読者の疑問に応えて

 取引価格情報開示制度も、その後の進展がなかなかに見えてこない状況にあります。鑑定協会の04年次総会質問に始まる我がサイトのミニキャンペーンや岐阜・東京の往復にも少し疲れて、新規記事掲載を停めていました。折しも読者から質問を頂きましたので、質問を縦軸にして発信します。


 取引価格情報提供制度の準備進捗状況については、オンラインネットワークシステムの構築仕様作成、価格情報ファイルの作成、管理システムの作成などの作業が水面下では着々と進められているようです。 無責任なようですが、関係者に尋ねてもいませんから、詳細は判りません。
 一つだけ聞こえてきたことは、法務省による初期データの提供が05/04時点には間に合いそうもなく、アンケート開始並びに鑑定士による属性情報の附加作業開始は、05/07頃開始にずれ込むのではと云う未確認情報があります。開始が数ヶ月遅れるのであれば、今の準備状況からすれば好ましいことではあるものの、05年度内に事例収集システムが変更になるという、別の課題を抱えることになります。
 それにしても、土地異動通知書とか登記済通知書といった個人情報を取り扱う立場にありながら、05/04の個人情報保護法施行に向けた準備を進める気配が一向に見えない鑑定協会や士協会は、何を考えているのだろうか。コンプライアンス(法令遵守)ということを、どの程度真剣に受け止めているのであろうかと案じます。
 これについて直接的には関わらないが、関連する興味深い事件がありました。
コンプライアンスというものが企業にとって如何に重要かが叫ばれるようになって久しくなります。それでも最近の「コクド・西武の株式問題」、「読売を始めとする新聞社のTV局株式保有問題」など、企業のコンプライアンス意識の欠如を白日の下にさらす出来事が幾つか露見しました。
コクド(ツツミ・オーナー)と読売(ナベツネ・オーナー)が、楽天とライブドアを審査する光景が茶番劇に見えた一件です。
 事実上解体された雪印の教訓がなぜ生かされないのか、その理由をよくよく考えてみると、今の六十代以上、いや多分五十代以上は、コンプライアンス等と云うものは、知識としては持っていても、多少の教育は受けたにしても、身体に染みついた基本姿勢としては何も無いのではなかろうか。
 つまり、一つは行政府の指導・ガイドライン待ち(指示待ち族)、横並び村体質(赤信号、皆で渡れば怖くない族)に、二十歳の頃より、どっぷりと浸かってきていて、自らの知識と意志で判断するという思考回路を持ち合わせていないのである。規制緩和が持つ別の顔は自己責任であるということに、未だに気付いていないようである。
 我が鑑定業界で云えば、国交省或いは都道府県等、行政官庁の判断・指示待ち姿勢である。自ら考え判断する。時には進んで主体的に提言し提案するという姿勢が乏しいのである。その大きな症候が、国交省ガイドラインが発表されるまでひたすら待つという姿勢である。これは提言・提案することの責任回避或いはリスク回避姿勢とも云えるものである。
 もう一つ見落とせないのは、平成ももうすぐ十七年になることです。昭和から平成に代わって以降、地価は下落を続け鑑定業務は停滞又は収縮の時代を過ごしてきたことです。このことの影響は昭和から続く鑑定業者よりも平成以降に開業した業者の事業実績に色濃く表れていることでしょう。
 取引事例というものは、士協会事務局で閲覧すれば、必要にして且つ充分という教育を受けて育った鑑定士群の存在です。折からの大量低額受注、官公需不況、経費削減という環境のなかで、ゆっくりと手間暇掛けて事例を発掘するという作業が許されなくなって久しくなります。
彼等平成鑑定士群にとっては、事例は作成するものではなく利用するものであり、関心の埒外にあると云えば言い過ぎでしょうか。
 この二つの世代間認識格差が、今の状況を産み出していると云ってよいように思えます。高齢世代は役所あるいは上級組織の指示がなければ動こうとせず。
若齢世代は日々の業務獲得に夢中であり、自らの存在基盤についてはおよそ無関心であるという現実が存在していると考えます。
 若齢世代が業務獲得に夢中とならざるを得ないのは、若齢世代の責ばかりではなく、参入障壁を高くする高齢世代の存在が大きいのが実態でしょうけど。
・・・・・・さて、表題の読者の質問です(匿名)・・・・・・
 今回の事例収集の件は何か基本的な思想が間違っているのではないでしょうか。研修会では理解できなかったことを、担当者に別添書面にて質問しましたが、まだ回答はきておりません。貴兄がご存知のこと、考えておられること、ご意見をお聞かせください。
(一)今回の取引事例の収集・提供スキ-ムは国土交通省の土地鑑定委員会が地価公示法の運用により地価公示の為に取引事例を収集・分析・情報提供するものであり、不動産鑑定士及び、(社)日本不動産鑑定協会は国交省のご下命により作業し、地価公示の不動鑑定評価書を作成するものであると認識される。
 当然、アンケ-トを基に作成された取引事例の情報は国交省の管理下におかれものと取引当事者(アンケ-トの回答者)は承知してアンケ-トに応じます。
よって、その事例を地価公示の為に使用されることは納得しますし、我々不動産鑑定士も大いに助かり、画期的スキ-ムと賛同できます。
 しかし、一般の鑑定評価業務(鑑定評価業者が報酬を目的で行う)に利用出来ることを土地鑑定委員会の添え状のみで理解が得られるものでしょうか。その根拠は何によるのでしょうか。
 取引事例情報を不動産鑑定士のみが独占的に利用することについて宅建業者、土地家屋調査士、コンサル業者、税理士等からクレ-ムは付かないでしょうか。
現状でも取引事例カードの閲覧について不満の声が特に税理士から聞えています。今までは都道府県単位のことでしたが、国が関与することになると、なおさら心配いたします。どのようにお考えでしょうか。
(二)『市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図る為には』と『物件が特定できないように』とは現実問題として混乱を招くことになるのではないかと恐れます。
 取引事例については我々、不動産の専門家も実務では事例カ-ドの情報だけでは不十分であり、事例の現地に臨み諸要因をテェックして、やっとその取引事例の実態がイメ-ジ出来るものです。
特定できない抽象的な情報が一般人にとって、はたして実際の取引等において役立つものになるのでしょうか。大いに疑問です。
 段階的に公開範囲を広げていくという意図も理解出来ますが、立法によらないのは取引事例公開制度の反対者に恰好の理由を作らせることにはならないでしょうか、心配しております。
(三)アンケ-トによる調査の結果と手法のことですが。
 売買当事者の一方しか利用目的に承知しないときは結果としてその情報は使えないことになるのですか
(四)土地鑑の添え状はどんな内容になっているのでしょうか。
 地価公示の標準地の鑑定評価の基準に関する省令、第5条(資料の収集等)二項により土地鑑が事例をアンケ-ト出来る根拠はありますが、一般の鑑定評価に関してはどうなんでしょうか。
「一般の鑑定評価」とはっきり入れてくれる言質を、協会本部は握っているのでしょうか。
・・・・・・茫猿の私見です・・・・・・
質問(一)について
 今回の事業は「取引価格情報開示制度」であり、地価公示とは一線も二線も画すものである。事業主体(国交省土地情報課)も事業予算も異なるものである。鑑定協会と鑑定士はこの事業に協力して付加情報の収集入力を行うことにより、地価公示基礎資料の提供を受けるものである。
 しかも、アンケートの実施主体は国交省の委託事業として鑑定協会が行うものと理解しています。であればこそ、土地鑑の添え状が附くのでしょう。
国交省や土地鑑が主体としてアンケート調査を行うのであれば、添え状を添付する必要は無くなります。何よりも国交省がアンケート調査を行うのであれば、その結果得た価格情報は直ちに行政情報と化すものであり、鑑定協会への全面的な提供はとても困難なものとなります。
 並行して、鑑定協会によるアンケート調査利用目的は、第一に「取引価格情報開示制度資料」であり第二に「地価公示制度充実、並びに鑑定評価精緻化等」と明記することにより、一般鑑定評価利用に道を開くものであろうと理解しています。
 質問者の懸念には充分な理由があり、一時は水面下で某資格者団体がこの業務獲得(属性情報付加業務)に興味を示したという情報もあるし、鑑定協会が受託できないのであれば、希望する業際資格者団体もあるという霞ヶ関筋の発言もあったと聞いている。
 なお付け加えると、個人情報収集は利用目的の明示と明示した利用目的外使用を禁じている。したがって、収集に際して、趣旨説明書等に利用目的を明示する範囲において、その利用は可能である。
 個人情報当事者(本人)は、明示された利用目的を承知の上でアンケートに回答を寄せたと理解されるからである。いま最も懸念されるべきは、鑑定評価以外の目的外利用であり、例えば、企業経営調査、補償コンサル(微妙ですが)などの目的外利用である。
質問(二)について
 もっともな疑問と思います。茫猿は、今回の事業に関与するに際しては、一部属性情報の付加に止まらず、さらに積極的に標準化補正にも踏み込むべきと考えています。
 立法化に関しては、3年間の試験施行を終えた後は、詳細を検証して立法化も企画されています。同時に、価格情報開示に鑑定士が関与する意味が其処にあり、最低限の属性情報の付加と、将来的には標準化補正後の価格情報開示が望まれるのではないかと予想している。
「規制改革・民間開放推進三カ年計画(2004.03.19閣議決定)」
本制度の中の重点項目である。」
※16年度に、法務省と連携し、現行制度の枠組みを活用して取引価格等を国民に提供するための仕組みを構築。
※17年度に、取引当事者の協力により、取引価格情報の調査・提供を実施。
※18年度に、価格情報の正確さが確保されること、個人情報保護の観点から情報提供方法に関する技術的側面が解決されること等を実績を通じて検証し、この結果を踏まえ、取引価格情報提供制度の法制化を目標に安定的な制度の在り方について検討し、結論を得る。
質問(三)について
 アンケートは買い主にのみ発送されます。売買当事者が協議の上で非回答ならば結果は不明となりますが、買い主が利用目的を承知の上で回答した場合は問題なかろうと考えます。
 ただし、情報漏洩並びに利用実態について売り主から照会があれば、誠実に答える義務が生じます。
質問(四)について
 ご質問の「言質」の他にも数項目に関して、機会ある毎に、鑑定協会として書面申し入れを行うように進言していますが、実行されたか否かは承知していません。口頭で伝えるくらいは行われたであろうと考えていますけれど。

関連の記事


カテゴリー: REA-NET構築 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください