「21世紀を迎えて」(投稿)

【茫猿遠吠・・畏友よりの投稿・・01.04.11】
「21世紀を迎えて」と題して、新潟会の畏友「伊藤 正弘」氏より投稿
を頂きました。示唆に富むご意見であり、地方在住であろうと都市圏在
住であろうと、我々鑑定士が心しなければならず、と云うよりも早急に
着手整備しなければならない多くのご指摘を含むご意見です。
ご投稿掲載
「21世紀を迎えて」       新潟市 伊藤正弘
 小さいながらも鑑定事務所を経営するものとしては、将来の経営環境
を予測することは、さほど当たることはないことにめげず、毎年幾度と
なく行う癖になっている。
 新潟市の片田舎に入る情報のもとでは、人並み優れた能力と感を持っ
たとしても役に立つ解は出ないと即断の諸兄には失礼に当たるが、大胆
に我が業界の現況と明日について述べてみる。
 バブル経済崩壊と同時間的に訪れたグローバル化の波は、日本に規制
緩和の時代をもたらし、 2007年に人口のピークを迎える少子・高齢化の
影響と相俟って、 20世紀末に発した IT革命は更なる社会産業の構造改
革を求めている。
 金融改革に始まる規制緩和は、証券化や減損会計対応など、新たな鑑
定需要を生んでいるが、業際間の垣根を取り払い、路線価によるシステ
ム評価、あるいはコンピューターによる自動評価の開発と普及を促進し、
安くかつ早い対応ができない従来型の鑑定評価の市場を侵食している。
こうしたシステム評価等が求められることは、社会の新たな需要として
認めていかなければならないが、これらに対応して、従来型の鑑定評価
が簡易化に走り、更には信頼を失うことが無いよう願うものである。
 システム評価等は、公的評価やレインズ等の公開データベースを存続
基盤とするものであり、市場の生情報をいかに早く正確に独占(業界・
地元・専門的レベル)的に確保しつつ、かつそうした情報に基づく専門
サービスを提供していかなければ、鑑定士としての独占的専門サービス
分野は生き残れないものである。
 ここに言う、専門サービスとは、依頼目的、条件に即した多様な価格
評価のほかに税務、会計、法律、建築の隣接業種に及ぶ(アウトソーシ
ングした)サービスである。
 独占的な情報のうち、売買実例は、地価公示、地価調査制度を活用し
て部会(士会)の自助努力としてのアンケート調査で行われてきている
が、地方分権化社会を迎えて、地方自治体の中には地価公示制度等への
協力の根拠に疑義を感じているところもあると聞いている。
この点については、本会、国土交通省の事例収集体制整備への長年の怠
惰に憤懣がつのるが、早急な環境整備を切実に望むものである。
 次に収益価格を重視する時代を迎えて、早急に整備が必要な情報は、
賃料(収益)である。国土交通省は、投資インデックスの環境整備に着
手しているようであるが、地方都市においても賃料(収益)情報が入手
できる環境整備を願うとともに部会(士会)としても関連業界との交流
を深める必要がある。
 以上のように、時代の変化とともに鑑定評価技術の向上、周辺業務と
の連携及び情報の確保を行えば、地元を領域としての業務と言えども、
現状を維持し、発展も望めないものではない。
 一方、減損会計対応評価などは、上場企業などの依頼者に基づく全国
の同時間的な業務であることから、大手鑑定機関以外は、これに対応す
るにはネットワークへの参加をも考えなければならない。
 しかし、大都市圏発の業務は従来から大都市圏の業者が行ってきたこ
とから、地方にどれほどの効果をもたらすかは不明であるし、現在稼動
中のネットワークである鑑定評価管理会社には40%〜 50%の上前をはねる
ところもある。この手の会社は自ら鑑定評価を行わず、専ら受注と下請
け管理を行っているものであり、鑑定士の高度な専門サービスの提供、
高い倫理・品格の保持を揺るがすことのないよう願うものである。
 バブル崩壊以後、 10年、本当に我々を取り巻く環境は大きく変化して
きた。士の世界は守られており、資格さえ取れば我が世の春と考えてい
た時代とは大違いである。自由競争の時代を迎えて、元気を出したいと
ころであるが、我々の業務の種である新鮮な情報が依然として自由に入
手できない規制・社会制度の中にある。
 一方、自前の新鮮な情報という武器がないところで、いくら鑑定技術、
関連技術を磨いても、物量に勝る同邦の他業界やアングロサクソンの参
入者に攻め立てられ、公的評価のみに追い込まれようとしている。
今こそ、部会、業界が一丸となってこれらの諸問題を解決していかなけ
ればならない。
投稿者紹介
新潟市学校町通2番町598-32
(株)北辰鑑定リサーチ代表取締役 伊藤 正弘
 e-mail : cadsato1@mx2.nisiq.net

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