「不動産鑑定に潜む大きな疑惑」などと、茫猿が言っているのではない。
本日発売の週刊ダイヤモンド誌・Close Up記事の見出しである。
「会計士、建築士に続く不祥事?
不動産鑑定に潜む大きな疑惑」と、大きな見出しが躍る。
記事内容は、知る人ぞ知る事柄であり、特に目新しいものではない。既に昨春以来、あちらこちらで囁かれてきたことであり、一部の事項は「Blog:鄙からの発信」でも記事にしてきた。 ただし、鑑定協会総会を明日に控えたこの時期に、経済専門誌ダイヤモンドに協会会長実名入りの記事が掲載されたことに、驚きとある種のきな臭さを感じることも否めない。
記事は渋谷区内のテナントビルの家賃訴訟に関わる鑑定評価についてその当否が争われていると述べ、さらにこう続けている。「しかも、この鑑定評価書を作成したのが不動産鑑定士協会会長氏の事務所だった・・・」
そして不動産の金融商品化が進むなかで、鑑定評価が形骸化していることが根底にあると述べる。
曰く「不動産の購入価格は利回りから逆算しており、あってないようなもの。鑑定も義務だから取っているだけ。」(某投資ファンド代表者)
曰く「依頼主の要望に応えれば重宝がられ、仕事が回ってくることが大きい。」(都内某鑑定士)
曰く「仕事欲しさに、依頼主にしっぽを振っている。」(別の鑑定士)
昨年来、囁かれてきたことが記事になっただけと云えば、それまでだが、実態は記事以上に深刻だと思う。「尾を振る犬」と自らを蔑称する輩は論外だとしてもである。
一つは、(社)日本不動産鑑定協会会長事務所が実名入りで記事になり、発行済み鑑定評価書の当否が話題になったことである。横須賀会長は、ダイヤモンド誌に反論掲載を要求し、同時に自社のWebサイトで指摘された疑惑に答える義務があると思うが、如何でしょうかね。
もう一つは、いわゆる証券化バブルについてである。問題はこちらの方がより深刻である。 このことは不動産取引市場において発生した昭和末期の不動産バブルとよく似ているのである。(今日は、時間がないので簡単にふれておく。)
昭和から平成にかけて当時の不動産取引市場で起きていたのは、
先月の価格が今月は無意味になり、先週の価格が今週は無意味になり、最後は昨夜の価格が今朝は無意味になったのである。何が起きていたかと云えば転売に次ぐ転売である。転売差益を目論むプレイヤーばかりが市場に溢れ、エンドユーザーなど影も形もない始末であった。
そして鑑定士の比準価格もこの転売事例の波に引きずり込まれ踊らされたのである。地価公示も地価調査も納付期限ぎりぎりまで最新の事例を収集するように求められ、実際、最新事例を基礎としていないと、1月に納付して3月末の公表まで、とてもとても辛い思いをした記憶がある。
本来ならば短期転売事例などに唯々諾々を引きずられては為らないのであるが、時代の風潮はそれを許さなかった。鑑定協会の公式会合席上で「買えない価格を評価して何の意味があるの。」と嘯かれて、憮然とした記憶は今も鮮明である。【この話には後日談があり、数年後に売れない価格を書いて何になるのと、またまた嘯かれたのである。】
いま、形を変えて、その二の舞を我々はしているのではなかろうか。
ダイヤモンド誌記事中にも、高値転売や収益過大見積、高い賃料想定などという文言が見られるが、鄙から推量するにこういうことであろう。以下の既述は判り易くするために詳細を省いている。
(昨年の賃貸純収益)1千万円÷(利回り)5%=(収益価格)2億円
(純収益)1千万円÷(転売価格)2億5千万円=(取引利回り)4%
(今年の賃貸純収益)1千万円÷(利回り)4%=(収益価格)2億5千万円
(純収益)1千万円÷(転売価格)3億=(取引利回り)3.3%
※賃貸収益に変化がないのに、転売競争が取引利回りを低下させ、それが収益価格を高騰させてゆくという循環である。この循環は昭和バブルと同じであり、無限に連鎖してはゆかない。必ず、破綻時点が到来するのである。
お判りでしょうか、昭和バブルと平成バブルの違いが何処にあるのか。
昭和バブルは更地転売や地上げ転売の過程で生じたものです。
平成バブルはテナントビルもしくはテナント募集ビルの転売市場(もしくは証券化物件獲得競争市場)で生じているのです。昭和バブルに較べて市場が限定的であり大資本が争う市場のなかでのことだから、一見して一般への実害は無いように見える。
しかし、小口化された証券化市場で最後の札を引くのはいつも一般市民であるし、バブルの発生とその消滅の過程で被害を被るのも庶民である。
誤解の無いように付け加えておくが、茫猿は昨年来の地価上昇の全てがこのようなバブルと云っているのではない。大事なことは、転売事例やそこに認められる転売取引利回りを盲目的に信じたり、意図的に引用しては為らないと云うことである。
【本当のところは、2/3までバブルだと思ってますよ。でも同情するよ。証券化市場の最前線にいれば、市場が作り上げた取引利回り低下現象を無視できないだろうね。ナンタッテ PENは一本、箸は二本だもんね。衆寡敵せずだ。】
その批判的吟味ができる眼を失った鑑定士は、もはや鑑定屋にも値しないと云うことなのである。(本日はここまで)
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