公益法人制度改革への疑念

 公益法人制度改革に対する鑑定協会の対応について、様々な機会に様々な方々に質問するとたいがいの場合には次のような回答が返ってくる。「それはもう決まっていることだから、議論を蒸し返さないでほしい。」とか、「現に公益法人である鑑定協会が新公益社団法人資格獲得を目指すのは当然のことである。」と云う類である。


 そこには、過去に決められたという事実や、現在の状態に関する説明はあっても、なぜ目指すのかという説明はないのである。一事不再議といえば聞こえがよいが、実は変化する社会事象の前で事情変更の原則を顧みず思考停止状態に陥っているのではないかという疑念が拭いきれないのである。
 この問題の端緒は、2007年3月20日付け「公益法人制度改革への対応方針について(第一次報告)(鑑定協会企画委員会:公益法人制度改革小委員会)」に求められる。同第一次報告は同日付の鑑定協会理事会において承認されている。これが「決まっていること」の根拠である。
※同報告19頁 Ⅲ公益法人制度改革への鑑定協会の対応方針
1.基本方針 ①本会の対応について
当委員会としては、本会については公益社団法人を目指すべきものであると考えている。 その理由としては、
a)唯一の全国会である本会が各府省や独立行政法人、資格者団体等と対外折衝を行うに際して、一般社団法人よりも公益社団法人の方がより信用力を示せる。
b)地価公示受託事業については、現在のところ公益目的事業のうち、「国土の利用、整備又は保全を目的とする事業」に該当するものとして対応が可能と考えられる。
c)現在の公益法人に適用される「公益法人の設立認可及び指導監督基準」よりは、新制度の法人に対する監督基準の方が緩やかになることが予想される。
(中略)4.鑑定協会活動と公益の認定要件について、①事業項目の分類整理より、
b)本会については、地価公示受託事業が公益目的事業として認められるかがポイントとなる。
c)士協会については、地価調査受託事業及び固定資産評価業務が公益目的事業として認められるかがポイントとなる。
 要するに、「対外的信用力が獲得できる。」という一点で思考停止状態なのである。公益法人制度改革の本旨が何処にあるのかという検証がなく、公益社団法人と一般社団法人の得喪比較もなく、公益認定等委員会のお墨付きがあれば、社会的信用力が得られるという根拠にならない根拠に論拠をおいているのである。これを称して「『時代の変化』への鈍感さ、これまでの慣習や価値観を信じる『迷いのなさ』、社会構造が大きく変化することへの想像力の欠如、『未来は創造し得る』という希望の対極にある現実前提の安定志向。」と云うのである。 それはとりもなおさず、斯界を覆っている変化に対するセンサーの欠如、変化に対応しようとするセンスの無さ、そして変化に積極的に立ち向かおうとするスピリットの喪失ではなかろうかと危惧するのである。なお、「1.①のc)新制度の法人に対する監督基準の方が緩やかになる」とは、希望的観測に過ぎはしないかとも危惧される。
 鑑定評価が変わろうとする時代に、業際分野への進出や対応が急務である時代に、なぜ汲々として金科玉条的に「公益社団法人資格」を得ようとするのか疑問なのである。鑑定協会がどうあるべきなのか、どうありたいのかという議論の帰結として「公益社団法人資格」を得ようとするのであれば、それはよい。本来、社会の信頼というものは、「如何なる事業を、如何様にして行ったか、そして如何なる結果を生じたか」によって、得られるものであろうと考えることからすれば、信用力のために名を得ようとするのは本末転倒ではないのか。
 茫猿はなにも「公益社団法人資格」認定を不要と云うのではない。無批判に資格獲得を前提とする議論の是非を問うているのである。4.c)に記述されるごとく、固定資産評価業務の帰趨が明らかでない現時点において、鑑定協会が公益社団法人を目指すことはとりもなおさず、傘下団体会員に一般社団法人を多く抱えることにもなりかねないのである。公益社団法人資格認定や連合会体制構築という大きな転換点に際してなによりも大事なことは、鑑定協会や士協会は業者団体なのか、士業併存団体なのか、資格者団体なのかという根源論から出発すべきであろうと考える。同時に、鑑定評価及び周辺分野が大きく変わろうとする時代に、鑑定協会や士協会はどのような方向性を持つべきかを考えるべきであろうと云うのである。これを茫猿は戦略論不在と考えるのである。
 社会からその在り様について不信感をもたれたが故に始まった公益法人制度改革である。にも関わらず資格者団体としての自らの在り様を顧みることなく、社会の信用を得るためには公益社団法人認定を目指すなどと云えば、それはブラックジョークなのである。先ずは公益事業の探求であり充実であるべきだろう、その上で公益事業を拡大充実してゆくためには公益社団法人資格が必要であるならばそこを目指せばよいのである。それこそが専門職業家団体としての自律であり自立なのではなかろうか。
 また、無視しがたい業益拡充とか、士業併存の現状を変えがたいが故に、あえて一般社団法人に留まるというのも社会に一石を投じる専門職業家としての姿であろうし、一つの矜持であろうと考えるのである。 【この記事の関連エントリー:「公益法人資格取得は是か非か(08.05.20)」】
※参照資料
「改革の概要」(内閣府公益認定等委員会)
民間非営利部門の活動の健全な発展を促進し、現行の公益法人制度に見られる様々な問題に対応するため、従来の主務官庁による公益法人の設立許可制度を改め、登記のみで法人が設立できる制度を創設するとともに、そのうちの公益目的事業を行うことを主たる目的とする法じr人については、民間有識者による委員会の意見に基づき公益法人に認定する制度を創設しました 。
「公益法人制度改革(Wikipedia)」
公益法人制度改革(こうえきほうじんせいどかいかく)の目的とは、民間非営利部門をして日本の社会経済システムの中でその活動の健全な発展を促進させるために、行政委託型公益法人を含めて民法で定められていた公益法人制度を抜本的に見直すことにある。
すなわち、寄附金税制の抜本的改革を含めて、「民間が担う公共」を支えるための税制の構築を目指すことにある。その前提として法人法制の改革が進められている。
「現在の公益法人制度に対する批判や問題」(inet記事より、及び関連ブログより)
現在の公益法人制度について指摘される批判はつぎのようなものがある。
(1) 公益法人の設立許可基準や公益性の定義が明確でなく、公益性の判断が主務官庁の自由裁量でなされている。
(2) 公益の名の下に税金を免除されながら、公益法人としてもっぱら収益事業に力を入れ、民間ビジネスを阻害(民業圧迫)しているケースもある。
(3) 主務官庁が設立を許可し監督するので、官僚ら公務員が天下る受け皿(官益法人)となり、補助金や助成金が無駄に使われることにもなる。
(4) 行政と深く結びついた行政代行型の公益法人が多く存在し、法令で指定されて特定の事業を独占したり、国家資格試験の実施を独占するなど、民間企業との競争がないまま大きな「特権」を持たされ非効率な経営になりがちである。
(5) 経営の透明性が少なく、不祥事を起こす温床にもなっている。

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