評価の電算処理-2

「前号・評価の電算処理より続く」
 本章末尾に掲載するのは、ある公的な評価において採用されている格
差比準の区分コード表の一例である。一覧してお判りのように多くの個
別的要因(標準化補正要因)と地域格差要因とが重複しているものであ
る。この件に関しては「国土庁・土地価格比準表」も同様である。
 この重複は下記に起因している。
(A)事例地近隣地域の標準的画地との比較において標準化補正を行い、
(B)事例地近隣地域と評価対象地近隣地域の地域要因の比較を行い、
(C)対象地近隣地域の標準的画地と評価対象地の個別的要因の比較を行
うという、三行程を経るという意味において合理的なものである。
 しかし、固評標宅評価等の密度の高い評価作業において最も顕著であ
るが、多数の画地を一斉に評価する場合においては、矛盾を露呈しかね
ないものである。即ち多数の事例地の近隣地域区分と同じく多数の評価
対象地近隣地域区分とが重複錯綜しかねないからである。
 高密度に分布する事例地と標準地の比準作業を行うときに、A標準化
補正における事例近隣地域の範囲とその範囲におけるA標準的画地の在
り様とC個別格差補正における評価対象地近隣地域並びにC標準画地が
重複・錯綜しかねないからである。尚、Cにおける固評標宅評価対象地
等は概ね標準的画地であるが、街路接面条件や街路方位等が標準と認め
られない場合も往々にして介在する。
 それぞれの近隣地域を重複させないためには、評価区域を事前に区分
する必要がある。固評の場合においては状況類似地域区分という作業が
これに該当する。しかし、評価対象圏域の状況類似地区(近隣地域と類
似する概念)を事前に区分し図化しておき、事例地と評価対象地の属す
る地域を明らかにして、地域要因の重複を避けるという作業は労多くし
て実りの少ない作業であり、それよりも間接比準方式から直接比準方式
に移行しても、大きな差異は生じないと言えるのではなかろうか。
 尚、この近隣地域区分作業の実施は、地域の定性的要因格差判定の前
段階作業となるものであり、環境条件等定性的要因の相当程度の指数化
が可能になるということを付け加えておかなければならない。
 同時に数値要因をカテゴリー化するマトリックス型比準表ではなく、
リニアモデルを利用して格差を比較すれば、数値要因部分における比準
の精度は向上し、間接比準方式による前述A・B・Cの三段階の行程に
はそれ程の意味が認められなくなるのである。
※マトリックス型比準表:格子型・階段型比準表
※リニア型比準表:無段階・連続型比準表
後述例示するが、例えば駅までの距離条件が「a事例地2000m」、
「b評価対象地3000m」とした場合に、
※2000mと 3000mの距離差1000mについて直接比較方式と、
※駅までの距離条件を地域要因と個別要因に区分して
「a近隣地域内標準地 (1800m)との個別格差 (1800-2000=-200m)」、
「b近隣地域内標準地 (3400m)との個別格差 (3400-3000=400m)」と
仮定すれば、aについて-200mの標準化補正を行い、次いで1800mと
3400mの地域格差補正を行い、更に+400mの個別格差補正を行うという
作業の結果に大きな意味が認められるだろうか疑問である。
 別の云い方をすれば、個別的要因は画地条件にほぼ限定し、それ以外
の要因は地域要因として扱う方が、地域要因と個別要因の重複による比
準結果の予期せざる相乗効果も避けられることとなる。
又、事例を選択してから格差比準を行うよりも、収集できた事例の全て
を対象にして格差比準を行ってから、比準価格決定事例を選択する方が
合理的ともなるのである。電算利用により大量の事例データから数値比
準表を用いて瞬時に格差比較が可能になることから比準手法の改訂を検
討できるのではなかろうか。
 勿論、主に環境条件から構成される定性的な要因については、地域概
念を無視して数値化することは危険且つ困難である状況に変化はない。
 ただ、数値比準表を利用するという主旨を優先させれば、それらの定
性的な価格形成要因についても、評価対象圏域におけるマニュアル化に
意味が認められるものである。さらには、数値化或いはマニュアル化が
困難であることを与件として、比準結果の価格調整段階におけるアナロ
グ的処理(評価主体の判断に基づくところの文章表現的処理)に委ねてし
まうという方法も考慮できるのである。
 筆者の云う、定性的な要因のマニュアルによる数値化とは、以下のよ
うな方法を指すものである。
・道路の系統連続性については、評価圏域内の幹線道路を抽出して指数
化し、抽出指数化した各々の道路への距離を数値要因として採用する。
・最寄り駅の性格については、初期に指数化が可能であろう。
・環境条件の数値化は評価主体の創意工夫が問われるところであるが、
商業地住宅地の用途的な区分に基づく指数化や土地区画整理事業や再開
発事業等の施行の有無などを指数化することにより部分的近似値として
数値化が可能だと考えるものである。
 尚、あらかじめお断りしておきますが、高度商業地や価格の連続性が
乏しい地域においては、数値比準表の採用は至難である。というよりも、
取引事例の密度が低く同時に複合不動産の取引事例が多い地域であるこ
とから、配分法適用に問題点が多いこと等が障害として存在し、それは
従来型比準方法を採用しても同様の至難さを内在させているものである。
 さらに、高度商業地等では比準価格より収益価格により大きなウエイ
トを与えるのが当然であり、電算利用も収益価格試算に傾斜した方が望
ましいといえるのである。
 つまり電卓の時代においては、収集した多数の事例について、絞り込
みを行って事例を選択し、選択後の少数の事例を基礎に精緻な比準組み
立てを行うという作業が当然であった。
 電算利用の時代では数値比準表を駆使して収集した全ての事例(地価
水準と用途的な類似性による絞り込みが必要であるが、敢えて絞り込ま
ずに全数比準を行っても構わないし、その結果にはそれなりの意味が認
められる)を基礎にする比準結果を検討し、数値化できなかった定性的
な要因を比較検討する作業を経て、比準価格を求めるという作業が可能
なのである。
「一例としての数値比準」
※下記の例示は道路幅員比準表において1mあたりの格差点数を用意し、
