新基準を考える-環境整備

【茫猿遠吠・・新基準を考える-環境整備・・02.10.17】
 鄙からの発信前号 No.2002-1016「新基準を考える-特定価格とコンサルタント」
の記事は幾つかの推敲の足りない箇所がありました。加筆訂正した記事を Web
Site 『鄙からの発信』に掲載しております。お時間があればお目通しあれ。
 さて、新基準の主要改訂ヶ所に、不動産の調査項目の充実、広域的な市場特性
の分析、説明責任の強化等の新しい課題があります。これらの改訂された課題に
ついて、単なるお題目に留まらせるか鑑定評価書の充実につなげるかは、基本的
には個々の不動産鑑定士の課題でありましょう。
 しかし、いずれも広範な内容を含むモノであり、課題を充足するためには恒常
的な資料整備が不可欠であり、それを個々の鑑定士の努力のみに待つのは無理が
あり、メソッドを含めた組織的対応が必要と考えます。
 NO.2002-0826~NO.2002-0830の投資インデックスと題する記事も、収益還元法
充実に関する環境整備提言であります。六次の改訂を経ているとはいえ、アナロ
グ時代の手法を脱していない土地価格比準表についても、コンピュータが身近と
なったデジタル時代に合わせた検討が必要でしょう。
 新基準が示す課題について具体的に、今なし得ること為さねばならないと考え
ることについて考えてみます。
「収益還元法の建物想定について」
 CADシステムを駆使した建物想定が求められるでしょうし、地価公示等にお
いては想定建物の整合性が求められると考えます。収益データ整備については前
掲投資インデックス関連記事で記しています。
「土壌汚染等の地中の状態について」
 一例として、水質汚濁防止法第22条2項の規定による報告資料のデータ整備
が必要でしょう。報告資料は膨大な量でありデータファイルとして整備しなけれ
ば見落とし等の手落ちを生じかねないものでしょう。
「広域的な市場特性の分析について」
 日本不動産鑑定協会の研修テキスト・ケーススタディー・市場の特性分析」の
例示をみれば、同一需給圏における市場参加者の属性及び行動その他の分析につ
いては茫猿がかねてから提言する取引悉皆調査が有用な資料となり得ると考えま
す。取引事例調査の原始データである所有権移動資料を埋もれさすことなくデー
タファイル化すれば、あるエリアに於ける取引当事者の属性動向、取引対象の種
別・規模等の動向について的確な資料が得られると考えます。同時にその分析ツー
ル開発も課題です。
「説明責任の強化について」
 いわゆる公的評価においては、比準表を駆使した取引事例比較法が主流になり
つつありますが、前述の比準表整備を含めてまだまだ不十分と考えます。
評価過程を明示し説明責任を果たすためには、データ整備と手法整備が欠かせな
いと考えます。例えば地価公示標準地・地価調査基準地・固評標準宅地等につい
て選定調書のデータファイル化整備が急務でしょう。
 標準地等の地積・間口奥行・接面道路幅員・都計規制等のテキストデータ要因
にとどまらず、地形図・住宅地図や写真等のイメージデータを含むデータファイ
ル整備を進めることが期待されます。
 要因テキストデータの整備は規準作業の有力な資料となるでしょうし、比準表
の構成を行う上でもよい資料になると考えます。住宅地図や写真のデータストッ
クは標準地周辺の経年変化を見る上でよい資料になると考えます。
 これらCADシステム導入であれ、デジタル的資料整備であれ、それを個々の
鑑定士が独力で行うにはあまりにも負担が大きく現実的ではありません。協働し
た組織的整備が求められるものです。
同時に、資料整備のシステムを日本不動産鑑定協会ばかりに依存するのも考え物
だと思います。単位士協会が率先して整備を行い、その結果を全国的ネットワー
クにつなげてゆくという方法が現実的であり近道でもあると考えます。
 新基準という新しい革袋に旨酒を満たす為に、新基準を画餅にしないためにも
単位士協会が果たす役割は大きいと考えます。
 組織論からいえば、資料整備事業を公益法人の事業として拡大してゆくことに
は幾つかの壁が存在することも否定できません。しからば、鑑定評価資料整備と
いう基盤整備を事業目的とする新しい革袋(オンラインネット・中間法人・組合・
営利法人等)を利用することも検討してよいと考えます。
 いずれにしても、曲がり角だとか右肩下がりだとかが云われる鑑定評価業務市
場について業際部分を含めて充実する方策は、資料整備充実という足腰の強化に
あると考えます。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・・・・
 環境整備・資料整備について、都市圏と地方圏との間には大きな環境落差が生
じていることは承知しています。本稿は、茫猿の身の廻りにおいて身の丈で考え
実行してゆこうという提言に他なりません。
 次号は、肩を楽にして「京町家でごはんを」及び「ウンコロジー」です。

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