塾・三月講義概要(1)

 03/21に開講した塾・鄙からの発信:記念講演、田原拓治氏の講義概要記事です。


 録音を録らず、筆者のメモをもとに記事にするものであるから、聞き違いや記憶違いがあるかもしれないから確定稿ではない。また、講師の講義を伺いながら筆者の考えも織り交ぜているから、本記事の全てが田原氏の講義そのものというものでもない。いずれ田原氏のお目通しの上で校正(訂正)があるだろうことを前提としての暫定稿(感想記)であることをご承知おき下さい。
1.不動産鑑定評価基準に、「不動産鑑定評価とは」何かという説明があるか。
 基準において不動産鑑定評価の定義付けが明確ではないという問題提起なのである。基準・総論・第一章・第3節は、不動産鑑定評価についてこのように述べている。
『不動産の鑑定評価は、その対象である不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することである。それは、この社会における一連の価格秩序の中で、その不動産の価格及び賃料がどのような所に位するかを指摘することであって(以下略)』と記されている。
この定義は鑑定協会の初代会長である櫛田光男氏が起草されたと云われている「1964年3月25日設定の不動産鑑定評価基準・基本的考察」以来、ほぼ変わらない表現なのである。
 櫛田光男氏が著す「不動産鑑定評価に関する基本的考察」(1966.3.2)を、田原講師は高く評価するものではあるが、しかし実務基準としては明確な定義付けが弱いのではと問題提起する。不動産には法律的な面と経済的な面が指摘されるのであり、法律的な面は「権利」であり、経済的な面は「価格(賃料)」であると云う。即ち不動産鑑定評価とは不動産の権利について、その価格を鑑定し評価することである。」と定義づけられないかと説くのである。つまり不動産の権利についてその経済価値を判定し、それを貨幣額をもって表示するという表現がより妥当なのではなかろうかと云う。もう少し敷衍すれば、「市場性が認められる不動産の権利について、その経済価値を判定する行為を不動産鑑定評価という」といえるのではなかろうかと、筆者は伺いました。
2.地価コンケープ説
 コンケープとは曲線という意味である。つまり地価曲線説と訳せるだろうか。縦軸に地価を横軸に価格を形成する何かの要因(例えば、駅までの距離)をおけば、そこには右肩下がりの(横軸の数値のおき方次第では右肩上がりの)二次曲線が描かれるということである。
3.不動産鑑定評価には、「平均」で価格をとらえる考え方がない。
 不動産の経済価値を貨幣額をもって表示するという定義にとらわれすぎてはいないだろうかという問題提起と伺ったことである。このことは筆者もかねがね提唱していることであり、一点の価格在り処を追求してゆくということが間違いというものではないし、鑑定評価の需要者からすれば総額:何円、単価何円という記載の無い鑑定評価書に意味を認めることはできないであろう。
 しかし、不動産鑑定評価草創期ならいざしらず、多数の事例を収集かつ評価基礎資料として利活用が可能となった現在においては、採用事例を取捨選択した上で少数のそれらを基礎として価格を試算するという評価行程にこだわり過ぎてはいないだろうとかという、問題提起なのである。
 鑑定評価にコンピュータが導入されて久しいし、多数の事例資料が地価公示等の作業を通じてデジタル化されて久しいのである。それらの利用可能な多数の事例を基礎として分析を行い演算結果として「ある価格ゾーン」を表示するという行為に意味を認められないだろうかということと、筆者は理解しました。
 茫猿流に表現すれば、数十ときには数百を超える利用可能なデータが存在するにもかかわらず、あえて数個のデータに絞り込んで価格試算を行うという行為だけでなく、多数のデータを基礎とする解析を行うことにより、価格ゾーンを探してゆくという手法も併存してよいのではなかろうかということである。端的にいえば特定資料を基礎とする取引事例比較法と併存併用するかたちで多数資料を基礎とする市場資料分析法的な考え方が肯定されないだろうかという問題提起なのである。
 この手法は従来型の鑑定評価と異なり、数値比準手法を開拓する必要があるし、ヘドニック法や多変量解析法などの統計的解析法を駆使しなければならないが、データ並びにツールは既に用意されているのであるから後は利用ノウハウを積み重ねればよいのである。ここで従来型鑑定評価と云うのは、いわばアナログ的鑑定評価とも云うものであり、数値比準を駆使した鑑定評価とは、すなわちデジタル的鑑定評価ともいえるものと考える。詳しくは「このエントリー」などを参照されたい。また『鄙からの発信』には数値比準表などに関わる記事を多数掲載しておりますから関心があれば検索してお読み下さい。塾においてもテーマにする予定です。
 なお、市場資料分析法という表現についていえば、1966年基準当初では「市場資料比較法」という用語が用いられていたのである。

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