駅への距離比準表においては100m単位で格差点数を用意するものであ
る。
※(比準表の構成)
a.街路幅員  標準街路6m:100点  比準格差点 2点/1m
b.駅への距離 標準距離2000m:100点 比準格差点 1点/100m
※(事例地と評価地の要因と取引価格)
事例A 街路幅員 5m  駅距離 3000m 取引価格 100,000円
事例B 街路幅員 8m  駅距離 1500m 取引価格 120,000円
評価地 街路幅員 7m  駅距離 2500m
事例Aの格差計算後の持ち点
[100+(5m-6m)×2]/100×[100-(3000m-2000m)/100×1]/100
 =[100+(-2)]/100×[100-(1000/100)]/100=0.98×0.90=0.882
事例Bの格差計算後の持ち点
[100+(8m-6m)×2]/100×[100-(1500m-2000m)/100×1]/100
 =[100+(+2)]/100×[100-(-500/100)]/100=1.02×1.05=1.071
評価地の格差計算後の持ち点
[100+(7m-6m)×2]/100×[100-(2500m-2000m)/100×1]/100
 =[100+(+2)]/100×[100-(500/100)]/100=1.02×0.95=0.969
事例Aからの比準結果 100,000円/0.882×0.969=109,864円
事例Bからの比準結果 120,000円/1.071×0.969=108,571円
両比準結果の平均値              109,218円
 尚、比準表の構成は例示ほど単純ではなく、幅員や距離に応じてマト
リックス的に格差点数を変えるという方法や、対数や二次関数を使用す
るリニア式方法がある。
例えば、駅までの距離格差点数は、0m~500m間は-0.08点/m、501~
1000m間は-0.04点/m、1001~2000m間は-0.015点、2000m以上は
-0.01点と区分することにより、比準格差の傾斜線を二次曲線に近似さ
せリニア化を図るという具合である。
「格差比準の区分コード表の例示」
※ (個別)(地域)の各々の欄にコード番号が表示されているのは、価格
形成要因として用意されていることを示す。
※各要因項目の末尾に数値要因とあるのは、価格形成要因を直ちに数値
比準表要因として採用が可能なものである。
例えば街路幅員4mと8mは比準表において1mあたりの格差点数を用
意しておけば、各々に比準点数を与えることができる。駅への接近条件
としての距離も10m単位で、又は100m単位で格差点数を用意しておけ
ば比準点数の計算は容易である。
※同じように数量化要因とは、街路の方位について、北=-2、西=-1、
東=0、南=+2と数量化し、下水有り=+2、下水処理区域=0、区域外=-2と
数量化できる要因を示す。
(条件) (個別)(地域)   (項目)--------(デジタル化)
(街路) 1111 1211  道路の系統・連続性
(街路) 1112 1212   道路の幅員---------数値要因
(街路) 1113 1213   道路の舗装状態-------数量化
(街路) 1114 1214   道路の歩道状態-------数量化
(街路)    1215   街路の整然性
(街路)    1216   街路の方位---------数量化
(街路) 1115 1217   その他
(接近) 1121 1221   最寄り駅への接近------数値要因
(接近) 1122 1222   最寄りバス停への接近性---数値要因
(接近) 1123 1223   最寄り駅の性格
(接近) 1124 1224   商業施設への接近性-----数値要因
(接近) 1125 1225   公共施設への接近性-----数値要因
(接近)    1226   都心との距離--------数値要因
(接近) 1126 1227   その他
(環境) 1131 1231   日照・通風等
(環境) 1132 1232   地質・地盤・地勢等
(環境) 1133      隣接不動産等周囲の状態
(環境) 1134 1233   居住環境
(環境) 1135 1234   用途の多様性
(環境) 1136 1235   繁華性の程度
(環境)  1236   背後地の状態
(環境)  1237   顧客の状態
(環境)  1238   商業施設の配置
(環境)  1239   画地の規模
(環境)  1240   画地の配置の状態
(環境)  1241   土地の利用度
(環境) 1137 1242   供給処理施設の状態-----数量化
(環境) 1138 1243   危険・嫌悪施設への接近性--数値要因
(環境) 1139 1244   その他
(画地) 1141      規模------------数値要因
(画地) 1142      間口・奥行の関係------数値要因
(画地) 1143      形状------------数量化
(画地) 1144      方位------------数量化
(画地) 1145      高低差-----------数値要因
(画地) 1146      角地------------数量化
(画地) 1147      準角地-----------数量化
(画地) 1148      二方路-----------数量化
(画地) 1149      三方路-----------数量化
(画地) 1150      四方路-----------数量化
(画地) 1151      中間画地----------数量化
(画地) 1152      その他
(行政) 1161 1251   用途地域等---------数量化
(行政) 1162 1252   その他の地域・地区等----数量化
(行政) 1163 1253   建ぺい率----------数量化
(行政) 1164 1254   容積率-----------数量化
( 他) 1171 1261   将来性
( 他) 1172 1262   市場性
( 他)  1263   同一需給圏内の地位
( 他) 1173 1264   その他

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