JAREA 2011′ #1

24歳の時に不動産鑑定業界に入ってから67歳の今年まで44年間在籍してきた茫猿は、毀誉褒貶と云いながら毀と貶のみ多き月日を過ごしてきました。 でもこの業界の隅に棲息することで自らの”たつき”(生計の費え)を得、妻子を養ってきました。 その棲息末期の年になるであろう2011年は、図らずも鑑定協会役員の末席に連なることとなり、ささやかながらも幾ばくかの役割は果たせたかなと思っています。 些かの感慨を記事にして、2011年を締めくくってみます。 勿論、不遜であろうことは承知の上のこと、どうか老爺の繰り言よと 御寛恕くだされたく。
《JAREA 2011′ #1:2011年 Japanese Association of Real Estate Appraisal ・その1》


2011年は鑑定協会にとって役員改選の年であり、同時に1965年10月1日より47年続いてきた現社団法人最後の年でもあった。 予定どおり推移すれば来る2012年4月には新公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会へ移行することとなる。
そこで、この歴史的一年が終わるに際して、旧体制2011年から新体制2012年にまたがって鑑定協会をリードしてゆくことが定まっている正副会長六氏の2011年就任当初に掲げられた抱負を改めて読み直すことにより、今年の鑑定業界を振り返る手懸かりとしてみたい。 当然のことながら、2011年6月に就任以来、半年を経過するのみであり、その事績について評することを目的とするものではない。しかし、いまだ半年ではあるが既に六ヶ月とも言えるのである。
別の表現をすれば、正副会長六氏は理事、あるいは常務理事、副会長等々の鑑定協会役員として、長年にわたり鑑定協会運営に携わり、ご尽力いただいた方々である。その多年の経験と事績を踏まえた上で述べられた抱負は、とても重いものがあると考えるのである。
六氏はその表現に若干の差異はあるものの、いずれの方も「専門家としての社会的な信頼を確保すべく」、「問題が起これば協会と鑑定評価制度は存続の危機に」、「その期待に応えてこそ職業専門家として尊敬され、信頼される」、「会員が誇りを持って参画できる協会」、「鑑定評価制度に対する信頼性の一層の向上」、「国民の権利・利益に貢献することが我々の責務」と、社会から信頼を勝ち得ることを目標とされています。
今ほど不動産鑑定士制度への社会からの信頼が話題になった年は、かつてなかったように記憶する。 鑑定士制度が国家試験資格である以上、社会から信頼感を得ると云うことは、すなわち制度的に社会との契約なのであろうと考えられます。そして制度の根底にある社会との契約が揺らいだからこそ話題になったのであり、低下した信頼の回復が急務であるという認識に他ならないと考えます。
そのことは即ち、依頼者プレッシャー問題(12.20付けにて懲戒処分が公告された、かんぽの宿等関連の不適切鑑定評価問題に代表される)、来年に先送りされた新スキーム改善問題(取引価格情報提供制度に関わる事例資料利活用のあり方)などを、鑑定士側の目線で改善あるいは改良してゆこうという甘い姿勢が問われているのであり、社会の視線に耐えうる、自らに辛い改革こそが求められているのだと気付かない鑑定士及び鑑定協会が糺されていると考えます。
内輪の論理に終始すれば社会の理解を得られることは叶わず、ましてや社会の信頼を得ることなど夢物語であろうと考えるのです。 茫猿の言い様は厳しすぎるとお考えかもしれません。 実際にも、それらの問題についての茫猿の提案は会員の多くから理解が得られません。 最近になって少しは聞こえるようになった言葉に「茫猿の提案は、結局の目標なのかもしれないし、そうあればとも思われる。 しかし、如何にも時期尚早、とても会員の理解は得られない。」という表現がございます。
こういった、私は理解できるが他の会員は理解できないだろうという発言こそが、今の協会の姿を現しているのです。「理想論だけれども現実は?」と、言い換えても宜しいでしょう。 理想論云々はともかくとして、在るべき姿、あるいは希求すべき姿を放棄して現実彌縫策に終始すれば、何も変わらないし問題の先送りに過ぎないと云うことが、何故に理解されないのであろうかと思います。
津波対策におけるハード重視ソフト軽視、原発事故対策問題における過酷事故を想定外とする経済性偏重などなど、ことの軽重はともかくとして類例は数え切れないほどに存在するにもかかわらず、一向に抜本的施策を講じようとしない姿勢には、詠嘆のみが残ります。捲土重来の機会などがそうそう何度も与えられるものではないことも、歴史が教えてくれています。
