競売最低価格制度の行方

【茫猿遠吠・・競売最低売却価格制度の行方・・03.03.14】
 不動産鑑定士にとって、今や残された数少ない安定業務と見られていた「競売評価業務」の行方が案じられる状況にある。茫猿流のセンセーショナルな見出しを付けるとすれば、「春嵐を凌げるか風前の灯火」とでも云いましょうか。


 最初は、1999/2/26付け経済戦略会議の「日本経済再生への戦略」と題する答申に始まる。この答申では、「現行の最低売却価格制度を廃止し、最低売却価格の決定を取引参加者に委ねるべきである。」と提言している。 次いで、総合規制改革会議の第一次答申では、「最低売却価格制度の在り方について検討すべきである。」と指摘されている。
 さらに、2002/3/28付け法務省のパブリックコメント募集では「担保執行法制の見直しに関する要綱中間試案」に関する意見募集が行われ、その補足説明(PDFファイル)では、最低売却価格制度に関して、維持・廃止・改定に関して補足説明が行われている。
 その後、最高裁や法務省が制度維持の方向にあり、2003/2/5付けにて法制審議会が行った答申では、占有排除や強制管理については改定案が示されたが、最低売却価格制度についてはふれられておらず、制度は現行のままに維持される方向かと考えられていたが、02/14/2003に至って、状況は急展開を見せた。
 2/14 自民党法務部会 (NIKKEI-NET 記事より引用)
 自民党は不良債権処理を促進するため、競売手続きの抜本改正を決議したとあり、改正の焦点は競売価格の規制緩和であり、現行の最低売却価格制度の廃止を視野に入れて見直すとある。
http://adb.nikkei.co.jp/sp1/nt32/20030214AS1E1400Q14022003.html
 この記事中で、注目されるのは『最低売却価格は、市場価格より高めに設定され、取引が成立しないケースが多いほか、再競売のために、最低売却価格を評価し直すのに多大な時間が掛かっている。』という記事である。 茫猿は実態は随分と違うと思うが、それとも、何処かではそんな状況がまかり取っているのであろうか。そんな、時代錯誤の評価人(そのほぼ全ては、不動産鑑定士であろう)が存在するのであろうか。
 そして、3/1・法務省である。 (YOMIURI-ON-LINE 記事より引用)
 法務省は、最低売却価格制度を見直す方針を固めたとある。同制度が、不動産の流動化を妨げている原因の一つと指摘されているためであり、売却価額に制限を設けない「選択制」の導入などにより、制度を弾力的に運用できるようにする考えとある。 法務省は、三月下旬の法制審議会に諮問し、来年の通常国会に民事執行法の改正案を提出する方針とのことである。
http://www.yomiuri.co.jp/01/20030302it01.htm
 さらに、3/8 福岡・全国競売評価ネットワーク創立総会において、裁判所関係者S氏は来賓挨拶のなかで、このように述べられた。「最低売却価格制度は廃止されません。現行制度が維持されます。ただ、当事者が最低売却価格を設けない競売申立も選択できるようになるだけです。」
少なからぬ当日の参加不動産鑑定士は、この発言を伺って胸をなで下ろしたようである。
 読者諸君は、なぜこれらの経緯が最低売却制度の命運につながるか理解できるであろうか。茫猿はこの「選択制」は「トロイの馬」だと考える。この原稿をタイプしている間に何度も「最低馬脚価格制度」と表示されて苦笑していたのだが。
 「制度の本旨は最低売却価格設定にあり、それを設けないのは当事者の選択、というよりも競売申立人の選択です。」という表現は、一見して制度維持と読めるでしょう。しかし、ことの経緯、競売市場の実態を検討すれば、とてもそんな安楽な状況ではない。
・金融機関を中心にして、経済界では規制緩和を望んでいる。
・競売の迅速化というより、不良債権の迅速処理を競売が阻害するという認識。
・最低売却価格を設けるための費用と時間の負担。(その分実質配当が減る)
・当事者には債務者も含まれるが、債務者が異議を述べる場面は少ないだろう。
 唯一、価格設定が求められるのは、競売を申し立て最低価格を裁判所が表示した後に、その価格を拠り所として競売申立を取り下げて任意売却を行うことを予定する場合だけであろう。 なかには、応札価額の指標として最低売却価格は必要という鑑定士側の意見もあるが、債権者がそのように考えるだろうと推測できる確かな根拠は認められない。
 だから、茫猿は「選択制」は「トロイの馬」だと云う。最低売却価格制度(不動産鑑定士の競売評価業務)は風前の灯火と見るのである。経済界・政界における、この制度改廃への大合唱に鑑定士或いは鑑定業界が抗しきれるものであろうか、疑問である。
 ・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
 会長選挙立候補者が出揃ったようである。どうやら安藝・横須賀両候補者は
競売評価制度の維持を公約の目玉に据えたように見える。 従来、競売評価や競売評価人会とは一線も二線も画していた、日本不動産鑑定協会であるが、安藝会長が福岡で開催された前述ネットワーク会議に来賓出席されご挨拶された。
 これらのことに特にコメントするつもりはないが、今月下旬に改正を旨として法制審議会に諮問が行われ、しかも裁判所事務当局も「選択制」導入は既定の事実とお考えのようである。方向は既に決まったも同然だろう。
 そして、最も危惧するのは、競売評価という、永い歴史をもつ評価制度(当初は固定資産評価と同様に精通者が選任されえていた)が変わると云うこと、つまり第三者の評価を基礎として制度を運用するという骨組みが変わることである。
 市場の選択に委ねる、市場の決定に委ねる、という方向は一見して妥当性が高く見える。では、不動産鑑定士は何処にその存在意義を求めたらよいのであろうか。
 競売処分という極限状況に於いても市場に任せるという方向が示されれば、「取引の基準・標準・規範・指標」というお題目など存続し得ようか。真に指標たり得る不動産鑑定評価は、今後も市場の需要があるだろ。ただ単に制度が求めているから、法定制度だからというような権威主義的な評価が残り得るとはとても思えない。
 固定資産評価だけは残ると信じる貴兄姉に問いたい。制度のもつ本旨からして、継続的使用価値すなわち収益価格重視でなければならない固評について、我々鑑定士自身はどのような提言を行い、どのような評価書を提出してきたのであろうか。茫猿自身の自省も含めて改めて問い直すのである。制度維持・既得権保持に汲々としてきただけでなければ幸いである。
 先日の差額配分法を否定する高裁判決と併せて、法曹界における鑑定評価への風当たりの強さを改めて思うのである。
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_boen/newspaper.cgiaction=view&code=1042291357

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