吉か凶か・鑑定評価競争入札

 関東財務局の鑑定評価委託に伴う業者選定方法を話題にしていたが、東海財務局より地元岐阜県鑑定士協会にも12/18付け通達が届いた。内容はほぼ同様であるが、この業者選定方法変更が鑑定業界にとって吉となるか凶となるか来年以降注目である。


 注目であるなどと無責任な言い方をしたが、業容拡大に苦慮している新規開業鑑定事務所にとっては明らかに「吉」であろう。何よりも訳のわからない業容拡大努力は不要となり、正々堂々と鑑定評価報酬見積もり競争に参加すればよいのである。
 既存の受注実績を有する古参業者にとっては、先ず不利というか「凶」と云えるであろう。茫猿は財務局とのお付き合いが無いから、昨今の財務局鑑定評価委託報酬がどのように積算されているか知らないが、少なくとも07/01/01以降は前年実績より1件当たりの報酬額が低下するであろうし、新規参入業者が増えるであろうから受託件数も減るであろう。
 さて、問題はその後である。全ての官公庁において鑑定業者選定方法が財務省方式に転換するのかしないのか、まだ明らかではない。巷間噂されるところや若干の情報に拠れば国交省も競争入札方式に移行するようであるし、さらに都道府県や市区町村に波及するのも時間の問題であろう。
 鑑定評価報酬の果てしない低下競争に突入するとしても談合の導入は論外だから、適切な非価格競争が導入され得るか否かが焦点である。
先の記事にも書いたことであるが、鑑定評価のレビューとか全面公開とか鑑定評価報酬切り下げ競争以外の鑑定評価の質に関わる競争の導入が待たれるのであるが、今更遅きに失したということであろうか。
 次年度予算の財務省原案が決定し、新スキームの全国展開も明るい見通しが見込めるようだし、地価公示のオンライン化などと並行して士協会ネットワーク構築も具体的日程が検討されようとしている。
 まさにその時期に冷水を浴びせるような「鑑定業者競争入札選定」の導入である。しかも平成19年度は平成21年固定資産税評価替に伴う標準宅地鑑定評価の委託が本格化する年でもある。
 厭な予感であるが、来年は疾風怒濤の年になりそうである。業者選定の企画書コンペの導入は企画書作成の手間が負担となるし、何より企画書作成コンペに指名されそうもない零細業者を駆逐しそうである。同時に評価報酬の切り下げ競争も小規模個人業者を駆逐しそうである。鑑定業界も格差社会に突入し上流と下流がくっきりと分別されるだけでなく、ワーキングプア鑑定士を出現させることになりはしないかと懸念する。何かいい知恵はないのかと思うけど、既に鑑定協会や都道府県士協会が指名を受けて地価調査業務発注を競争入札に参加している以上、何を言っても南無三ということか。
 何よりも残念で虚しいのは、時代の潮流を読み間違っていたずらに手を拱いていたことから、鑑定評価に報酬額切り下げ競争を呼び込むだことである。非価格競争なら受けても立とうが、価格競争では事務所規模からしても年齢からしても参加するだけ無駄である。鑑定評価は「現場百遍、足で稼ぐ」という意味で比喩として肉体労働であると表現したことがあったが、今や名実ともに体力勝負だけの非知的単純労働に成り下がりそうである。
地価調査の入札・97・98年任期最後の理事会報告(1999.6.2) 【208】
[1] 鑑定評価の自由競争入札(2002/10/24) 【240】
[2] 郵政事業庁入札(続)(2002/10/26) 【213】
※企画書コンペが具体的に何を意味するのか茫猿は不知である。ただ想像するに、鑑定評価の処理計画策定ではなかろうかと考える。評価額が高額になると予想される対象不動産について、種別・類型の判断、三手法の適用手順、開発法やDCF法の適用手順、時には資料の収集範囲などを企画して鑑定評価処理計画書を作成するということではと推量する。
「六日の菖蒲、十日の菊ということであろう。茫猿はやわらか戦車に倣って、疾く退却するに如かず。」
「東海財務局から岐阜県鑑定士協会に届いた通達」

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吉か凶か・鑑定評価競争入札 への2件のフィードバック

  1. Toru のコメント:

    鑑定士諸氏にとってこれは死活問題。にもかかわらず、なぜこうも「黙して語らず」を皆さん貫こうとするのかしら?もうちょっと戦闘モードになってもいいような気がしますが、いかがでしょうね。

  2. bouen のコメント:

    確かに、新スキームも競争入札問題も鑑定士は静かです。「沈黙は金と」おつに構えているのかと思えば、実は語るに足りる何物も持ち合わせていなかった。
    と云うよりも、制度発足以来主務官庁に頼り切る癖が骨の髄まで染み渡っていて、自らの頭で考え、自らの足で立ち歩くことを忘れてしまったのか。
     それとも、事の落ち着く先を明瞭に見切っているがゆえの沈黙&諦観なのかもしれません。

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