土地価格比準表

数値比準表を採用した固定資産税標準宅地評価モデルに対して、寄せられた質問や批判に対するQ&Aです。初稿時点は些か古いのですが、価格比準表を採用した評価について根強い批判がありますのでWebに載せます。


(Q1)比準表評価モデルは算定評価であり、鑑定評価とは異なる。
(A1)何をもって、算定と鑑定とを区別されるのかが判らないので、答えになるかどうか迷いますが。土地価格比準表を使用することが算定であるとするならば、以下の様に考えます。共同作業による多数画地評価でなくとも、単数の評価主体が多数画地を一時期に評価する場合でも、自己の評価基準を明確にする必要があると考えます。即ち、10個の画地について各々5個の事例を用いて比準価格を試算するとして、総計50数回の比準過程を経なければなりません。その際に比較する要因項目が仮に10項目であるとして、総計500余回の比較を行う訳です。この全てをアナログ的処理を行えば、全体に統一性や論理性を確保するのは大変なことだと思います。
勿論、筆者は大変と考えますが、多くの方は容易なこととお考えになるのでしょうか。これが、複数の評価主体が多数画地を評価した場合に、全体としての統一性・論理性は如何にして確保されるのでしょうか。「不動産鑑定士の判断である」という答えには論理性は認められないと考えます。

 
(Q2)比準表を使用するのは算定である。
(A2)国土庁比準表を、そのまま利用するのであれば、算定の謗りは免れないでしょう。そもそも、土地価格比準表の出発点は国土法届出価格審査の便宜と統一性を維持することを目的として始まっています。しかし、比準表評価モデルは固定化された比準表を使用しません。評価作業は圏域毎に、用途地域毎に比準対象とする価格形成要因を取捨選択する工程から始まります。処理計画の第一は当該圏域・当該用途地域においてどのような価格形成要因が地価形成に大きく影響しているかを検討することなのです。

(アイテムの絞り込み並びにカテゴリイの判定)
次いで、各価格形成要因の数値化及び格差区分が第二工程です。しかも、シミュレーションを繰り返して、一応の結果に到達した比準表といえども、それで固定化するものではなく、各標準宅地の試算結果を総攬して、もう一度比準表作成工程に戻ることも当然と考えています。結論的にいえば、作成した価格形成要因データ資料を駆使して、圏域及び用途地域に即応した比準表を作成する全工程こそが鑑定評価であると考えています。
但し、モデル構成の便宜上、リニア比準を行う距離表示要因は数項目に限定されていますが、初期設定された項目以上を望むなら、変更は可能です。同時に、接面街路幅員、水道・ガス・下水、都計用途等基本的共通事項を除いて、時にはそれ等をも含めて、モデルの可変性は維持しています。更に、大事なことは共通ファイルの作成という問題です。標準宅地ファイルに止まらず、事例ファイルに至る可変かつ柔軟性の維持と統一性の維持は永遠の課題でしょう。
※リニア(連続)比準とマトリックス(段階)比準がある。リニア比準では極端に云えば要因の1mの違い毎に比準点数が異なる。マトリックス比準では区分 された段階に含まれるデータの比準点数は同じである。定量的要因はリニア比 準が望ましい。

 
(Q3)比準価格決定に不動産鑑定士が関与できないのではないか。
(A3)比準表評価モデルでは、最大値としては収集整理した全ての事例を比準価格試算の基礎資料として採用できます。評価主体は、その内より最も規範性及び信頼性の高い資料並びに試算結果群を選択して比準価格を決定します。比準価格は平均値あるいは評価主体の独自査定値のいずれかをもって決定します。即ち、比準結果が示す価格帯のなかで、最も適正だと判定される価格を決定するのは評価主体です。

 
(Q4)鑑定評価額は不動産鑑定士の意見であり判断であるから、過程の統一された評価手法は鑑定評価ではない。
(A4)単件少数処理ならば、不動産鑑定士により判断が相違することも、価格試算過程が相違することも容認されると思いますし、ある程度の相違は当然とも考えます。しかし、多数画地を一定の期間に共同作業することを前提とする場合に、さらには全体の均衡保持が要求されると同時に均衡保持の過程の明示が求められるときに、独自手法や独自見解の横行は、全体の統一を乱すのみならず依頼者の不信をかうばかりではないでしょうか。勿論、統一のみが目的ではありません。小異を残して大同に辿り着く分科会等の議論・審議過程が大切にされるべきと考えます。それでも、価格試算過程の多くには、前述・後述の通り個々の評価主体の独自判断が求められる工程が数多く存在しています。

