福井シンポ報告

 9月28日29日と二日間にわたって越前福井市で開催されました、
「第18回不動産鑑定シンポジウム」に参加して参りました。
 色々な事情から当初は参加の予定はなかったのですが、参加者が少な
いからというお誘いもあり参加致しました。
ところが、このシンポジウムが鑑定協会特別研修に認定され8単位が与
えられることになった影響もあってか、200名弱の参加を得て大盛況
でした。
 協会研修委員会の皆様やボランテイアでパネラーをお努めになった会
員諸兄姉、そして設営準備に当たられた福井会の皆様にはご苦労様でし
た。感謝申し上げます。
 全体を通じたテーマは「不動産鑑定に求められている価格」でした。
初日は、田中一行・明海大学教授の基調講演及び個別研究発表、二日目
は高瀬博司研究指導副委員長の基調講演、及びパネルデイスカッション
でした。シンポジウムの詳細はいずれ鑑定協会より冊子にまとめて配布
されるでしょうから、茫猿の感想を中心にご報告します。
【正常価格論】
 価格論争、特に正常価格はなんぞやという論争は得てして神学論争に
為りがちです。今回のシンポジウムもその傾向なし、という訳ではあり
ませんでした。
 証券化や時価評価という観点から正常価格を論じる都会派論者と、開
発や立地調査等における鑑定需要者の観点或いは公共事業用地取得者の
観点から価格を検証する論者の、双方の論点がうまくかみ合ったとは云
えなかったように思います。すれ違ったと申した方が正しいでしょう。
 この論争すれ違いの原因は、次のようなものだと考えます。
・最近の証券化等の新規鑑定需要は複合不動産を対象としていること。
・地価公示や公共事業用地は更地が対象不動産であること。
・時代の変遷や市場の期待に積極的に応えてゆこうとする立場と。
・基準改訂の経緯或いは当初から鑑定基準が内在させる哲学重視の立場。
 もっと大胆に云えば、昨今の特定価格大増発に示されるように、価格
の種類を増やし、正常価格の前提条件も増やし、市場のニーズにきめ細
かくダイナミックに応えてゆこうとする立場が一方にあり。
 それに対して、正常価格という基準点を明確に強固にし、その基準点
から市場の要請に応えてゆこうとする立場が片方にあるのではないでし
ょうか。
 現在の鑑定業界における事象を批判的に吟味すれば、市場(不動産市
場としても、鑑定依頼市場としても)、特に東京都心三区市場に目を奪
われて、市場の要請に応えることに急であるように見えることです。
 今回のシンポジウムに代表されるような価格論、すなわち正常価格の
定義付けや特定価格増発の是非論争を置き去りにして、市場に迎合する
かに見える鑑定業界挙げての対応ぶりが、業界全体を上滑りさせている
のではなければ幸いです。
 正常価格の多様化(この用語は吟味する必要がありますが、少なくと
も依頼者が多様化した価格を求めているという意味で)に、如何に応え
てゆくのかを模索し、鑑定業界が速やかに応えないと市場は待っていて
くれないと力説する立場があります。
別の観点から云えば、このままに放置すれば証券化に代表される新しい
不動産評価需要は他の業界 (会計財務業界、アナリスト・コンサルタン
ト業界)に、奪われてしまうという論者からすれば、事態の急変に無頓
着な人々は腹立たしいものに見えるのでしょう。
 さらに云えば。
・正常価格は点に限定されるのか、価格幅は許容できないのか。
・収益価格と比準価格の間に存在するであろう正常価格の決定定義。
・正常価格希求過程の情報公開、説明義務に応えているか。
・正常価格と市場価値(価格)、さらには市場の定義付け。
等々に関して、議論が深められなければならないのでしょう。
【キーワードは情報公開と基盤整備】
 田中教授並びに高瀬氏の基調講演を伺って、改めて茫猿は思いました。
現在の鑑定業界に求められているもののキーワードは、情報公開と情報
基盤整備だと思います。
 情報公開は外的情報公開と内的情報公開があり、外的情報公開として
は、求めに応じて情報を公開するのでなく、積極的に社会へ情報を提供
してゆくという姿勢が必要なのだと考えます。
 鑑定評価書は、社会に対する鑑定士の意見発表の手段であることから
すれば、一般社会が誤解をまねかない方法による価格情報提供が必要だ
と考えます。
※例えば、正常価格としての公示価格に潜む問題点の情報提供。
・公示価格は標準地の価格であるから、世間では標準価格と解する。
・しかし、個別格差を内在させている。
・比準価格と収益価格の開差の存在と開差の非開示状態の解消。
 内的な情報公開としては。
解釈改憲的、留意事項の乱発はさておき、「知らしむべからず依らしむ
べし」という風にみえる本会の姿勢は納得できない。
 様々な議案・課題について原案試案から成案に至る途中経過情報は公
開はできないのでしょうか。
インターネット利用を促進して、協会がWebを利用して多くの情報を
会員や社会に公開し、意見集約を図る姿勢を示すことが全体としての推
進力にもなるものと考えます。
その意味では、取得・配布が進められている本会事務局や役員の「鑑定
協会ドメイン・アドレス」を、速やかに公開されることを求めたいと考
えます。
基盤整備については、
IT基盤の整備に早急に取りかかる必要があると考えます。
前述の、「鑑定協会ドメイン」によるメールアドレスを公開してほしい
ものだと思います。フラットな文鎮型情報交換機能の構築を図り、地方
圏と都市圏の立地格差を無くしてほしいと考えます。
さらに大事なのは、「鄙からの発信」で、度々取り上げております、取
引情報(取引価格情報ではなく、取引対象地・取引時点・取引当時者等
の取引原始情報)、並びに賃貸情報 (取引情報と同様の趣旨で、賃貸建
物と敷地、賃貸当事者等を中心とする原始賃貸情報)の収集整備体制や
共通ファイルの構築が喫緊課題と考えます。
 取引価格確認は未了であるが取引事例収集の基礎である取引情報を整
備し、賃料確認は未了であるが賃貸(収益)事例収集の基礎である収益情
報を整備することにより、情報加工業者としての側面を否定できない鑑
定業界の基盤整備を、早期に実現したいものだと考えます。

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