地価公示と法令遵守

【茫猿遠吠:地価公示と法令遵守:05.04.07】
一、新スキーム整備合同委員会・第三WG(ワーキング グループ)。
 茫猿は「鑑定協会新スキーム受入体制整備のための合同特別委員会・同小委員会・第三WG」に所属して、取引価格情報収集と開示に関わるところの、いわゆる「新スキーム構築」作業に関与しています。
 第三WGは、新スキーム実施に際して不可欠である「公示評価員と鑑定協会を結んで構築される中央管理クライアント・サーバネットワークシステム」構築とファイル機能開発を担当しています。
 より具体的に云えば、安全なネットワーク構築と使い勝手のよいファイル機能開発がテーマです。
 この両者については、概ね関係者が合意するところに近づきつつあり、今や意見の相違するところは少なくなっています。
議論の経緯や合意点について、その全てをここに開示することはできませんが、『鄙からの発信』読者であれば、過去の記事からその概要は推察できると思います。概要は、前号記事「新スキーム関連情報の整理」をお読み下さい。
 さて、問題はそれ以降にあります。
本年8月頃から、全国的に平成18年度地価公示作業が始まる予定です。
この業務の過程では直接的に或いは間接的に新スキームに関連する様々な情報や資料が分科会のなかで、あるいは分科会を横断して移送交換するであろうと思います。この公示価格情報をはじめとする様々な情報を如何にして安全に、迅速に、そして廉価かつ利便性高く流通させるかが大きな課題であろうと考えます。
 このことを解決するには、中央管理システムに準拠した、というよりは同等以上に安全で廉価で利便性の高い都道府県各士協会ネットワークシステムの構築と機能性の高いファイル開発が必須であろうと考えます。
 そしてその方向での提案を関係機関に行っています。
『鄙からの発信』掲載記事としても、「10/18/2004 ネットワーク構築案開示 」
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_boen/newspaper.cgi?action=view&code=1097944326
等をはじめとする様々な提案を行って参りました。
二、地価公示業務手引が、ネットワーク構築の障害となっている。
 しかし、遅々として多くの方の理解が得られません。
特に士協会ネットワーク構築に批判される方や反対される方の論拠は、「地価公示においては、FD使用やE.Mail添付ファイル使用など、現行の様々な従来型手段が認められている。」ところにあります。
 この論拠は「平成17年地価公示・業務実施の手引き」に求められるようです。
確かに、同手引きにおいては「データ交換に際しては、FDの使用が指示されています。でもこの手引きの作成者は国交省でも土地鑑定委員会でもなく、鑑定協会であると云う点に注意して頂きたいのです。
国交省はそのような指示を行っていません。
 国交省の指示は、「平成17年地価公示仕様書」にありますが、
国交省は、コンピュータによる各資料等作成を指示する他には、納品成果物にFDの使用を指示するだけです。
同時に地価公示法第24条(守秘義務)の規定により、機密の保持、諸資料保管の注意義務を示し、情報の漏洩や資料紛失なきようにと注意喚起しています。
 以上の脈絡から当然に予想されることは、平成18年地価公示仕様書ではコンピュータ利用並びに事例データ等を移送交換するに際して、
地価公示法並びに個人情報保護法及び同ガイドラインを遵守することが求められるであろう可能性が高いと推定できることです。
三、鑑定協会ガイドラインの改悪(改竄)。
 さらに云えることは、
国土交通省並びに日本不動産鑑定協会が示す「個人情報保護に関するガイドライン」に照らせば、地価公示業務において、従来通りFDやE.Mail添付ファイルを利用して、取引事例等個人情報関連資料を移動したり交換する行為は「不動産鑑定士のコンプライアンス姿勢」を疑われる行為であろうと考えます。
 この点に関して興味深いのことは、
H17.1.17版「鑑定評価業務に係わるガイドライン」では、その58頁で「(7)個人データの送受信システムの徹底…(例)各士協会、会員間で行う土地取引データ等の送受信には、FD、CD等は利用しない。」と記述されていますが、
鑑定協会サイトに開示されているH17.1.18版では削除されています。
なお、国交省ガイドライン第九条(安全管理措置)では、その5技術的安全管理措置第六で、「個人データの移送・通信時の対策」と記述するだけです。
 ところが、経済産業省ガイドラインでは
技術的安全管理措置 ⑥個人データの移送・送信時の対策のなかで
【各項目について講じることが望まれる事項】 という項があり、
⑥個人データの移送(運搬、郵送、宅配便等)・送信時の対策の上で望まれる事項として、
『移送時における紛失・盗難が生じた際の対策(例えば、媒体に保管されている個人データの暗号化)』
『盗聴される可能性のあるネットワーク(例えば、インターネットや無線LAN等)で個人データを送信(例えば、本人及び従業者による入力やアクセス、メールに添付してファイルを送信する等を含むデータの転送等)する際の、個人データの暗号化 』 と、記述しています。
 多くの業界に関して云えば、個人データの移送に際して、FD、CD等の携帯可能メデイア及びノートパソコンを安易に利用することは論外とする考え方が一般的になっています。
 特に個人データへのアクセス権限管理やアクセス記録の管理が問われる状況からすれば、それらの管理が不可能なメデイアの利用は論外なのです。
四、改悪の経緯と悪夢
 現行の鑑定協会ガイドラインは2005.01.18開催の理事会で承認されているものですが、前述の通り、1/17日付の原案からは、FD利用等の重要な安全管理措置が削除されています。
 この削除に至る原因は、地価公示においてFD利用を禁止したら、業務が行えないと云う現実的反対論にあったであろうことは、容易に推量できます。
現実論がコンプライアンス論に勝ったということでしょう。
 でも、よくよく考えて見て下さい。
個人情報保護法はH15.5.30公布であり、全面施行はH17.4.1からと約二年間の猶予期間が用意されていたのです。さらに一部の会員や役員は昨年の夏頃には、国交省ガイドラインが示されるまでは動けないと云いました。
 確かに国交省ガイドラインが示されたのはH16.12.02でしたが、経済産業省ガイドラインはH16.06に既に示されていたのです。あなた任せで自ら動こうとも考えようともしなかった無為無策がここにもあります。
 仮に、国交省ガイドラインが示されてからでも、安全な鑑定協会並びに全国士協会ネットワークを構築する時期を2005.07.31と予定すれば、六ヶ月以上の準備期間が用意できたのです。
 この期間、少なくとも2004.12から2005.04までの五ヶ月を無為に過ごさせたことにより、我々不動産鑑定士のコンプライアンス姿勢が疑われかねない状況を造り上げた責任者は、現理事者すなわち会長、副会長、常務理事、そして理事諸氏であることは明白です。
 「その彼等の多くがH17役員選挙に立候補して」、重要性や緊急性という観点から眺めれば、「寝言とも云える空理空論をもてあそんでいる状況」は、悪夢に近い状況です。
 もう一言申しましょう。
個人情報保護法や地価公示法に対するコンプライアンス姿勢が問われる鑑定士が、どうして「隣接法律専門職種ですと胸をはれるのでしょうか。」どうして「ADR代理権を求めるなどと云えるのでしょうか。」
 個人情報保護法がその情報取扱者に求めているのは、単に漏洩をしないことだけではないのです。なによりも個人情報を法令に則して大切に適切に取り扱うことと、その安全管理措置を不断に改善する姿勢を求めているのです。
 鑑定士が不動産に関する高度な専門職業家であると自負するのであれば、今なにが問われているのか、何を求められているのか、
役員候補者だけでなく、会員一人一人が問い直してほしいものと思います。

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