桜とオデン

 4月1日だけどエイプリルフール記事ではありません。
嘘のような、本当の話です。


「その一、つる軒」
 固評鑑定業務も無事に終わったことだしと、気のおけない仲間達と名古屋の旨いものを食しようと集まりました。何処で何を食べようかということになったのですが、誰かが曰く、豪勢にオデンを食べようと云うことになり、中央本線千種駅にほど近い「つる軒」というオデン屋さんにあがりました。
 オデン屋さんにあがるという表現は変です。オデン屋なるものは大概、縄のれんをかき分けてカウンターに並び、めいめいがオデン鍋から好みの具を見繕って注文するというのが見慣れた光景です。
 ところが「つる軒」は違うのです。数寄屋風の簡素な作りのお店の玄関を入ると、坪庭風にしつらえてある揚がりかまちから座敷に通されるのです。オデンを座敷で食した経験は、皆さんも少ないでしょう。茫猿は初めての経験でした。座卓の中央には座敷用コンロがおかれ、その上には真鍮製のガッシリとした鍋が鎮座しています。
 鍋の中には、なみなみとチョコレート色の味噌タレが満たされており、数種類のオデン種がグツグツと揺れているのです。つる軒は名古屋名物の味噌タレのオデンを提供する店であり、メニューはオデンだけです。飲み物もビール一種類、地酒一種類だけという、徹底したコダワリの店です。
 三河の赤味噌に慣れている私達でも驚いたくらいですから、他所の人々があの鍋を見たらギョッとするでしょう。オデン種はすだれ麩(角麩)、焼豆腐、蒟蒻、里芋、玉子、豚バラ肉そして大根です。いずれも下煮が施されており、味噌鍋でしばらく煮て具の周囲が味噌に染まった頃、取り皿に分けて味噌タレをたっぷりとかけていただきます。具はこの七種類だけですが、茫猿くらいの年齢になれば十分満腹できます。茫猿が一番おいしく頂いたのはすだれ麩でした。
 オデン種の内、煮玉子は最後にいただきます。茶碗のご飯の上で玉子を割りほぐし味噌タレをかけて頂きます。三河味噌に慣れない人には好否が分かれるでしょうが、味噌カツや味噌ウドンが食せる方なら大丈夫です。
 推量する味噌タレのレシピは、次のとおりです。
三河の八丁味噌(三年味噌)に好みで二三種類の味噌をブレンドします。このブレンド味噌に黄ザラメ砂糖を甘くなるくらいに入れます。そして、出し汁、煮きり酒、味醂少々を加えて火を通します。
 この味噌タレを一晩以上寝かせれば、名古屋名物赤味噌タレが出来上がります。このタレは冷蔵庫に保存しておけば、オデンタレの他にも豚カツや串カツにかけても佳し、少し辛目に調整すれば味噌煮込みウドンのスープとしても利用できます。薬味は好みですが、山椒、七味唐辛子、溶き辛子、刻み葱などでしょう。以前に『鄙からの発信』で照会した「黒七味」との相性も好いものです。
 つる軒は完全予約制ですが、下記のWeb Siteから予約ができます。料金は一人前六千円です。名古屋においでの折りは、味噌カツや味噌煮込みだけでなく、つる軒の味噌オデンも話の種として一度味わってみて下さい。オデンに六千円は高いと思し召しでしょうが、それだけの値打ちを感じることができるでしょうし、話の種を仕入れたと思えば安いものです。
 Web Siteに、にこやかな顔を披露されているご主人の歌村鴻助さんにお会いできるのも楽しみにしていたのですが、残念ながら三年前にお亡くなりとのことで、現在は二代目がお店を守っておられます。
「その二、KIHACHI」
 某日は、名古屋ツインタワーに出店しているキハチでキハチ流無国籍料理を頂きました。頂いたのはランチメニュー(五千円)ですが、面白い注文の方法をお教えします。
 ランチメニューは六種類の前菜から二種類選択、主菜は二種類から一種類選択できます。さて、キハチは三人以上で行かれることをお薦めします。つまり、三人以上で有れば六種類の前菜全てが味わえます。当然、二種類の主菜も全て味わうことができます。店も心得ていて、小分け皿を用意してくれます。イエスの確認声が飛び交う活気有るお店で、オープンキッチンを眺めながら、キハチの創作料理を味わうのは楽しい時間です。KIHACHI(キハチ)無国籍料理
「その三、薄墨桜」
 桜という字は、二階の女が気にかかると字解きします。本字・櫻のことです。「二貝の女が木にかかる」という訳です。
 五月を思わせる陽気と艶っぽい字解きに誘われて、宇野千代さんに発見され全国的に有名になった、樹齢千年ともいわれる「薄墨櫻・エド(ウバ)ヒガンサクラ」を見に行きました。
 まだ咲き初めということであり、満開は4/7前後のことでしょうが、それでも三分咲きくらいでしょうか、白い花弁が青い空と遠くの能郷白山の残雪に映えて、とてもきれいでした。花見客は結構多かったのですが、都会周辺の櫻名所が満開であることから、奥山の根尾村では人混みとまではゆかず、ゆっくりと櫻を楽しめました。
 樹齢千年を思わせるにふさわしい古木であり、雪深い根尾村の風雪にさらされた樹肌は風格を漂わせる存在感がありました。
 花見に酒は付き物であるから、車を使わずローカル鉄道の樽見線の乗客となったのですが、東海道線大垣駅から終点樽見まで約一時間の旅程も、駅付近や集落に、そして山の中腹にと、随所に櫻があふれており、清流根尾川を車窓の左右に眺めながらの退屈しない一時間でした。
 薄墨桜は樹高約16m、樹径約10m、枝張り約25mの老巨樹です。薄墨のいわれは、花の散り際に白い花弁が薄い墨色をおびることから名付けられたとのことです。薄墨色に出会うには散り初めから落花盛んの頃に訪れると佳いでしょう。「薄墨桜・本巣市根尾(村)」
  花越しに 残雪はえる 薄墨郷(うすずみごう)
・・・・・・・本章終わり・・・・・・・

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