No.3002・契約と競争-2

前々号に続き「契約と競争-2」である。連合会が2018.06.19公開した「不動産鑑定契約のあり方(受任者選定方式等)に関する基本的見解」について論じてみるのである。前々号記事で不動産鑑定評価受任者選定に際して、価格(報酬)競争が横行する弊害について考えたが、本号記事では発注者である国や地方公共団体が受任者選定に際して「価格(報酬)競争」を採用する理由を考える。地元士協会より取り寄せた「不動産鑑定契約のあり方(受任者選定方式等)に関する基本的見解」全文PDFはこちら20180627kenkai

この全文PDFなぜか地元士協会に問い合わせよと言うのである。連合会公式サイトにPDFリンクを張っておけば済むものを、なぜ地元会を迂回させるのか理解できない。

(三)鑑定評価受任者選定に価格(報酬)競争が蔓延する理由
国や地方公共団体との不動産鑑定評価受任者選定に際して、価格(報酬)競争が横行する理由について考えてみたい。端的にいえば、価格競争入札に応札する不動産鑑定事務所が存在するからである。一般の競争入札においても応札参加者が現れなければ、随意指名契約に移行するのである。時には契約見積額の再積算が行われることさえある。とはいえ「契約自由の原則」からすれば入札参加者を指弾して済む話でもないし、独禁法の趣旨からしても入札参加者を非難することはできない。

不動産鑑定側から競争入札に反対する理由は(一)Ⅱ. 鑑定評価受任者選定の問題点に示される通りである。問題は、委任者である国や地方公共団体が(一)Ⅲ. 適切な受任者を選定するために「連合会があるべきと考える契約方式をなぜ採用しないかを解明することにある。

基本的見解はⅢ.受任者選定等の方式に関して依頼者において考慮されるべき事項として幾つかの項目を示している。煩さである上に特に意味がないから、見解全文PDFを開いてお読みください。 《見解全文PDF20180627kenkai》《ファイルを別名保存して頂ければ、利用に際して閉じたり開いたりと煩瑣とはなりません。》

連合会が依頼者に於いて考慮されるべきとする各項目を要約すれば、基本的見解は依頼者側において不動産鑑定士の能力、識見の見極めを求めているだけでなく、地域の担い手の育成まで求めているのである。 さらに依頼者側における不動産鑑定評価業務及び評価書の正当かつ的確な評価を求めているのである。これは言うは易く行うは難しなのであり、鑑定士の鑑定評価や評価書の鑑定が必要になりかねない。

つまり、こういうことである。「依頼者である我々は不動産の専門家ではありません。だから専門家に調査と評価を依頼するのです。鑑定士さんや鑑定評価書を審査する能力は持ち合わせません。」

「我々依頼者が鑑定士の選任基準とするのは、鑑定士及び不動産鑑定事務所については客観的外形数値基準に依らざるを得ません。評価書については納期が守られているか、必要的記載事項が記述されているか、誤字脱字計算ミスが有るか無いかなどに依らざるを得ないのです。」

別の表現をすれば、クオリテーコンペという連合会が期待する受任者選定方式を採用するというのは、手続きその他が七面倒くさいことである上に、「公平性、透明性、競争性」という選定基準原則を満たせそうもない。鑑定評価書あるいは鑑定評価工程の適否を公平に透明に競争させることが可能かどうかは、鑑定評価を少しかじった事があれば容易に理解できることであろう。

※客観的外形数値基準として挙げられるものは、地価公示評価員申請書によれば、年齢や業者登録更新年月日の他に。
1 最近 3 年間の不動産鑑定業務に係る職歴
2 過去3か年度の鑑定評価実績 などである。
《3.継続申請の場合には、前年評価書のエラー件数も考慮されると聞く。》

その結果として、依頼者は「公平性、透明性、競争性」を確保するために、最も安易かつ確実な方法として競争入札を選択するのである。鑑定士の側でも過去のつながりから寡占状態にあった不動産鑑定業者選定が門戸開放されることは、少なからぬ業者にとっては歓迎されることであった。その当初は歓迎された「公平・透明な競争入札」であったが、しだいに歯止めのない評価報酬のマイナススパイラルに陥ちていったのである。

つまりは妥当な鑑定士選任基準や評価書審査基準を持ち合わせ得べくも無い「依頼者」に、鑑定士の側すなわち連合会から的確な選任基準を示すことが必要なのである。《写真はガクアジサイ、ヤマアジサイともいわれる、こちらの花言葉は謙虚?とされる。》

(四)連合会が採用すべき方策
見解は「VII. 鑑定評価の質を確保するための不動産鑑定士自身の役割とその他連合会等で検討 すべき方策」として、以下の七項目が記述されている。詳細は見解全文を参照されたい。(20180627kenkai
1. 事後的なチェックの強化
2. 依頼者プレッシャー通報制度の拡充
3. 賠償責任損害保険制度の活用
4. 生産性向上、イノベーションへの取組
5. 内外への啓発活動
6.鑑定評価業務の担い手の育成・確保のための一層の取組
7.国、地方公共団体との協議等を受けての一層の取組の向上

いずれも尤もな項目であり、国・地方公共団体および連合会の双方で的確に実施されるならば相応の効果が期待できよう。問われている問題点は、依頼者が「公平性、透明性、競争性が確保できる不動産鑑定業者選任方法」として、価格競争以外の方法(質的競争等)を選択するモチベーション(動機付け)あるいはインセンテイブ(誘因)がそこに存在するか否かである。

そこで、実効性のありそうな提案として、依頼者プレッシャー通報制度  の拡充が注目されるが、現在まで同制度が有効に機能しているとは聞こえてこない。国・地方公共団体の不動産鑑定評価依頼に携わった経験があれば容易に理解できることであるが、依頼者は用地買収評価であれば「買収可能な評価格」を期待するものであり、売却評価であれば「売却可能な評価格」を期待するのが常である。先般の森友学園国有地売却に伴う鑑定評価依頼でもそのような事情が行間に垣間見えたものである。

賠償責任損害保険制度の活用は有効な手法となる可能性を秘めている。自動車保険の無事故割引率適用と類似の査定を保険会社にさせようというのであろうが、連合会は自らの自治・自主・自律といった矜持を捨て去ろうというのであろうか。

何も国・地方公共団体の評価依頼に限ったことではない。民間依頼であっても、証券化対象不動産評価であっても、相続財産分割評価であっても、プレシャーの質や量に差異は存在するが様々な働きかけが存在するのが常であり、今どき露骨な価格誘導を示すような依頼者は珍しいのであり、不動産鑑定評価慣れしている依頼者であれば働きかけも結構巧妙である。このこと自体が不動産鑑定評価評価業務の大きな特性であり、そのようなプレッシャーを如何に捌いてゆくのかが鑑定士全体に問われるのである。

(五)鄙からの発信の提案
鄙からの発信は不動産鑑定評価のレビュー制度を提案する。この提案は既に2010/08/18に公表済みである。特に書き加える必要も認めないから、ここに再掲しておく。
Rea Review 制度創設提案」《関連記事はカテゴリーREA Reviewで検索できます。》
Rea Review 制度Q&A )」

レビュー制度は基本的に不動産鑑定評価評価書を公開し、多くのステークホルダーの評価に委ねようというのである。とはいえ、一般人が鑑定評価の知識を持ち合わせないことは依頼者と同様であり、具体的で分かり易い簡単明瞭な採点基準の明示がなければ情報開示したと言う自己満足に止まってしまう。

なお、評価書の開示について付け加えれば、H31地価公示からは公示評価書の全面開示が予定されている。地価公示が税金を用いて行われる制度インフラであるとすれば、国や地方公共団体が発注する鑑定評価も公費を用いて行われる鑑定評価であり、その成果物は国民・市民のものである。評価書は秘匿されるものではなく、公開を原則されるべきものである。

連合会は「4. 生産性向上、イノベーションへの取組」として、
1 インターネット情報・AIの活用による業務効率化
2 業務受任に関する必要書類の作成アプリケーションの利用
3 鑑定評価書等の提供情報のデジタル化
を挙げている。

つまり、こう言うことである。連合会は評価書レビューを制度化し、デジタル化した鑑定評価書を連合会サイトにアップする。連合会ではAIを活用して、評価書のAI的評定を行い公開しようと云うのである。評定項目を例示すればこれらが挙げられるだろう。地価公示のAI的評定はそれほど遠くない時期にネットに登場するような予感がする。

AI的評定として当面直ちに実施可能な評定項目は、
・採用事例の量と質、取引時点の鮮度を評点化。
・採用された格差補正率の大きさや乖離度を評点化。
・採用された取引事例の規範性、物的類似性、地域的類似性の評点化と検証
・規範性類似性の評点化および検証は難しく見えるが、とりあえずはGISを利用しビジュアル化するだけでもそれなりの効果は生じるであろう。

・採用された賃貸事例・収益事例の規範性評価
・難しいことを言わなくとも、評価対象地と採用事例地と地価公示標準地などを地理画面上に展開するだけでも相当なものが見えてくるし、何よりも不動産鑑定評価業者に対して無言のプレッシャーとなることであろう。

依頼者は交渉相手への配慮等から直ちに公開することには消極的であろうが、半年後、一年後、あるいは事案完了後において開示を反対する確かな理由は認められない。逆に理由なく開示に反対すれば、鑑定評価の背景に依頼者プレッシャーが存在する?と云う無用な詮索を受けることにもなる。

公費で得られた鑑定評価額等を公開することは情報公開のイロハであろう。そしてそれら公開された評価先例は周辺地域の地価形成にも寄与するものとなろう。さらに情報公開は鑑定評価の質の向上に何より大きな力となることであろう。

連合会が自ら評価書の公開を主導する「いわば、皮を切らせて肉を切る。肉を切らせて骨を断つ」と云う蛮勇を振るえるか否かであろう。依頼者側に何かの動きを期待するのではなく、連合会や士協会自らが変わることを求めるのでなければならない。蛮勇を振るうことなく予定調和の世界に甘んじていれば、地価公示や固定資産評価は業務量も報酬額もそれなりの安定を得ているのであろうし、連合会や士協会構成員が仲良く公的評価を分け合えているのである。

発生後半年も経過しそれなりにこなれた地価公示事例を皆で仲良く過不足なく利用しておれば、評価書の質的レベルもそれなりに安定しているのであろう。評価報酬の際限なきマイナススパイラルが懸念されるが、それなりの低位水準安定も見込まれるとすれば、いたずらに波風を立てることも無かろうと皆さんが考えたとしても、誰も責められない。

「公平性、透明性、競争性」と云うお題目は、見方を変えれば皆んなで仲良く低位安定に甘んじようとも言えるのであり、必要以上の競争、特に質的競争などはとても疲れるから望まないと云う声すら聞こえてくる。

No.3000・契約と競争-1   )

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