 
(Q5)価格形成要因の数が少ないのではないか。
(A5)筆者も、できるだけ多くの要因を基礎として、価格を試算したいと考えます。しかし、費用対効果も無視できません。全てがデジタル化されていれば、低コストで限りなく多くの要因を計測収集することが可能でしょう。でも、価格形成要因は多ければ多いほど良いのでしょうか。殆ど価格に影響の無い要因を羅列しても見せ掛けだけのことではないのでしょうか。例えば、駐在所・交番への距離、消防署への距離、郵便局への距離、公衆電話BOXへの距離等々は無視してよいとは思いませんが、価格形成に寄与する割合及びその程度を判定する苦労に比較して、価格の精度が著しく向上するとは一般的には考えられません。

 
(Q6)比準項目の内、定性的な数値化が困難な要因はどうするのか。
(A6)例えば、道路の種類を単純に「国道・主要地方道・都道府県道・区市町村道・区画街路・私道」と区分して格差付けするのは、国道より広く整備された区画街路が存在する実態からすれば、全く無意味なことは御理解頂けると存じます。では、どうすればよいのか、敢えて、解決方法にはふれませんが、このことこそが鑑定評価であり、専門職業家のノウハウなのだと考えています。

 
(Q7)相応の知識がないと比準表評価モデルが使えない。
(A7)エクセルやWIN・MACに関する若干の知識は必要と考えています。
データを入力すれば、直ちに計算を開始し、評価書が印刷されるシステムを指向してはいません。セミオートマチックにより、随所に不動産鑑定士の判断が挿入されるモデルが望ましいと考えています。オートマチックにすればする程不動産鑑定士の判断が介入する余地が乏しくなり、介入自体がシステム構成にとって煩わしくなるかと思います。
更に、大事なことはモデルを動かす知識よりも、多量の画地を評価するに際して、圏域に即応した比準表(アイテム及びカテゴリイに関して)を構成して、鑑定評価基準にできるだけ忠実に業務を行う為の多量画地評価知識が重要と考えています。別の表現をすれば鑑定評価基準に即した作業を如何にシステイマテイックに行えるか否かだと考えています。この部分の見解、即ち、多量処理であれ単件処理であれ鑑定評価を行うにパソコンを利用してデジタル処理するというコンセプトを変更する考えはありません。
単件処理はアナログ処理を行い。多量処理はデジタル化するといいながら評価の手順をパソコンに併せて簡略化・便宜化するいわゆる地価モデル式処理を指向する考えは鑑定評価とは似て非なるものと考えています。但し、統計解析的処理は検証手段としては大変有効なものと考えていますし、必要不可欠とも考えています。
マクロ分析とミクロ分析の相違を除けば、鑑定評価も広義では統計分析の範疇に入るかもしれませんが、狭義では的確な判断・豊富な経験に裏打ちされた業務なのだと考えることに、己の存在意義を見出したいのです。でなければ、統計技術者と我々不動産鑑定士との差違はどこにあるのでしょうか。マクロ分析とミクロ分析の差違を明確にし、標本抽出から始まる厳密な統計解析を補助手段とし、現実の遍在する資料と、アナログ的処理であることすら意識されていない公表データ、多くは非公開・公開の渾然と混在する要因データ等々を縦横に駆使して結論【地価】に到達しようとするのが、不動産鑑定士だと考えています。

 
(Q8)現在の評価手法で問題はない。何故に面倒なことを提唱するのか。
(A8)路線価営業の前線では、市町村より多くの問題点が指摘されています。
又、航測業者と交差する営業の現場では、彼等の主張するデジタル評価・統計解析評価に対抗する手段・手法の提示が求められます。「不動産鑑定士の判断」という主張に対して反論は返ってきませんが、決して納得している訳ではありません。「不動産鑑定士」に対抗する資格を有していないだけです。
当事者のみならず第三者にも的確に論理的に明確に、評価の過程を説明できなければならないと考えるからです。更に、もっと重要なことは、航測業者等の得意とするデジタル的評価手法を不動産鑑定士が行えば更に地域に密着した精度の高い評価が行えると実証することが大事なのです。各試算工程を明示し、比準表を成果物として提示し、時にはグラフや統計解析結果或いはカラー化資料を豊富に提示してこそ、現在は鑑定業者以外に奪われている路線価評価シェアを回復することが可能なのではないでしょうか。

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