鑑定評価の自由競争入札

【茫猿遠吠・・鑑定評価の自由競争入札・・02.10.24】
 郵政事業庁が全国一斉に大量の鑑定評価業務を発注するに際して、自由競争入
札を開始している。既に各地域の入札説明会は終了し、順次各地で入札が行われ
ているようである。この件に関して日本不動産鑑定協会が全国単位士協会に対し
て行ったアンケート結果が、本日、士協会経由で送付されてきた。
 郵政事業庁の大量の鑑定評価業務発注について、その詳細を茫猿は知らない。
郵政事業庁の Web Site にも、日本不動産鑑定協会の Web Site にも何も掲載さ
れていない。推測するに郵政事業庁が郵政公社化するに際して、全国の郵便局資
産の再評価が必要であり、その内敷地の評価を鑑定評価にて行おうとするもので
あろうが、この件については幾つかの問題点が指摘できる。
1.「郵政事業庁の鑑定評価委託経緯」
 郵政事業庁は、用対連(用地対策連絡会)のメンバーであり、過去に局舎敷地
等を取得する際には、用対連規定に則して随意契約により鑑定評価業務を発注し
てきた経緯がある。これら鑑定評価の発注は、用地取得だけでなく遊休地売却の
場合も同様の方法によって鑑定業務発注が行われてきた。
 今回の大量競争入札発注は、これらの過去の経緯及び慣習を、その是非はとも
かくとして一切無視するものである。
2.「事前協議・通告の有無」
 今回の大量自由競争発注が一方的に行われたものか、内々に日本不動産鑑定協
会との打ち合わせが行われたか、或いは日程を含めた実施通告が事前に行われた
か否かが知りたいものである。事前通告がありとすれば、それに日本不動産鑑定
協会が如何に対応しようとしたかも知りたいものである。
事前通告も事前協議もないとすれば、日本不動産鑑定協会の存在感もしれたもの
といえよう。
3.「日本不動産鑑定協会アンケート」
 アンケート結果を見ると近畿地区単位士協会の対応と北陸地区単位士協会の対
応が興味深い。送付されたアンケート結果によれば、滋賀会、京都会、大阪会、
奈良会、和歌山会は対応に若干の違いはあるが、「競争入札を周知する立場にな
い」として、一件書類を返却したようである。北陸の石川会、福井会は所轄郵政
局と協議の場を設けたいとの回答がなされている。
 他の全国の単位士協会は、回答のあった限りでみれば、所属会員へFax、郵送、
Net掲示等の方法で周知された会が多いようである。他には「関与していない」、
「特にない」という回答もある。
なお、我が岐阜会では、幸か不幸か、郵政局からの連絡郵便物が他の書類のなか
に紛れ込んでしまい、開封が遅れた結果、会員への周知もなにも無しという結果
でした。会員にとっては、「自由競争入札に参加するかしないかという踏み絵」
を踏む行為が未然に防げた訳であり、事務局の怪我の功名とも云える結果でした。
4.問題点「一括発注」
 今回の鑑定評価業務発注について、詳しくは知らないことを断った上で、知り
得た断片的情報から問題点を考えてみます。
 各地方郵政局或いは中央郵便局にて、都道府県別に予定する鑑定評価発注件数
を一括して競争入札に付したようである。つまり、岐阜県内で30件ありとすれ
ば、その30件を一括して入札対象とするということである。
 これは、落札業者の業務遂行能力に関わる問題であり、零細事務所ではJVを
組まない限り、業務遂行に責任が持てないと云うことにつながる。
 未確認情報ではあるが、某地区において約200件を千数百万円で落札したと
いう情報がある。(1件当たりの鑑定評価報酬は数万円である。)
 また某地区では、応札価格が低廉に過ぎて、落札者が決定されなかったという
情報もある。
5.問題点「発注仕様書」
 大量一括発注にもかかわらず、仕様書が示されなかったように聞いています。
成果物である鑑定評価書の仕様が「地価公示スタイル」、「固評標宅評価スタイ
ル」であるのか、自由仕様であるのか、というあたりも結構問題なのでしょうが、
仕様書無しという、事後に問題を起こしそうな発注だったようです。
6.問題点「鑑定評価入札発注」
 一番の問題点は、鑑定評価業務は入札になじまないということで、従来は推移
してきたことです。前述の用対連発注、地価公示、地価調査、固評標宅鑑定等々、
官公庁発注業務は総て随意契約による業務委託契約が行われてきました。
これに、自由競争入札という風穴が開いた訳です。影響するところは大であり、
今後の展開並びに影響が懸念されます。
 また影響範囲を絞ってみても、公社公団の民営化、大学などの独立法人化など、
「小泉改革」に伴う、多くの官公庁の組織変更や移管に伴う資産評価業務が大量
に発生する訳であり、それに伴う不動産鑑定評価業務の発注形態がどのようなも
のになるのか、鑑定事務所経営者としては無関心ではいられません。
7.問題点「鑑定評価報酬」
 以前からいろいろな場所で語られてきましたものの、有効な改善策が得られな
かった問題点に、鑑定評価報酬の在り方があります。鑑定評価報酬は地価公示の
ように地点当たり一律という積算方法と、評価額に応じた従価報酬という積算方
法、並びに業務量に応じた積算方法(人工積算・ニンク積算)の三種類があり、
この三種類の積算方法の使い分けが一般的でした。
この積算方法の内、用対連では従価報酬によって鑑定評価報酬が積算されてきま
したが、今回の郵政事業庁事件は発注形式の変更と同時に評価報酬の積算方法も
変えてしまう端緒となるのではと危惧します。
・・・・・・いつもの蛇足というか閑話休題・・・・・・・・・
 以上、デフレ不況に呻吟する世間から見れば「何を太平楽を謳うのか」と言わ
れそうなことを書いていましたら、「モスクワで 23日夜(日本時間 24日未明)、
約 40人の武装グループがミュージカルを上演中の劇場「国営ベアリング工場文化
宮殿」を占拠し、観客ら 600人以上を人質に取り立てこもった。」というニュー
スがネット経由で飛び込んできました。
 当たり前と云えば当たり前のことですが、
デフレの嵐、テロの嵐、鑑定評価も嵐の埒外にノホホンとお気楽にいることが許
されない。鑑定評価の自由競争入札を慨嘆するなんて、茫猿のお気楽さを暴露す
る行為に他ならない。
 秋たけなわの青天のなか、黙然端座して艶めきはじめた山を観る茫猿でした。

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