先頃、公告された懲戒処分に関わる記述にも「専任不動産鑑定士として、その指導が不適切且つ不十分」とか「従業員への責任転嫁」などという文言が現れていますが、顧みてそれらは限られた一部の不心得者だけのことかと問われましょう。 懲戒処分の公告で一件落着とするのではなく、それが始まりなのであり再び斯様な事故を起こさせないようにする為にこそ、協会指導者として十分な説明や指導を果たしたか、責任役員として責任転嫁をしていないのかと問われているのだと申せば厳しすぎましょうか。
《以下に転載する各氏の抱負は、鑑定のひろばNo.175より抜粋引用するものである。》
『会長 緒方瑞穂 氏』
鑑定業界は制度創設以来ほぼ50年を経て見直すべき課題に直面しています。公益社団法人への移行は、今年の総会で圧倒的多数により賛同議決されました。10年以上検討してきた組織改編もこれで一段落です。今後は、専門家としての社会的な信頼を確保すべく将来ビジョンを踏まえて、業界の新たな展開を目指します。
また、信頼の確保とそれに伴う適正な報酬の維持を実現したいと考えています。志と覚悟を持って困難に向かう所存です。会員各位のお力添えをお願い申し上げます。
『副会長 小川隆文 氏』(東日本)
副会長として、3期日となりました。これまで地価公示、契約、競売等に取り組んできました。 今期は、新スキームで収集した取引事例の安全管理と利用の透明性、取引価格の指標たるべく地価公示制度の改革、報酬のダンピング問題に取り組みます。
特に、新スキームで収集した取引事例は鑑定評価の基本的なインフラですが、一般鑑定で利用することについては整理されておらず、基礎が不安定な状態のままで問題が起これば協会と鑑定評価制度は存続の危機に立たされます。この間題を整理するには、今が最初で最後の機会です。
『副会長 熊倉隆治 氏』(東京)
国民経済に根差した持続的な不動産鑑定評価制度の創造が私の活動理念です。
鑑定評価の成果は、依頼者にとって参考資料であり、利用者には第三者証明の有力資料です。地価公示は将来の地価動向を示唆する機能を求められています。
不動産の調査・分析によってこのような役割を発揮できる不動産鑑定士に対し、国民は不動産に係る良き相談パートナーたることを期待しています。その期待に応えてこそ職業専門家として尊敬され、信頼されると思います。その実現に向けて協会活動に取組みます。
『副会長 玉那覇兼雄 氏』(西日本)
鑑定業界は今、大きな転換期を迎えようとしております。このような時期に、副会長に就任するにあたり、責任の重さを痛感しております。
九州選出の理事として3期6年、公的土地評価委員長として2期4年間を務めて参りましたが、反省することばかりで正直申しまして未だ達成感はありません。これからの2年間は心機一転し、悔いの残らぬよう職責を果たし、緒方新会長を支えつつ、会員が誇りを持って参画できる協会づくりに邁進していきたいと思います。有言実行を旨とし、会員の声に耳を傾けます。
『副会長 新藤延昭 氏』(会長指名)
鑑定評価制度が発足して半世紀、いま業界は、大きく変貌しつつあります。鑑定評価書は、依頼者だけではなく、その背後にある一般市民・一般投資家・会社株主等々への公表又は開示を前提とした公益的性格が一層顕著なものになっています。
このような社会の変化に対応した最大の喫緊事は、鑑定評価制度に対する信頼性の一層の向上が求められていることだと思います。鑑定評価業務の適正化について当協会の適切かつ円滑な事業の遂行に努力を傾注したいと思います。
皆様方の一層のご指導・ご支援を賜りますようお願い致します。
『副会長 伊藤正弘 氏』(会長指名)
業務推進委貝会委員長を二期、北陸不動産鑑定士協会連合会会長を四期勤め、今臥図らずも副会長の指名を受けました。さて、今回の総会は、会員の70%を超える出席者数の中、特別議決案件を含む全案件が90%を超える賛成票によって議決され、内外に協会の団結力を示したとともに、帰属意識が覚醒された方々も多いのではと思います。社会の多様なニーズとして現れる国民の権利・利益に貢献することが我々の責務であります。それを果たすために協会は、覚悟を示された緒方会長の下に一致団結した会員の強い意志に従い、迷わず、簸るまず、課題に取り組まなければならないと考えます。

関連の記事


カテゴリー: 不動産鑑定 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください