戦略&戦術

オープンシステムとか、オープンソース・ソフトウエアといったコンピュータ用語がある。これに対してクローズドシステムとかクローズドソース・ソフトウエアという使われ方はあまり聞かない。

なぜかといえばユーザにとって何がオープンで何がクローズかの定義が曖昧なことにある。オープンシステムに対してはメインフレームという使われ方があったり、プロプライエタリシステムという使われ方もあるそうだ。


つい最近に茫猿の廻りでこのオープンか、否かという問題で論争が生じた。戦略と戦術という表現も使用されたし、合成の誤謬という言葉も使用された。ことのいきさつはこうである。永らく鋏と糊を使い紙資料を切り張りしてアナログ的に作られてきた地価公示の事例カード二枚目のデジタル化に際してどのような手法を採用するか、あるいはどのようなアプリケーションソフトを利用するかということに関する論争である。

そこで、Aグループは「Z-ワークス」という市販ソフトを利用した方法の採用を提唱した。ソフト自体はさほど高価ではないし、使用習熟も簡単である。所在地図を得るための既存の地図システムとの相性も悪くない。しかも作成した事例カード二枚目の管理についても「Z-ワークス」を利用すれば簡単である。「Z-ワークス」採用に何の疑問点も無いようにみえるのである。

【Z-ワークスで作成した二枚目デジタルファイルを開く。ファイルはPDFに変換済みです。】

ところが、オープンなのか否かという観点から「Z-ワークス採用手法」を眺めてみると問題点が見えてくるのである。

(イ)特定市販ソフトの指定
地価公示という基本的にオープンな共同作業に採用基準を示すものでなく、特定市販ソフトを指定することの是非。

(ロ)「Z-ワークス」で作成したイメージデータの汎用性
地価公示は全国の不動産鑑定士が参画して行う土地価格の鑑定評価作業であるから、そこでは国交省や鑑定協会が無償で配布するものを除いて、固有のアプリケーションソフトの採用はできるだけ避けられてきたという経緯がある。何よりも国交省が定める地価公示データ・フォーマットが存在し、取引事例も事例データ・フォーマットにより作成されるから、A事例作成ソフトで作成した事例データは直ちにB地価公示支援ソフトにインポートして評価作業が行えるのである。

「Z-ワークス」には無償でWeb配布されるビューワーがあるから、「Z-ワークス」を持たない評価員も配布される作成済みデータの保存管理、印刷閲覧といった公示評価作業には特に問題を生じない。

問題はその後である。つまり「Z-ワークス」で作成された事例二枚目データと一枚目データファイルとのリンク互換性や相性が保持されているか否かという点にある。つまり「Z-ワークス」のデータを別のアプリケーションファイルに移動したり、「Z-ワークス」データファイルに入っているデータを別のアプリケーションから利用できるかどうかということである。

それらに関してAグループは、「今は事例二枚目のイメージデータ化を優先して大量の紙資料配付を止めるべきである。そのことは保存・管理の利便性も高めるではないか、「Z-ワークス」の採用を躊躇する理由など何も無い。それに今期は試行である、不具合が生じたら軌道修正すればよかろう」と主張する。

もっともな主張である。新しい手法を採用しようとすればトラブルはつきものであるし、トラブルを畏れていては何も採用できないし変化も進歩もない。そうであるにしても新しい手法を試行するに際しては、それなりの準備や調査といったものがあるべきではと思うのである。

もうお判りのように、Aグループに異論を申し立てた「B」は茫猿である。当たり前のことであるが、茫猿はただ単に異論を唱えているのではない。Aグループが(茫猿に云わせれば唐突に)「Z-ワークス」採用を提唱してから未だ十日間であるが、彼等の提唱に応じて試行に参加した茫猿は直ちに「Z-ワークス」を通販で買い求め事例カード二枚目作成を試している。

新スキーム事例調査の七月確定分、八月確定分は当然のこと、九月確定分も既に「Z-ワークス」で作成して岐阜県士協会WANにアップし会員の利用に供してある。その上での異論なのである。

時あたかもREA-NETという士協会ネットワークの全国的な構築稼働が開始されようとしているのである。『鄙からの発信』の先頃の記事でも説明しているように、REA-NETの主要なパートにREA-JIREIという事例データの共同利活用システムが構築されることから、このREA-JIREIとの互換性や相性検討は不可欠であろうと思われるのである。

REA-JIREIシステムだけでなく岐阜県士協会は岐阜県WANシステムという事例共同利活用システムを数年前から運用しているのであり、この既存システムとの互換性も検証されなければならないと考えるのである。

