新スキーム施行地域拡大の障壁

新スキーム施行地域拡大の背景について記事にすると予告してから十日が経過した。この間に一度は記事を掲載し、メルマガの記事掲載通知も行ったのであるが、不適当な記述を見つけたので該当記事は削除したままであった。 
今日で10月も終わる、折しも今日10/31はHalloweenである。グーグルバナーも仮装している。一連の孤猿遠吠にもケジメを附けておくに適当な日付であろう。


さて、新スキームはH16〜H18三年間の試行を終えた後、H19よりは全国展開が予定されている。このことは新スキームが地価公示枠組みで行われることからすれば既定の施策であろうし、取引価格情報の開示という施策目的からしても全国的展開が望ましいところであろう。にも関わらず順調な全国展開が懸念される背景には、何があると云うのであるのか。
『財政難』
端的に言えば、全国展開の障壁は財政難である。国も地方自治体も財政難である。鑑定協会も全国都道府県士協会も財政難である。全国展開に際しては多額の資金を要すると見込まれるのであるが、その資金確保が見込めないのである。全国の年間土地取引件数は土地白書(H18)によれば150万件±αと推定される。この150万件を悉皆調査するとすれば、電算管理費や初期処理費等固定的経費を別にして、発送費等直接的変動経費が約3.5億円前後と見込まれる。約6千名の鑑定協会会員一人あたりにすれば約6万円である。この資金捻出が直面する課題である。
※郵送費、印刷費、管理費等 一件当たり120円
※発送件数:150万件 回収件数:60万件(回収率40%)
※210万件×120円=25,200万円【A】
※回収管理費+PDF化費、60万件×120円=7,200万円【B】
※その他諸費 2,600万円 【C】
※A、B、C 合計 35,000万円
(注)固定的経費は試行から本施行に移っても大幅な増額は要しないと見込まれることから、予算増額を求める必要性は少ない。郵送費等は旧スキームでも負担している資料収集費用なのであり、実質(純)増加額は上記額の1/2以下と見込まれる。同時に事業実施効果として、資料収集事業の安定化や効率化が見込まれることも見逃せない。
(注)鑑定協会会員一人当たり約6万円という額を示したが、この額は平均値である。各士協会毎の取引発生件数も会員数も異なることから、最大値と最小値では相当の開差が生じるであろうと推定されるが、ここに示すことができる基礎数値を有していない。
(注)この財政難の反映なのであろうが、地目別調査や地域別調査を導入することも検討されているようである。例えば農林地を調査対象から除外するとか都計外地域を除外すると云った試案である。
(注)土地取引件数の全国都道府県データは公表値が得られないが、H16データでは(東京圏:埼玉、千葉、東京、神奈川)459千件、(大阪圏:大阪、京都、兵庫)208千件、(名古屋圏:愛知、三重)89千件、地方圏844千件、全国合計1,600千件である。各都道府県毎の年間取引件数はネット検索で照会できるから、検索値を上記算式に代入すれば大凡の各士協会毎の経費額は把握できるだろう。
『情報開示の不十分さ』
以上の計算は基礎数値が開示されないなかで、士協会の類似事業などから推定するものであり当たらずとも遠からずという程度の数値である。さて、各会員にとって一人当たり6万円前後の資料収集費は高いのであるか妥当なのであろうか。(純増額は3万円前後と推定される。)
実は鑑定協会でも全国士協会でもこういった類の議論は行われていないのではなかろうか。旧スキーム(従来型の地価公示・地価調査の資料収集事業)と新スキームの経費比較、作業難度比較、事業効率比較、事業の将来性比較などが行われていないと推量する。当然のことながらシミュレーション基礎資料も基礎数値も開示されていないのであろう。だから全国の士協会会員は未だ「知らしむべからず拠らしむべし」の状態におかれているのではなかろうか。
『千差万別の状況』
さらに事態を複雑化しているのは、各士協会がおかれている状況に相当の差違があるということが云える。旧スキームといえども全国一律ではないのである。
原始資料(一次データ)をデジタル化資料で入手できる士協会から公示等評価員が所管庁窓口で閲覧筆写する士協会までその差は大きいのである。また、照会票もデジタル化送付するところから、現在も手書き送付のところもあるようだ。
さらに事態を複雑にするのは、この旧スキーム事業を士協会事業として体系化する士協会もあれば、公示評価員組織の事業として行う地域もある。士協会所管区域の会員で公示評価員が構成される士協会もあれば、他の士協会会員が参入している士協会もある。中には鑑定協会会員外の公示評価員を受け入れている士協会もあるという複雑さである。それらの事情は資料閲覧料(資料作成実費相当額)の賦課スタイルの差になっても現れている。
これら、財政難、情報非開示、状況格差という障壁をH18年度末までに乗り越えることが期待されているのである。それは一に懸かって新スキーム全国展開という事業の優先度を何処に位置づけるかにあるように思える。全国漏れなく悉皆調査を継続してゆくという事業の有する意味を我々鑑定士がどのように評価できるかに懸かっているように思える。
別の表現をすれば、各士協会が抱えている様々な経緯や事情というものの平準化、各士協会及び公示等評価員の抱える負担の平準化を、鑑定協会としてどのように図ってゆくのかということが問われているのである。

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