三題噺(蛇足)に応えて

【茫猿遠吠・・三題噺(蛇足)に応えて・・01.08.03】
 畏友、H.K氏から、先号の三題噺中の蛇足に応えてE-mailを頂きま
した。茫猿の問題提起をさらに掘り下げて解いて頂いておりますので、
掲載致します。
 投稿者名は匿名と致しますが、『鄙からの発信』読者諸兄には既にお
馴染みの辛口論客であり、全体をお読みいただければ、アァあの方とお
判り頂けるはずです。
E-mail 引用開始
 ご無沙汰しております。H.Kです。
久々に私の出る幕といいますか、黙っていられない話題でしたので、
一言申し上げます。
『鄙からの発信』引用
 都市圏を中心に事例など要らないという鑑定士がいる。全国ネットで、
廉価大量処理を行い、収益価格中心で評価を行うから取引事例など要ら
ないと云う、比準価格的地価水準は、公示・調査・固評標宅のデータか
ら比準すれば十分だという。
『H.K 氏』
何?!!!
「収益価格中心だから、事例は要らない」
などという鑑定士に、的確な収益還元法などできないでしょう。
そんなことを偉そうに言うヤツの顔が見てみたいものです。
『鄙からの発信』引用
 そういう鑑定士は公示・調査・固評の業務に従事したことがないか、
していても軽視しているのであろう。公示・調査・固評・相評のために、
どれほどの努力を払って取引・賃貸・建設の資料を収集しているか想像
してみたこともないのであろう。
『H.K 氏』
 もちろん、我々が公示等でどれだけ労力をかけて事例を作ってるかな
どは彼らには思いも及ばないのかもしれません。しかし、そんなことは
この際どうでもいいのです。
 そんな商売にもならないことを好んでやっているのは我々自身なのだ
から。別に我々の汗の結晶である事例を踏みにじられようが、そんなこ
とはどうでもよい。
 しかし、「事例など要らない」と豪語するような輩に精度の高い鑑定
をする能力など断じてない、と言ってやりたい。
『鄙からの発信』引用
 比準価格軽視論が蔓延し、評価の根幹が崩れつつある。
『H.K 氏』
この点は、ShinSanもご承知のとおり、
私のサイトでは以前からずっと危機感を訴えております。
『鄙からの発信』引用
収益価格なかでもDCF法の手法論ばかりが横行して、賃貸資料論がな
おざりにされている。比準価格について云えば、このデジタル時代にア
ナログ比準表が相も変わらず横行し、デジタル比準表論が全くと云って
いいほど聞こえてこない。
『H.K 氏』
 収益還元法の手法自体に精緻化すべきところなどほとんど残っていま
せん。精度を上げるためには、賃料や利回りデータを整備することに尽
きます。今精緻化すべきなのは、取引事例比較法です。
 私のサイトでも以前に書いていますが、少なくとも重回帰分析で比準
を検証するくらいはすべきです。
だいたい統計学的に言えば、比準評点のほとんどが1%から始まる比準表
というのは、あきらかにおかしいです。
重回帰分析を利用したヘドニックアプローチ的に考えれば、価格関数と
いうのは、例えば、
Y=a0+b1X1+b2X2+b3X3+・・・・
 (但し、X1,X2,X3は価格形成要因(=パラメータ)
 b1,b2,b3はその係数、a0は定数項)
という形で表され、b1,b2,b3の数値は皆異なるはず。
場合によっては桁も違うはず。
つまり、この価格関数で比準表を作れば、ある要因は1.3%刻み、
またある要因は12.6%刻みなどというふうになるはずです。
しかもこの重回帰分析は線形近似(1次関数による表現)なのですが、
実際の価格関数は非線形(2次以上)と思われるので、さらに複雑な式
になる。
 これを推定しようと思うと従来の統計学を超え、近年話題のAIによる
ニューラルネットワークなどを駆使した非線形回帰をしなければならな
い。
(茫猿独白:取引事例比較法から市場資料分析法への転換もしくは併用
が図られなければならない時期が到来していると考えます)
 こんなふうに比準を高度化する方法論は手付かずで残されている。
ここで忘れてならないのは、いかなる最先端の技術を用いて、高度な分
析をしようとする場合でも、最も大切なのは、インプットデータを収集
することだという事実。
 事例などいらないと豪語する輩は、自ら無能であることを暴露してい
るに過ぎないのです。
『鄙からの発信』引用
 比準価格も収益価格もその信頼性や規範性は、まず基礎資料の質と量
に左右されるのではなかろうか。そのことを忘れたどのような高邁な理
論も、所詮、砂上の楼閣であり、空理空論であるのではなかろうか。
『H.K 氏』
 まったくもってそのとおりであります。
こんな学問的にいえば初歩の初歩レベルの当たり前のことを声高に主張
しなければならないという業界の幼稚さこそが、我々にとってのアキレ
ス腱なのです。
こういった基礎的認識をわきまえているか否かによって、
正しくNatural Selectionがなされればいいのですが。
 近年、すべての業界において、
どんなに無能であっても、資金力と組織力と政治力のある者だけが幅を
利かせるような不条理が横行しておりますので、我々個人は、もっとも
っとずる賢い手立てを講じないといけないのかもしれません。
 ああ、この国に、「本当の」実力主義が根づくのは、いつのことなの
でしょうか。
P/S:目のほうは、もうだいぶよろしいんでしょうか? 心配です。
(茫猿返礼:ありがとう、それなりにの状態で安定しつつあります。)

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