「Z-ワークス」の仕様によれば後日ファイル変換が可能なのだから、TIFファイル型式であれ、PDFファイル型式であれ、JPGファイル型式であれ、必要に応じて変換すればよかろうで済むとも思えないのである。ファイル・ネームの付け方は、ファイル変換に要する手間は、変換は誰が行うのか、互換性が保持される程度は、失われるものは、といった検証が不可欠であろうと今も考える。

地価公示スキームで実施される新スキーム事例調査であればこそ、地価公示データ・フォーマットにてデータが保持される事例調査と並行して、「公示事例カード二枚目をデジタル作成して、新スキーム調査事例資料の共同利活用をさらに効果的にする。」ということは、かねてから茫猿が機会あるごとに提唱してきた事柄である。

だから「デジタル化公示事例カード二枚目」作成に異論は全くないのであるが、地価公示分科会から大量の複写事例紙交換を除こうという事柄を主眼とする戦略目標と、一つの市販ソフトに固執する採用戦術に異論があるのである。せめてWeb対応できないかと考えるのである。

士協会ネットワーク上で作成すれば、地図システムにポイントをマークした座標データαと公図スキャニングデータβを士協会サーバに送ると、そのデータαとβに基づいて二枚目レイアウトによる公示事例二枚目が作成される。

ネットワークアクセス者は新スキーム調査済み確定データ(いわゆる三次データ)や公示事例一枚目データ(いわゆる五次データ)とリンクして閲覧も印刷もできるとなれば便利だし、利用効率も高いと考えるのである。このような仕様は事例現場から送付する携帯写メールに対応することも十分可能であろうから、事例の属性データをさらに豊かにし多くの情報を提供できることになる。

とは云うものの、ここ数日間の異議申し立てはこの週末に取り下げました。一評価員、一会員であるとはいえ、今や最古参の茫猿が異論を言えばなにがしかの波紋は招くようであり、「森島さんが色々と言うから、皆が引いている。」とか「今は試行なのだから、兎に角始めたい。あなたの言うことは追々に考えますから。」とまで言われれば、公示評価員余命も先が見えてきた老齢者としては注意喚起以上の異議申し立ては大人げない話であり、異論は取り下げたものの未だ少なからず釈然としない茫猿なのである。

話題は転じるが、何かを考えるときの思考方法に戦略と戦術という考え方がある。経営戦略とか事業戦略と云い、時に営業は人海戦術でとかIT化戦術(IT化戦略という場合もある)という使われ方がある。戦略(Strategy)と戦術(Tactics)を単純に上位下位の概念で捉えるのは正しくないかもしれないが、何かの目標を達成するための方法論やアルゴリズム(処理手順)を考えるときに便利な用語である。

Wikipedia などによれば、戦略とは目標達成のための巨視的な策略であり、一連の事業経緯における段階毎の一つ一つの成果を高次元で最大限に利用する術策であると云い。戦術とは、個々の業務目標達成のために人員・物資を効果的に配置・移動して持てる力を的確に運用する術であるという。

巨視的と微視的、全体と局面という分け方もできるかもしれないが、何となく判ったようで判らない話でもある。ただものごとを考える上で、戦略的目標と処理手順、戦術などと云うと何となく判ったようにみえて説得力が増すように錯覚する場合もあるだろう。

今、鑑定業界ではREA-NETという士協会コンピュータネットワーク構築が話題になっているが、構築の主要な目標に「地価公示のペーパーレス化・オンライン化や幹事・評価員の負担軽減」が挙げられている。ネットワークが実現したい目標は「情報交換が廉価、迅速、簡便、安全に行え」、「地価公示業務がより的確に、より安全に、より速く、より効率的・効果的に」ということであろう。

戦略目標としては「地価公示価格がより的確なものとして実現する」ことにあり、地価公示業務受託報酬が増えないなか、戦術的には経費削減という目標が唱えられても不思議はない。

しかし、早急な経費削減がトラブルを引き起こせば合成の誤謬ともいえる事態を招くのであるし、何よりも戦略目標A(より的確な地価公示価格)の実現が、戦略目標B(より的確な鑑定評価)につながり、さらに戦略目標C(新しいビジネスモデル構築)の実現につながれば意味あることであり、その為の先行投資もある種の損切りも無駄とはならないと考えるのである。

以上本日の主題は、士協会にとって、戦略とは戦術とは何かというテーマである。同時に個々の戦術が正しくとも、いいえ正しいが故にこそ合成の誤謬を起こすことがあり得るのではということを、今後もどのように考えたらよかろうかという話である。

(注)地価公示の事例カードは一枚目が所在地、数量、駅や商店への距離といったテキストによる属性データから構成され、二枚目が地図や地形図というイメージデータから構成される。テキストデータはデジタル化が容易であるから既に十年も前からデジタル化されているが、イメージデータはデジタル化が簡単ではないし経費も要するから今に至るまでアナログ的に作成されている。

