不動産鑑定:REA-NET維持費負担

 鑑定協会のREA-NET運営が基本方針どおりに実施されるのであれば、本格運用が四月から開始される。そこで改めて考えてみたいことが一つある。それはREA-NET運営のメンテナンス費用の捻出についてである。


 現在は試験運用中であるから、運用費用は全額を鑑定協会予算で執行されているのであるが、本格運用になればそうはゆかないであろう。全国の士協会規模が二十人規模から二千人規模まで大きな開きがあるなかで、受益と負担をどのように考えてゆくかは大きな問題であろう。試行中と同様に全額を鑑定協会予算で執行すれば、大規模会から資料閲覧を全国的に開放しろという要求が出されるであろうことは自明のことであろう。しかし、それは地方圏に位置する多くの士協会にとっては今ただちには容認しがたいことであろう。そうでなくとも多額の閲覧料負担を自士協会外会員に求めているのが現状なのである。
 では、維持費負担をどう扱えばよいのであろうか。現行REA-NETの事例閲覧(jirei-data)は、アクセスすれば直ぐに判ることであるのだが、閲覧料徴収システムを組み込んである。この閲覧料課金システムは精緻に作られてあり、(1)閲覧システム・アクセスに際して、課金システムと料金を明示し、その同意を求める。 (2)求める資料を検索した後に、DATA詳細の表示を指示すると当該DATAの閲覧料金を「利用日時」、「利用明細」、「料金合計」を表示した上で確認を求める。(3)詳細画面を閲覧または印刷すると「REA-NETサービス利用履歴」に詳細が記録されるのである。
 この「サービス利用履歴」の作成目的の第一は、閲覧履歴を記録保存することにより事後の確認を容易にして、トレーサビリィテイを担保することにある。個人情報保護法ガイドライン並びに鑑定協会規程に対応する措置である。

(社)日本不動産鑑定協会「資料の収集・管理・閲覧・利用に関する規程」
第23条 協会団体及び会員は、取引当事者又はその代理人から、個保法による保有個人データに関する開示、訂正、利用停止の求めがある場合に備え、体制を整備し、諸手続きの手順、手数料の収受などに関する具体的な対応方法をあらかじめ定めるものとする。
(中略)
3 閲覧事務を司る士協会等は、閲覧に供した事例資料について、当該資料を閲覧した者及び閲覧した日が特定できる閲覧記録を採録し、管理するよう努めなければならない。

