著作権侵害?

 本日の岐阜県士協会決算総会・議案審議終了後における一般質問で「士協会の著作権尊重」に関わる質疑が行われた。この質疑には幾つかの論点が認められるので、この件に関して鄙の堂守の意見を備忘的に記録しておくことにする。


 先ず、質疑の対象となったのは、次の一節である。「今日の不動産の『価値』は、昨日の展開であり、明日を反映するものである。」
この一節は、過ぎる三月の地価公示発表時において士協会が地方紙に掲載した、無料相談会案内広報記事並びに鑑定士名刺広告の一部として載せられたものである。また同様の一節は同士協会サイトのTOPページにも掲載されており、いわば人口に膾炙する名文句である。
 質疑者は、(1)この記事中の引用は「櫛田氏著作:不動産の鑑定評価に関する基本的考察」の無断引用であると云う。(2)同じく、文節中の「価格」を「価値」に置き換えたのは無断改竄であると云うのである。
 鑑定士が不動産に関わる調査結果を文書として交付し対価を得るという立場からすれば、自らの著作権を主張する前に他者の著作権に対して相応の敬意と尊重を図ることは当然である。その意味において、この問題提起は十分な検討に値すると云えるのである。
 この一節の出典は、宅地制度審議会が1964.3.25付にて当時の建設大臣に答申した、第四次「不動産鑑定評価基準の設定に関する答申」のなかの、第一、基本的考察、二、不動産の価格の特徴、(2)に述べられている。 そして、この一節は現行基準(2002.7.3)にも引き継がれており、第1章、第2節(3)に述べられている。
 著作権、或いは著作隣接権の考え方は、いまだ流動的であるが、「鑑定評価基準」に著作権保護が適用されるかと云えば、されないと考えるのが妥当であろうと思われる。鑑定評価基準・基本的考察は故櫛田光男氏が起草した文章であることは斯界の定説であるし、氏の著作によってもその背景が伺える。しかし、今回、話題となったのは鑑定評価基準の一節の引用であり、直ちに著作権侵害とは云えないと考える。
 著作権法第13条は、次の著作物が「この章の規定による権利の目的となることができない。」と規定している。これらの著作物の内容は、国民の権利や義務を形成するものであり、一般国民に対して広く周知されるべきものであるため、著作権による保護対象とすることは妥当でないと考えられるからである。次の著作物とは一.憲法その他の法令、二.国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの、三.裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの等と列挙する。不動産鑑定評価基準はそれらの範疇に入るものと解しても、不当ではないと鄙の堂守は考えるのである。
 また、「価格」を「価値」と置き換えたことに関しては、様々な意見があるであろうと推量できるものである。しかし、基準においても前掲の一節の前に「不動産の経済価値は、一般に、交換の対価である価格として表示される。」と記述するものである。とすれば「価格の変動過程」すなわち「価値の変動過程」と読み解いてもあながち間違いとはいえないと考えられるし、不動産の経済価値あるいは社会的価値も含めた上で、より包括的に「価値(すなわち、この社会における不動産のあり処)」と表現したと読めば、それはそれで意味のあることであろうと考えられる。
 ここでは、「不動産の経済的社会的価値並びに交換の対価としての価格は、常に変動の過程にある。」ということを「一般国民に対して広く周知されるべきこととして重視する。」という視点に立てば、新聞紙上において「この一節の広報を行ったこと」は評価されて然るべきと考える。
 老爺心的に云えば、「不動産鑑定評価基準より趣旨引用」とでも注書きすれば、無用の誤解や摩擦を招くことは無かったのかもしれないと云えるのであろうが。

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著作権侵害? への1件のフィードバック

  1. 地方鑑定士 のコメント:

    論語(基準)読みの論語(基準)知らずは、何処にでもいるのですね。
    基準の一字一句に拘るばかりで、基準の本意を解さないのは残念です。

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