しかし、パソコンや周辺機器及び地図システムの機能向上、低価格化が進んだこと並びに事例という一つのレコードの利用・管理・保存の利便性向上といった観点から、デジタル化が時代の要請となってきたのである。今や必然と云ってよい。

(A)様々なメーカーのソフトウェアやハードウェアを組み合わせて構築されたコンピュータシステムをオープンシステムと云い。これとは逆に、特定のメーカーの製品のみで構成されるシステムをプロプライエタリシステムという。

各社がOSやアプリケーションソフトの外部仕様を公開することで実現されている。価格や性能を比べてもっとも良い製品を組み合わせることができるというメリットがある反面、不具合が生じたときに原因を特定するのが難しく、どのメーカーも自社製品に原因があると認めたがらないなどのデメリットもある。(IT用語辞典より)

(B)オープンソースとは、ソフトウェアの著作者の権利を守りながらソースコードを公開することを可能にするライセンス(ソフトウェアの使用許諾条件)を指し示す概念である。分離発注によるシステム構築をオープンシステムと呼ぶ場合もある。オープンシステムに関わる技術や技術者のことを「オープン系」と呼び、メインフレーム・オフコンのシステムに関わる技術や技術者を「ホスト系」と呼ぶ場合もある。(IT用語辞典及びWikipediaより)

(C)メインフレームでは他システムと互換性の無いプロトコルを使って閉じたネットワークを構築し、独自の文字コードを使うなど、データ交換性も非常に低い。それに対して、WindowsやUNIXはベンダを超えて標準化されたネットワークプロトコルや文字コードを使うことでデータ交換性が高い。このように標準化されたオープンな外部仕様を持ったシステムであることから「オープンシステム」と呼ばれるようになった。

かつて、この「オープンシステム」という用語を、「ネットワーク」、「ダウンサイジング」、「マルチメディア」の三語とセットでその頭文字をとって「ネオダマ」と呼び、業界のキャッチフレーズとしていたことがあった。

また、オープンシステムは、一社のみのハードウェアおよびソフトウェアで構成されるホスト系システムと異なり、マルチベンダなシステムであるため、独立系のシステム会社が大きなシステムを構築することを容易にした。(Wikipediaより)

(D)大事なことは、ユーザー、つまりコンピューターを買う顧客にとっての利便性の観点からオープンを定義することである。大抵のユーザーは複数のシステムを持っている。あるシステムがオープンかどうかは大きく言って次の2点で決まる。

1つはアプリケーションソフトをシステム間で移動できること。あるシステムの上で動かしていたアプリケーションを別のシステムの上で動かすことができれば何かと便利である。

もう1つは、あるシステムと別のシステムとの間で簡単に会話ができること。会話とは曖昧な表現だが、あるシステムのデータを別のシステムに送信したり、あるシステムに入っているデータを別のシステムから利用できることを指す。

この2つが実現できれば、ユーザーにとって利便性が高まる。大昔、異なるコンピューターメーカーのメーンフレームでシステムを作ってしまうと、システム同士でアプリケーションを移動できなかったし、会話をさせるだけでも一苦労であった。

こう見てくると、オープンかどうかは、ほかのシステムとの関係で決まるわけで、1つのコンピューターをつかまえて「これはオープンだ」「いや違う」というものではない。例えばメーンフレームの上でLinuxという基本ソフトを動かし、ほかのLinux搭載コンピューター上のソフトを移動できたり、Linuxを通じてお互いに会話ができれば、そのメーンフレームはオープンということになる。

コンピューターを売り込みにやってきた営業担当者が「うちの提案はオープンシステムだからいいですよ」と言った時は、何がオープンなのか、何がメリットなのか、よくよく聞いた方がいい。もし「オープンシステムだから安くなります」と言ったとすると、それはオープンだからではなく、そもそも提案自体が安いのである。【 「オープンシステム」って何?   より引用】

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戦略&戦術 への2件のフィードバック

  1. 匿名 のコメント:

    そのレベルのシステムなら
    ・ブラウザからの個別入力
    ・TSVでの一括入力
    ・画像はweb or FTP
    ・出力は自動PDF作成と一括ダウンロード
    こうしておけば汎用的で安くて見栄えがよいのですけどね。と、オープンシステムしか作ったことがない僕が言ってみます。
    緯度経度や住所入力も最近流行のGeocordingできますしね。
    ブラウザと汎用システムで作れば、どこからでも入出力ができるし、クライアントソフトに払う金を入稿システムや出力フォーマットのバージョンアップにかけられますよ。

  2. Bouen のコメント:

    匿名様
    サゼッション有り難うございます。
    茫猿はシステム作成に詳しくはございませんが、匿名様が言われる「ブラウザと汎用システムで作れば、」という条件が必須であろうと理解できます。
    ご教示をもとに、より良いシステム構築ができますように、今一度努力してみます。

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