評価モニタリング-2

  モニタリングについて理解するためには、本年4月以来三ヶ月の審議を経た結果を読むよりも、当初の叩き台ともいうべきものから読んだほうが理解が速かろうと思えるので、投資不動産鑑定評価基準等検討小委員会・第6回(平成19年3月26日)における説明を議事録より抜粋する。この原案とも云うべき説明から何が抜け、何が増強されたかである。


 以下は国土交通省・土地水資源局・北本地価調査課長の発言から抜粋するものである。発言議事録をもとに茫猿が整理し見出などを付けたものである。イメージ図を添付すると判りやすいが、イメージ図は鑑定協会会員専用サイトに掲示されているので、ここでは割愛する。太字強調は茫猿が付けたものである。
『モニタリングのイメージ図』
 1つは実務レベルのフォローアップといいますか、モニタリングした上でのフォローアップということでございますが、このイメージ図でいえば、左側の黄色い部分でございまして、鑑定協会が中心となりまして、主催するような形で不動産証券化協会、ERの関係者等の参画のもとに、鑑定評価について基準の改正後、速やかに実務レベルのフォローアップの場を設置いただいてはどうかと。とりわけ、そこにもERに関する研究会という四角をつくらせていただいておりますが、エンジニアリング・レポートにつきましては、このような研究会を設置いただきまして、ERのガイドラインでありますとか、鑑定評価の実務指針に関する意見交換、あるいは事例研究等を実施していただいてはどうかということでございます。
 それとは別途、第三者による検証ということを前回もご説明させていただきましたが、これがイメージ図で言うところの真ん中のところでございまして、検証委員会と書かせていただいております。学識経験者でありますとか、法曹関係者、その他、第三者的な市場関係者等から成るモニタリングの場を設置してはどうかということでございます。その際には、実務関係者でありますとか、関係省庁等もオブザーバーとして参加するようなことを想定してございますが、そういった第三者的な委員会のほうで、そこにポイントと書いてございますが、現行の証券化不動産鑑定評価基準等が適切に機能しているかですとか、あるいはそういった不動産の鑑定評価が原因となったような形での投資家に不当な不利益が生じていないかといったような点についてモニタリング、情報収集をいただきまして、それを紫の矢印ですが、左側に向かっている矢印ですが、実務レベルの見直しでありますとか、あるいは右側の上のほうですが、評価基準の見直し等に生かしていくと。
 そういう基準の見直しが、ひいて言えば、上のほうにぐるっと回っている矢印ですが、実務指針等の見直しにもフィードバックされていくと。それから、検証委員会から、土地鑑定委員会に行っている矢印もありますが、これは私どものほうで鑑定士、あるいは鑑定業者に対する処分等を行う際には、鑑定委員会の意見を聞いて行うということになってございまして、そういうことはあまり想定したくはないわけではありますが、仮に不適切な鑑定評価等が見当たった場合には、そういった審査を土地鑑定委員会にご相談するというようなフィードバックも、あるいはあるのかなと考えておるところでございます。
『モニタリングについての指摘等」』
 関係する委員会の会議の中で、既に出されているモニタリングにかかる意見をとりまとめたものである。(いわば叩き台とでもいうもの)
一、「基本的な枠組みについて」
(第一)インセンティブが働く仕組みの構築
 自主的な品質の管理にインセンティブが働く仕組みの構築が必要ということでございまして、実質的な品質管理ということです。(鑑定協会が)みずから品質管理をすることについてのインセンティブ。概念的には、みずからの品質管理によって、業界全体の信頼性を向上するということかと思いますが、個々の活動を積極的に継続的に行っていくためには、それなりのインセンティブが必要ではないかというご指摘ではないかなと思っております。
(第二)民間と行政の役割分担
 民間と行政の役割分担に工夫が必要ではないかということでございます。先ほどのイメージ図でいえば、左側の黄色い部分が基本的に民間、右側が国でございましたが、とりわけその中間に位置しております検証委員会などについては、おそらくいろいろな分担、役割というのが、そういったものについても関係してくるのかなと考えています。
(第三)鑑定業界の対応
 不適切な鑑定評価が行われていないかをモニタリングするとともに、鑑定評価の受注にあたり、あまりに硬直的な対応がなされていないかという視点も重要である。通常の鑑定評価業者が過剰反応して、謝絶するような案件が一部の不当な業者に集中して受注されるような事態は極めて危険ではないかというご指摘でございます。
(第四)利益相反、苦情処理
 モニタリングに参画する者には専門性が求められるが、一方で専門性を有する者は概して利害関係者であり、利益相反の問題をクリアにする必要があると。要はモニタリングに参画する人が、自分の利益につながるようなモニタリングをしては困るわけなので、そんな可能性があるのではないかというご指摘かと思っております。
 それから、研修、再教育プログラム、第三者による抜き打ち的な検査、苦情を集中的に処理する仕組みなどの工夫を組み合わせていく必要がある。これは前回も申し上げたかと思いますが、とりあえず事務局として枠組みをご紹介させていただきますが、実際のモニタリングには、いろいろなツールがあるはずでございまして、そういったものを複数組み合わせてやっていってはどうかというご指摘かなと考えております。
それから次ですが、何らかの登録制を組み合わせることはできないか。その場合、登録基準の設定、遵守状況の継続的なウォッチ、品質管理状況の定期的なレビュー等を実施し、勧告、登録の抹消等が可能となる仕組みをビルトインしておくことも考えられるということでございまして、登録制ということでしたら、今の不動産鑑定士も登録制なわけでありますが、おそらくここで言われていますのは、証券化の案件を、ちょっと言い方は難しいのですが、安心して頼める人を登録制にするということがひょっとして念頭にあるのかなと思っておりますが、何らかの新たな登録制ということなのかなと解釈しております。