 第二は閲覧等資料利用に伴う受益者と資料作成者の負担を調整し均衡させることに意味がある。取引事例等作成の大半は「地価公示スキーム」に則って行われており、資料作成者=地価公示評価員、資料利用者=一般会員という構成になっており、地価公示評価員=一般会員であれば問題はないが、必ずしも公示評価員=会員ではないし、会員のなかでも資料の利用頻度には相当の差が発生しているのである。だから、この負担差を均衡させる方策が求められるのであり、両者の開差が大きい都市圏士協会では以前から負担差調整均衡措置として、自士協会会員にも利用料金が徴収されているのである。
 そこで五次事例(公示等作成事例の閲覧対応フォーム)のみであれば、従来の課金体制をREA-NETへ移行すれば事足りるのであろうが、今回は三次事例(いわゆる新スキーム事例:価格情報開示制度にて作成された資料)の扱いも加わるのであり、REA-NET維持費の捻出も加わるのである。これらの対応策には幾つかの方策が検討され得るのであり、その採否は各士協会の自主・自治行為に委ねられているにしても、基本的維持費の捻出は鑑定協会マターなのである。
 この問題の詳細を考える前に、REA-NET運用維持費について考えておきたい。維持費はおおよそ次のような項目で構成されると見込まれるのである。
1.ネットサーバ維持管理費(サーバ・レンタル料及びメンテナンス費)
2.REA-NETシステムの基本的メンテナンス費
3.接続会員(全会員)の接続身分の新加入・移動等認証管理費
4.三次データの維持管理費(月々のデータ移管その他)
5.五次データの維持管理費(テキストデータ&イメージデータ)
6.REA-NETシステムの更新費用(毎年のバージョンアップ費等)
7.その他経費
※五次データのうち、所在地図等イメージデータ(事例二枚目)については、三次、五次のテキストデータの維持管理と異なり、紙データのスキャニング費をはじめ、管理件数に対応するファイルネーム管理などの費用が発生するものであり、各士協会によって管理件数が大きく異なることから管理費用にも相当の差が生じる。だから、五次データについてはテキストデータ管理とイメージデータ管理を区分して検討する必要がある。
 以上の前提条件をもとにして検討すれば、REA-NET維持管理費は次のように考えることが可能なのである。
一、基本費用額(a)
・REA-NET利用に伴う基本額、例えば一士協会あたり年額10万円
・同じく会員数対応額、例えば士協会会員1名あたり年額1万円
二、付加費用額(b)
・利用件数、1件あたり100円(事例二枚目管理費等に対応する。)
 以上のa+b合計額が鑑定協会が各士協会より徴収すべき維持管理費である。
 では、実際の請求と納付はどのように行われたらよいのであろうかと云えば、具体的にはREA-NETにシステムとして組み込み済みである「REA-NETサービス利用履歴」の利用によるのである。
1.毎月もしくは数ヶ月毎に履歴記録に基づいて、利用会員に利用料を請求する。請求と納付は鑑定協会が行うのであり、REA-NETを通じて各会員にオンライン請求し、納付は金融機関やコンビニを通じて行う。当然に口座引落も奨励される。納付期限内未納付会員については催告猶予期間の後に、REA-NETの閲覧停止等の措置がとられることにより速やかな納付を担保する。
2.会員の納付額は、前述の鑑定協会が徴収すべき基本費用と付加費用に加えて、各士協会が独自に定める士協会徴収利用料金(c)が加算される。
 判りやすくいえば、REA-NET・事例閲覧システムを利用した会員は、定められた期間毎に「a+b+c=REA-NET利用料金」を鑑定協会に納付するのである。鑑定協会は受納したREA-NET利用料金について、a+b部分を収納し、c部分については士協会へ配付するのである。この方法の利点はREA-NET維持費や利用料等資金の流れを簡略にすることにある。また会員数や利用便益に応じた各士協会の負担の均衡を図れることにもある。云うまでもないことであるが、これら一連の作業は鑑定協会事務局が直接行ってはならないのであり、全作業を外部委託すべきである。餅は餅屋に任せるということである。
 さらに、REA-NET事例閲覧システムの運用は「データの共同利活用」という「取引価格情報開示制度」の根本的趣旨に即して云えば、オンライン閲覧システムの利便性を全会員が享受するという意味からは、全国の士協会が全鑑定協会会員に閲覧アクセス権の開放を認めることが望ましいのである。多くの士協会において、このことは直ちには容認されないことであろうが、閲覧者の利便性のみならず閲覧件数の増加という観点からも検討したい事柄である。
 鄙の堂守は三次データについてここまで何もふれていないが、先にも述べた「取引価格情報開示制度」が基本的に内在させている「(国民財産である)データの共同利活用」という視点からすれば、五次データと同様の方法による開示が実施されることが望ましいと云えるのである。
 直ちに実施するには幾つかの障壁や感情的異論が多いであろうと承知しているけれど、iNet世界が有しているWeb2化とか、コモデテイ化という方向性を考えてみれば、近い将来に避けて通れない問題であろうと思うのである。同時にこの種のテーマが有している基本的な方向性を意識した課金システムであることが、今現在においても求められていると考えるのである。
 であればこそ、取引価格情報開示制度:悉皆調査データを如何に有効に利活用し社会に還元してゆくかが「鑑定評価の近未来」を拓いてゆくと考えるのである。
 さて、読者諸兄姉はどのようにお考えになるのであろうか。

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