駄弁は銅

 沈黙は金、雄弁は銀、そして駄弁は銅(筆者の蛇足)という有名な諺
あります。広辞苑に拠れば「沈黙の方が雄弁よりも説得力がある。口を
きかぬが最上の分別(西洋の諺から)」という解釈です。
 何故、このようなテーマを取り上げたかと云いますと、茫猿は「鄙か
らの発信」と題して、飽きもせず駄文をWebに載せております。
 駄文を書き散らすのも、駄弁を弄するのも、所詮同じことであり、駄
弁のごとき騒音公害は撒き散らさないまでも、駄文を散らすのも些かの
資源浪費には違いなく、時に内心忸怩たる思いがするからです。
そこで、広辞苑などから、口(駄弁)と腹(沈黙)について、調べてみ
ました。予想通りでした。殆どが腹・沈黙が優位、口・弁は下位でした。
○口を守る、瓶(かめ)の如くす[癸辛雑識]
 瓶の水が一度こぼれれば、再びもと通りにはならないことから、言葉
は慎むべきであるの意。また、秘密を守ること。
○病は口より入り禍わざわいは口より出づ
[太平御覧人事部、口]
 病気は飲食物から起り、災難は言語を慎まないことから起る。軽率な
発言を戒めた言葉。
○口は禍わざわいの門[馮道、舌詩「口是禍之門、舌是斬身刀」]
 うっかり吐いた言葉から禍を招くことがあるから、言葉を慎むべきで
ある、という戒め。
○口に蜜あり腹に剣あり[資治通鑑綱目巻四十二](唐の玄宗期の宰相
李林甫の人柄を評した語から)
 口先ではうまいことを言いながら、心の中では陥れようと陰謀をめぐ
らすこと。
○雉も鳴かずば打たれまい
 無用のことを言わなければ、禍いを招かないですむことのたとえ。
※恋の道さえも
○鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす
 口に出す者よりも、口に出さない者の方がかえって心中の思いが切で
あるの意。
○目は口ほどに物を言う
 情をこめた目つきは、口で話す以上に強く相手の心を捉える
※かろうじて、口に少し味方するのが
○天に口無し、人を以て言わしむ
 天は口がないから言わないが、人の口によって天意を言わせる
※他にも【不言実行】とか【以心伝心】というのも有ります。
 どうして、口はこんなにも嫌われるのでしょうか。
多分、古来、口にして災いを招くことがあまりにも多く、口を慎むこと
が世渡りの秘訣であると、後進を戒めてきた積み重ねが、産みだした諺
の数々なのでしょう。
 洋の東西を問わず、もの言えば唇寒い時代が長く、片言節句を捉えら
れて罪に墜ちること多く、権力者の意を推し量って過ごすのが無難であ
り、世渡り上手と、世慣れた年寄りが若者を戒めてきた結果が、これな
のでしょう。
 第一、沈黙でもって意を通じると云うことは、沈黙を推し量れと云う
ことに他ならず、必殺の一言で満場を制しようという奢りに他ならない
のではないでしょうか。確かに駄弁は騒音公害でしょう。それでも、黙
する者を優位とする考え方には納得できない。
 黙する者には二通り有ります。口にする言葉も意志も己の考えも持た
ないから沈黙する者(得てして、この手の手合いは多いのですが、この
手合いに限って、沈黙は金と嘯くことが多い)
 もう一方は、無言押し通し、時には問題にせず無視する態度をとり続
けて、会場の流れを己の意中に導こうとする輩です。座の長老ならとも
かく、座のリーダーならともかく、それにしても無言という武器を用い
て座を威圧し、意のままに座の流れを操ろうとする、思い上がりが我慢
ならないと感じるときがあります。
 人口に膾炙し、誰でも知っている慣用句を用いて、黙者を擁護する姿
勢は、それらの慣用句や諺が生まれた背景を考えずして、自己都合で引
用する姿勢に見えてならないのですが、如何でしょうか。
 茫猿の駄文を、自己弁護するつもりはありません。
しかし、口にしなくても判るだろうと云う甘え。判って欲しいという奢
り。論に過ごすことを最初から回避する無気力。などなど、都合が良す
ぎるのではないでしょうか。
 人以外の生き物は、雄弁です。小鳥も鹿も犬も猫も、もの言わぬ植物
とても花咲き、青葉を茂らせ、態度で雄弁に語ります。
ヒトのみ、沈黙をよしとするのは、なぜでしょうか。為政者にとって、
権力者にとって、座の主にとって、都合がよいからではないでしょうか。
 自分の意志を、親にも教師にも友人にも伝える術を持たない17歳を
見ていて、つくづく思いました。自己表現の手段を欠くことは自己実現
の道を閉ざすことに他ならず、駄弁を遮ってはいけないのだと考えてい
ます。
 それに引き替え、最近の国政選挙のおぞましさは、何と表現したらよ
いのでしょう。言葉は溢れていましたが、「沈黙は金」で育てられてき
た彼等彼女等は、雄弁を求められたときに、それに応えるだけの術も中
身も持っていないことを顕わにしてしまいました。
 ただ、恫喝にも似て大声で吠えるだけ、空虚なスローガンにも似た一
つ憶えを繰り返すだけの情けなさ。「沈黙は金」の裏返しをマザマザと
看る想いがしましたのは、茫猿だけでしょうか。
追伸
本日の「NIKKEIプラス1」14面、デジタルスパイス・山根一眞
氏筆に「個人アドレスが危ない」と題して、メールアドレスのマナーと
いうか約束事について述べられています。TOとCC、BCCの区別、
使い方が書かれています。三人以上の方に同じメールを配信するときに
は、原則BCC発信をしましょうという趣旨です。

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