鑑定士修了考査-2

鑑定士終了考査の設問の2は、「鑑定評価額の決定に際し各試算価格の説得力を判断する観点から、あなたが行った案件に即し、各試算価格に商業地としての市場の需給動向と市場参加者の行動原理がどのように反映しているかを具体的に述べなさい。なお、記述の冒頭であなたが判定した最有効使用を記載しなさい。」である。この設問について愚考してみたものの、どこまで書けば良いのか何を書けば良いのか難しい設問である。老茫猿のボヤキとも呟やきともいえる回答にもならない記事となった。

この設問は、商業用不動産《土地及び建物》について、比準価格、収益価格それぞれが有する特性に応じて、市場の需給動向並びに市場参加者の行動原理がどのように両価格に反映されているか、さらに両価格の説得力すなわち説明責任を充足しているかを述べるものであろうと考える。先ずは市場の需給動向を如何に判断し、両価格特に比準価格に反映したかについて述べる。

《a.最有効使用と価格決定の理由》
対象不動産土地建物の最有効使用については、「低層階は店舗等商業施設用途、中高層階は居住用途と仮定するものである。因みに鑑定評価書「東京・中央5-1 中央区銀座2丁目213番14」では「高層店舗兼事務所地」と記載されている。

同じく「東京・中央5-1」評価書の「試算価格の調整 ・検証及び鑑定評価額の決定の理由」には次のごとく記載されている。

「近隣地域は、店舗兼事務所、マンション等の建ち並ぶ地域である。近隣地域における市場参加者は、市場の特性から、投資採算性、収益性をより重視して取引を行うものと考えられるが、最近の地価上昇局面においては、キャピタルゲイ ンも考慮して取引するものとみられる。以上の検討を踏まえ、取引市場に裏打ちされた市場性を反映した比準価格と収 益性を反映した収益価格を関連付け、代表標準地との均衡にも留意して鑑定評価額を決定した。《公開される評価書より引用》」

《b. 市場の需給動向を知り得る資料》
不動産市場の需給動向については、一般的に需要が供給を超過する傾向にあれば取引価格は上昇し、逆の傾向にあれば取引価格は下落するものである。市場の需給動向が何に最も反映されているかと云えば、まずは取引市場における取引価格の推移動向であろう。下落基調にあるのか上昇基調にあるのかを取引価格の推移から判定するものである。このことはすなわち、取引市場における地価変動率(地価動向推移率)に最もよく反映される。

同時に市場における売り物件の市場滞留性の長短にも留意すべきである。売り物件として市場に出現してから売買契約に至るまでの期間の長短に留意することにより、取引市場需給動向はタイトであるかルーズであるかを判定すべきであろう。

商業地需給動向を示す公的資料(データ)は地価公示価格等の推移動向地価LOOKレポート不動産価格指数 等が挙げられるが、これらは一般的かつ概観的データである。対象不動産が所在する地域あるいは圏域の市場動向を示しているものとは限らない。昨今の不動産市場は地域選考性が顕著であり、需要が集中し地価が上昇する地域と供給が過剰で地価が下落する地域が隣接することも稀ではない。また注意しなければならないことに、前記の公的資料に認められる地価変動推移率はいずれも過去の推移を示すものであり先行指標ではない。だから安易に過去変動率に依ることは避けなければならない。

同時に地価公示等の公的価格評価及び一般鑑定評価に採用される取引価格資料は「取引価格情報調査の結果として得られる取引事例資料」である。この事例資料からは市場滞留期間は判別できない。この市場滞留期間を知り得る資料としては、レインズにおけるレインズ登録から成約に至る期間が資料として得られれば好ましいことである。

さらに云えば、「取引価格情報調査結果」から得られる事例資料は、アンケート調査に応じた当事者が回答する取引結果であり、総取引件数のうちの一部である。だから、取引市場の動向を把握する上では、総取引情報の推移動向特に地域的な取引発生件数の推移動向に留意することが重要であろうと考える。

レインズに拠らなくとも、インターネット不動産市場に存在する売り物件情報から市場滞留期間を判定することが可能である。各不動産ネットに登録されてから抹消《成約済みと見做すことができる》されるまでの期間を判定できるものである。ただし、市場が騰貴傾向にあるときは、ネット市場に売り物件が登録されるイトマすら無い場合がある。

いずれにしても市場滞留性の長短を判定するデータは、広範囲かつ長期に継続するデータ収集と分析が欠かせないものであり、個々の鑑定事務所に叶うものでは無いから、組織的な対応が求められるものである。

《c.比準価格の説得力》
対象不動産が所在する近隣地域及び周辺の類似地域における需給動向(地価動向)を判定する上で最も重視される資料は前記地域に発生する取引事例価格であるが、それら資料が常に豊富に得られるとは限らない。そこで、時点修正率を除く比準価格試算結果の開差に留意することも重要である。この開差こそが取引時点間格差なのである。当然のことながら、時点修正を除く各補正修正が適切であるとは限らず、各補正修正に誤差が含まれることにも留意しなければならない。

その意味において、市場のプレイヤーから取引市場における直近の推移動向についてヒヤリングを行うことが重要であり、各都道府県不動産鑑定士協会が実施している不動産市況DI調査結果を先行指標として参照することも留意されるべきである。

以上のごとく、市場の需給動向を最もよく反映するのは取引事例を比較考量して得られる比準価格であり、であればこそ近隣地域及び類似地域に発生する直近の取引事例収集に可能な限り力を尽くすことが求められる。「市場のことは市場に聞け」であり、対象不動産周辺の不動産市場を注視することに留意すべきである。類似性が高く取引時点が新しい取引事例を如何に収集したか、重視したかを説明することが問われるものである。同時に一般に公開される取引動向(時点修正)資料に認められる地価推移と対象近隣地域の地価推移の異同についても明確に説明されなければならない。

以上、縷々述べてきたが、鑑定評価額の決定に際して市場の需給動向を比準価格等に反映させるべく留意した事項は以下の通りである。
(1)直近の類似性が高い事例資料を収集して比準価格の精度を高めると共に、直近の市場の需給動向を把握するべく努め、比準価格時点修正率に反映した。取引事例資料については、近隣及び類似地域における照会回答を得られない事例資料についても、その件数・規模・取引当事者等について分析し、地域要因格差率の判定や近隣地域の推移予測に反映した。《直近事例地、照会取引の地域的発生傾向分析結果や取引当事者の属性に関わる傾向分析等について具体的に記述する。》

(2)近隣および周辺地域の市場に精通する市場プレイヤー《不動産事業者等》に面接して需給動向等について状況を聴取し、比準価格時点修正率に反映した。《聴取結果を具体的に記述する。》

(3)各都道府県不動産鑑定士協会が実施している不動産市況DI調査結果を参照することにより市場の不動産事業者等が、市場の推移動向について現状並びに先行きへの認識を把握し、比準価格時点修正率に反映した。《近隣及び類似地域に関わるDI調査結果と地域の将来予測を記述する。》

(4)総取引件数の推移動向を地域的に分析して、市場の地域選考性を判定し地域要因格差率の判定等に反映させた。同時にネット不動産市場等に登録される物件資料から、市場の地域選考性の多寡及び推移を判定し、地域要因格差率の判定等に反映させた。《総取引件数分析結果から認められる地域の需給推移動向を記述する。》

《本記事の総文字数 3287字》
※市場参加者の行動原理の反映については、次号【鑑定士修了考査-3】に記述する。
鑑定士修了考査-1】 【鑑定士修了考査-3】 【鑑定士修了考査-4

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