鄙から遠望する明日

 最初に結論を申し上げれば、『足もとを見失わない一歩々々も大切だが、同時に少し先を見据えて多少のリスクをとり、多少の汗をかきながら、多少の無駄ともみえる先行投資を行いながら、これから来るであろう未だ見ぬ若き仲間の鑑定士達のために、今できることを為そう。』というのが、この記事で茫猿が申し上げたいことである


 10/26:REA-NETフォーラムのリポート-2である。一応はこのリポートで一連の記事は終結である。昨日頂いたゲスト・コメントを引用すれば「外部に対しての攻め/マーケティングの為のシステム構築」として、どのように考えることができようかということである。当日お参加頂いたコメンテーターからも、新スキームデータやREA-NETを活用しての御提案が幾つかありました。
 例えば、新スキーム事例調査では相続税路線価も調査対象事項(選択調査事項)として用意されている。これを活用すれば、路線価対比地価センサスが可能なのではというご意見がありました。
 あるいは、一つ一つは少額なサービス提供でも積み重ねれば多額になるものが幾つかある。鑑定士業界内部でも既往の事例閲覧件数の年間累計は数万件単位にのぼるから、この累積もばかにならない。将来の課題としては照会調査に応えて頂いた市民の皆さんへ何かのお返しも考えなければならない。それは並行してロングテール的市民サービスの提供につながらないだろうかというご意見もありました。
 おりしも、H19.10.19付けにて 国交省 土地・水資源局 土地情報課は新スキーム「不動産の取引価格情報検索サイトのリニューアル」について公表している。それによれば取引価格情報検索サイトは10/22よりリ以下のようにニューアルしているのである。

(1)全国エリアの不動産取引価格情報を提供
 ・調査対象地域を全国の県庁所在都市など地価公示対象地域へ拡大
 ・土地の種類に「農地」「林地」の取引価格情報を追加
(2)新たに以下のような情報項目を追加
 ・「更地」:最寄駅名称、最寄駅所要時間、前面道路幅員・方位・種類、容積・建ぺい率等
 ・「建付地」:建築年、最寄駅名称、最寄駅所要時間、前面道路幅員、容積・建ぺい率等
 ・「マンション等」:建築年、最寄駅名称、最寄駅所要時間、容積率、建ぺい率等
(3)表示方法に新機能付加
 ・取引価格情報と地価公示・地価調査情報を連動して見ることができるように表示
 ・地理情報システム(GIS)を活用した提供を拡充
 ・地図上で町・大字を選択すると、当該町・大字に係わる取引価格情報一覧表画面を表示
 ・地図上で駅を選択すると、当該駅に係わる取引価格情報一覧表画面を表示
 ・「単価と最寄駅所要時間との相関関係」と「単価と道路幅員との相関関係」の散布図
 ・過去1年間の価格帯別取引件数情報をグラフで表示
 ・不動産取引価格情報を一覧表画面だけでなく、個別の画面で表示

 引用が長くなったが、鑑定士の大きな関心事であろうから御容赦願いたいのである。最寄り駅の名称、駅までの所要時間、接面道路幅員、用途地域、容積率、建ぺい率など開示項目が大幅に増えるとともに、地価公示価格等と連動するようになった。要因と価格の相関関係散布図も表示されるようになったのである。以前に指摘したように、全国展開して最初の四半期で4万件のデータを提供する価格情報開示は単なる開示に止まらず地価分析の分野に当然のごとく踏み込みつつある。
 さらに、これらの開示データを利用した地価形成要因分析、土地価格比準分析、地価推移分析等々、様々な分析結果が、近い将来に学究結果として発表されるであろうことも確実であろう。そのようなかつて鑑定士が想像もしたことがない百家争鳴とも云える事態を目前にしていながら、妙に静かなのである。茫猿の周りは、静かと云うよりも退嬰的とも云える閑かさなのである。
 茫猿は、新スキーム全国展開、取引価格情報Web開示、士協会ネットワーク構築、公益法人改革といった問題を考える時に、不動産鑑定士は歴史的転換点に居るのだと思えるのです。転換点に直面して何を為すべきかと云うほどの処方箋の持ち合わせはありません。しかし、近い将来の展望を考えれば、今何を為すべきか、為してはならないかは云えると思うのです。
 それが、新スキームデータの有効で安全で迅速な共同利活用実現であり、事例所在地に係わる緯度経度情報をファイルレコードとして保存することであり、地形図スキャニングデータの同じくファイルレコード保存なのです。さらに写真を保存することも視野に入れておくべきであろうと考えるのです。
 それらのファイル保存された初期データを基にして、地価公示事例カード位置図や地形図を作成するだけでなく、新スキーム三次データの活用を実現し、さらにWebロングテール・ニュービジネスにつながれば佳いなと考えるのです。即ち、こういうことなのです。今我々は直ちに実行できるようなデータ活用の処方箋も解決策も持ち合わせてはいない。いないがしかし、近い将来のデータ利活用を阻害するようなデータ蓄積を行ってはならないのである。
 将来に無駄な手数を掛けさせるような、あるいはデータを利用し難いような加工を加えたりしないで、可能な限り原初素材に近い状態でのデータ保存が望ましいのである。現時点においても可能な限りその視点に立脚して、データを収集し保存することが好ましいと考えるのである。
 我々鑑定業界に直ちに順風をもたらすようなニュービジネスが手軽に得られる訳はない。制度創設以来、地価公示実施、損失補償基準要綱公布、国土法施行、民事執行法施行、固評鑑定評価実施など、幾度も神風到来的な追い風環境に恵まれてきた鑑定業界にとって今は、第二の制度創設ともいえる事態かもしれない。それでもゼロからの出発ではないのである。公示も調査も固評も相評も競売もデューデリビジネスも証券化ビジネスも存在するのである。そのような、他者から見ればまだまだ恵まれた環境にいるからこそ、ネットワーク構築というインフラ整備や原始データの保存といった明日の準備をすべきであろうと云うのである。そのような努力こそが、近い将来において我々不動産鑑定士のプレゼンスを向上させたり、新しい事業展開に必ず役立つと信じるのである。

 足もとを見失わない一歩々々も大切だが、同時に少し先を見据えて多少のリスクをとり、多少の汗をかきながら、多少の無駄ともみえる先行投資を行いながら、これから来るであろう未だ見ぬ若き仲間の鑑定士達のために、今できることを為そうではないかというのが茫猿の一番申し上げたいことである。

『結論に代えての茫猿遠吠』 
 たっぷり用意したつもりの時間もたちまちのうちに経過してしまい、ゲスト氏の言うところの「外部に対しての攻め/マーケティングの為のシステム構築」にまでは、話題が至りませんでした。でもそこかしこに垣間見えた方向性は「旧書式に囚われていた」記事に示す方向とさして違わないと納得できるものでした。
 とは言うものの、「地価公示事例カード書式は国交省マターだから、変更などできない。」と、最初から投げてしまう意見が大勢を占めていたことも事実です。鑑定協会は霞ヶ関に対して「陳情型受動的姿勢」から、「提案型能動的姿勢」に変わらねばならないという舌の根が乾かぬ内から、「それは国交省マター」と逃げてしまうというか諦めてしまう考え方も根強いと、改めて教えてくれるフォーラムでもありました。
  『 茫猿は遠吠、そして合掌礼拝 』

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