訳知り顔に、A案実現か!

隠居の身で、いまさらに訳知り顔をする訳ではないけれど、十年も前に予想したことが少しずつ現実のものとなりつつあるようだ。そのような憂き世のことはさておき、「鄙からの発信」の更新がずいぶんと間が空いた。帯状疱疹の後遺症・神経痛は少しは楽になったけれど、今も痛みは続いている。間が空いたのはそのせいだけではない。この原稿つまり「訳知り顔」を書き始めたら、何を今さらと思えて手が止まったということである。そこで、とりあえずは鄙の近況報告なのである。《A案と聞いて、あのことかと分かる鑑定士も少なくなった。》

さつき盆栽を始めたのが昨年の今ごろである。一年を経て、それなりの花を咲かせている鉢もある。花付きの良し悪しは、鉢に移されたサツキの活着具合いを示しているのであろうと思っている。それなりの花を咲かせるのに、少なくとも三年はかかるであろうと考えていたから、これだけの花を付ければ上々なのである。丹誠込めてと云うほどの手もかけていないが、一年を経てこれだけの花を咲かせればそれなりの感慨がある。

間が空いたには何を今さらという想い以外に、こんな思いもある。半年ほど前に2800号記事を掲載したのだが、この記事は2891号になる。区切りの3000号まで残り110号、成り行きにもよるけれど、年内にも達成可能な数字である。

数字がちらつくと、どうにもいけない。数字のために書くのではない、埋め草記事を書いてどうする、由なしごとを綴る鄙の爺の残日録とはいえ、……………….. 。などなどと、想いがちらついて、書ける記事も書けなくなってしまう。記録を前にするアスリートも、こんな想いをするのであろうか。だから書けなくなって半月余りが過ぎた。

埋め草用にと、こんな写真も撮ってみた。胞子が苔の上に飛んで根付いたのであろう名も知らぬサボテンが花を咲かせた。青い苔の上に紅い花というのも絵になる。胞子が飛んだのではなくて、サボテンの部分が風に転げて別れていったのかもしれない。

今さらながらの十年前の予想とは、こういうことである。取木事例収集に伴う新スキーム《取引価格情報提供制度》が始まったのは2006/04のことである。この頃に「鄙からの発信」が声を大にして主張していたのは、「取引情報が鑑定評価の根幹を占めるモノであるという認識、そんな当たり前過ぎる事実を再認識すべきである。」であった。

ここで注意してほしいのは”取引価格事例”ではないということである。”取引情報”が大事なのだと言っているのである。新スキームで云うならば”異動通知デジタルデータ”が重要なのである。 この”異動通知デジタルデータ”さえ早く確実に入手できれば、次の調査工程は何とでもなる。我々鑑定士は既に四十年以上の調査実績やノウハウを有しているのである。 ところが、多くの識者は「異動通知デジタルデータ」の存在について意を払わないのである。払っているのかもしれないが、優先順位を間違えたり本末転倒の議論を始めるのである。」とも、当時の「鄙からの発信」は述べている。《鑑定協会の戦略》

この頃に危惧していたのは、取引事例の囲い込みばかりに注意していると、取引情報の開示が進むという社会や市場に置いてけぼりになるということである。
《IT化の光と影-2》

標題のA案とは、取引価格情報提供制度を始めるに際して、国交省はA,B,C三案を示してパブリックコメントを募集した。この時に最も透明性が高いのがA案であり、取引価格情報提供制度が採用したのがB案なのである。茫猿は、この時から国交省が目指しているのはA案であり、徐々にA案実施に近づいてゆくであろうから、鑑定業界はその準備を進めてゆくべきであると主張していた。取引価格情報開示に備えよということである。なによりも鑑定協会自身が応募したパブリックコメントは「A案実施」だったのである。

《お口直しに、ズッキーニの花、イタリアの野菜は花も陽気だ。》

さる2017年5月30日、安倍総理は、第71回高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)及び第2回官民データ活用推進戦略会議にて次のように述べた。「不動産市場の透明性を高めるため、取引価格や建物の利用現況、地域の安全・インフラ等の情報をオープン化します。戸籍や住民基本台帳などと相互に連携するデータベースを整備し、最新の所有者情報を把握・共有することで空き家対策や開発事業等を円滑化します。こうした取組により不動産の取引を活性化させ、不動産投資市場を約30兆円に拡大します。」

《日本の野菜の花は控えめである。茄子の花と親の意見は千に一つの無駄が無い。》

政府は、官民データ活用推進基本法(平成 28 年法律第 103 号)第8条第1項の規定に基づき、官民データ活用の推進に関する基本的な計画として、世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画を別冊のとおり定めた。
世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画について(2017年5月30日閣議決定)

この計画のなか、施策集のうち重点的に講ずべき施策として、地方公共団体が保有するデータのオープンデータ化の推進や、都市計画に関するデータの利用環境の充実があげられている。《別冊 50頁/99頁》  さらには、不動産登記情報の公開の在り方の検討や、登記所備付地図データの事業者等への提供、統計データのオープン化の推進・高度化も挙げられている。

地理空間情報の流通基盤の整備としては、 「地理空間情報の利活用を推進するため、平成 31 年度までに新たな価値のあるデータを 10 分野作成し、利用者に提供するとともに、平成 32 年度には循環システムへの参加 50 団体以上を目標として推進。   これにより、G空間情報センターをハブとして、いつでも、誰でも、簡単に高度な地理空間情報が活用できる社会の実現とイノベーションを創出。」とある。

《IT化の光と影-2》記事のなかで、「土地総合情報システムは、不動産取引価格情報の質と量の両面においてさらに充実してゆくだろう。それほど遠くない時期に「不動産取引価格情報の提供制度創設で企画されたA案」により近づいてゆくと考えるのが当然だろうし、社会の要請はその方向にあるのだと考える。」と述べたのであるが、十年を経過して取引価格情報提供制度はA案の実現に向けて一歩も二歩も踏み出したと云えるのであろう。

取引価格情報が秘匿されているという情報格差を前提として成り立ってきた業務、《それが今までの不動産鑑定評価業務なのだと云っては言葉が過ぎようか?》、そんな業務が取引価格情報だけでなく、取引対象不動産にまつわる多くの属性情報を含めて開示されてゆく状況、即ちA案が実施される状況が目前に迫りつつあるようだ。「IT国家創造」も「官民データ活用推進」も安倍内閣だけの課題ではなかろう。デジタル化社会のなかでは、必然の流れであろうから、2017/05/30閣議決定は内閣が代わっても基本的な取組に変化はなかろうと思われる。

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訳知り顔に、A案実現か! への1件のフィードバック

  1. 寺村 建一郎 のコメント:

    貴重な情報提供ありがとうございます!

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