度の評価替えを行う年度を「基準年度」といい、平成27年度が「基準年度」であったので、平成30年度《評価基準日 H30/1/1》評価替えに向けた作業が全国で行われている最中である。

(注)3.固定資産評価審査委員会について
地方税法により固定資産の課税評価額は市町村長が固定資産評価基準に基づいて定めるものとされている。この課税評価額を不服とする納税者は固定資産評価審査委員会に価格の審査を申し出ることができる。この審査委員会決定を不服とする納税者はその取消の訴えを裁判所に提起することができる。

(注)4.判例掲載誌について
月刊ゴルフマネジメント2016年6月号76頁から88頁に、平成27年10月15日岐阜地方裁判所判決・平成25年(行ウ)第6号事件、平成28年3月10日名古屋高等裁判所判決・平成27年(行コ)第60号事件《被告の控訴棄却》が掲載されている。

(注)5.当該事件控訴に関する瑞浪市議会議事録(平成27年10月26日)
平成27年10月15日に岐阜地方裁判所でなされた判決を不承服として、控訴することの承認を求めて開催された臨時市議会の議事録である。市並びに固評審査委員会からみた訴訟経緯及び控訴理由について市当局から説明されている。

(注)6.最近の瑞浪市内における林地取引事例
国交省・土地総合情報システムよりのダウンロード(CSV)データ。
※土地総合情報システムでは、面積が5,000㎡以上の林地は、5,000㎡以上として表示されるので、ダミーとして5,000㎡をあてていることに注意。
最近の瑞浪市内における林地取引事例
※ちなみにダウンロードデータ総件数は110件、取引総合計額は123,542千円、総合計面積は160,025㎡、取引総合計額を総合計面積で割り戻した1㎡あたりの価格は772円である。なお、掲載林地事例のうち、5,000㎡以上の事例については実面積が表示されていないので、実総面積合計は160千㎡を上廻ることが推測されるから、割り戻し単価も772円/㎡を下回ることが推測される。

《今朝の蠟梅》20170107roubai

 

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