それから最後ですが、証券化対象不動産にふさわしいエンジニアリング・レポートの作成者が不足していないかなどもモニタリングの対象にする必要があると。エンジニアリング・レポート作成者の育成策ともリンクさせて検討する必要があるということでございまして、これはちょっと鑑定評価を越えた議論かなと思っていますが、このような意見もありましたので、ご紹介させていただいた次第でございます。
二、「モニタリングの対象や視点」
それから2としまして「モニタリングの対象や視点」ということでございます。まず、何をモニタリングする必要があるのか。データコードなのか、キャペックス、キャップレート、賃料等と書いてございますが、何をモニタリングする必要があるのかを明らかにすれば、全体スキームを整理しやすくなるのではないかと。それから、モニタリングするもののチェックリストのようなものが必要ではないかと。必ずしも鑑定評価額が高いことがよくないわけではないということで、おそらくこの最後のは額の高さだけでモニタリングすべきではないのではないかというご意見かと思いますが、何を具体的に見ていくかというご指摘かと思っております。それから、またちょっと違った視点での対象でございますが、証券化対象不動産のうち、まずはJリートから始めることも一考ではないかと。一般の投資家の方が多く参画するJリートからまず始めるのが1つの考え方ではないかと。それから、全数ではなくて、無作為抽出で行うことも考えられるということで、いきなり全部は難しいだろうから、どこかから着手するといいますか、そういうご意見かなと思っております。
三、「データの蓄積・流通」
それから3番目が「データの蓄積・流通」ということでございます。オープンなデータベースが構築され、関係者がデータを使って分析することにより、さまざまな見方が普及し、市場がこなれていくという循環が重要ではないかということでございます。皆が見られるようなデータベースのようなものが、何のデータベースかというのにもかかわってくるのかもしれませんが、そういうものができれば、相場観というものが定着して、突飛なものがだんだんなくなっていくのではないかということではないかと解釈しております。
 それから、加工し、分析されたデータとダイレクトな一次情報のバランス(守秘義務の関係等)が重要となる。国レベルで一次情報を収集して、一定のマスキングをした上で民間が活用するというようなスキームも考えられるということでございまして、データには当然、守秘義務が関係するようなデータもあるということもそうでしょうし、あるいは企業秘密といいますか、企業のノウハウといったものもあると思いますので、その辺をうまく収集・提供を、その中で考えるべき点が多々あるというご指摘かなと考えてございます。
四、「積極的なディスクローズ」
4点目が「積極的なディスクローズ」ということでございます。
品質管理のためには、当事者に厳しい責任を負わせるということのほか、ディスクローズが極めて有効であるということでありまして、何か起きたときに、当事者に責任追及するということだけではなくて、普段からディスクローズ、衆人環視のもとといいますか、オープンにしておくということが有効ではないかということかと思います。何をディスクローズするかがポイントだと。担当者、報酬、ガバナンス等、バリエーションは広いのではないかと。型どおりのディスクローズに終わらない工夫が必要ではないかということであります。
五、「苦情処理」
それから5点目が「苦情処理」ということでございます。苦情処理を通じたモニタリングということだと思っておりますが、モニタリングの実施主体が苦情を受け付けることも考えられるが、鑑定評価について関係者から「悪意の苦情」が寄せられる可能性もあるのではないかと。この「悪意の苦情」というのは、私なりの解釈ですが、関係者、まあ、同業者からと考えていいのかもしれませんが、他人の足を引っ張るような苦情というものも出てくる可能性もあるので、気をつけたほうがいいのではないかということかと思っておりますが、ただし、悪意であっても、モニタリングの過程で真偽を明らかにすることが担保できれば、情報が寄せられることに対して前向きになるべきという考え方もあるということで、何も情報が来ないよりは、「悪意の苦情」に近いものであっても、そういった情報が手がかりになるのではないかという前向きなご意見もあったところでございます。
六、「不当鑑定への対応」
それから6点目ですが、「不当鑑定への対応」ということですが、不当鑑定に至らない事例であっても、ケーススタディーとして論点を広く公表することは効果的ではないかと。こんなことがあったということを周知することによって、それも一つのモニタリングの効果として認められるのではないかということかと思っております。
 それから、依頼者側の対応と鑑定士側の対応を通して、検証することが重要ということでありまして、鑑定士サイドの対応だけではなくて、依頼者側の対応についても、両者を総合したような形で検証が必要ではないかというご意見かと思っております。
七、「その他」
 それから、「その他」でございますが、依頼人のバイアス(自分に都合のいい鑑定士を選ぶ)という構造的な問題も検討すべきである。例えば特定の依頼者から特定の業者への受注が長期にわたって継続しないよう、ローテーション的なものを導入することも考えられるのではないかなと。ただし、一定規模の市場がないとワークしないだろうがということかと思っておりますが、そのようなご意見も出ております。
 それから、必要な場合は、受注者が依頼者に強い対応をとれるような仕組みにできるかも重要なポイントではないかということでございます。この受注者というのは、不動産鑑定業者のことかと思っておりますが、そのような仕組みができないかという意見かと思います。
 最後ですが、将来的には、資格制度、行政への登録制度、行政機関による直接的な検査、罰則の強化等にも検討の余地があるのではないかというようなご意見でございます。

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