情報の非開示または偏在

 取引価格情報悉皆調査における原始データ(不動産取引異動情報:一次データ)の利用に関して、調査担当者(地価公示評価員等)には調査開始以来長く秘匿され非開示とされてきた。 茫猿は当該調査の検討段階からこの一次データの重要性を訴え、その可能な限りの開示を求めてきたものである。 求めてきた経緯については後述するが、最近になってようやくそれら一次データが開示される方向が見えてきたと云う。 しかし、とても残念なことにその開示状況は小出しであり、一般調査担当評価員にとっては従来と変わらない秘匿状態の継続であり、一部に情報が偏在する状況とも云われる。 このような不十分な状況が定着することを憂うものであり、一日も早い全面開示が行われ、鑑定協会における情報の共有と共同利活用の実現を求めるものである。


「ガイドラインと泥縄」(2004年9月 7日) には、こう記しました。
三、土地取引情報(価格のない取引情報)と取引価格情報の差違
 特に、一次情報である土地取引情報の利用価値について、鑑定協会が的確に認識しているとは思えません。 このことは、一次土地情報無しで公示評価を行う危険性を考えれば、理解できることです。 公示標準地隣接地等、向こう三軒両隣の異動を把握せずして、 たとえ、価格は不明であっても、異動成立自体を承知せずに、鑑定評価を行う怖さについて、考えが及ばないとすれば、黙するのみです。
「新スキーム、その杞憂と蜘蛛の糸」 (2006年10月 1日 )には、こう記しました。
(土地異動通知データ・一次データの提供)
 一つは、原点に帰ってというか原理原則的に、地価公示精緻化の為に一次データの提供を求めるという主張であろう。 とにもかくにも一次データの入手が最優先課題であり、事後の照会調査は何とかなるのだし、現に過去も現在も様々な方法で入手した一次データを基礎にして照会調査を行っているのである。法務省並びに国交省に対しては、公示・調査の精緻化には欠くべからざる原資料であると強く要請するということである。
 また公示スキームのなかで新スキーム事例調査を引き受けている鑑定協会の立場としても「霞ヶ関にとって必要な範囲の調査」に止まるのではなく、調査を引き受ける「虎ノ門にとっても必要な範囲の調査」を委託して然るべきと、主張すべきと考えるが如何なものであろうか。
 そうでなくとも、(事後に共同利活用できるとはいえ)、鑑定協会は多額の郵送費と過重ともいえる事例調査等役務を負担しているのであり、決して徒手空拳で新スキーム成果を享受しているわけではないのである。
「不動産鑑定:悉皆調査とREA-NET」 (2008年3月14日 )には、こう記しました。
「悉皆調査データ(一次データ)から何が見えてくるか」
 不動産の今日のあり様は昨日の展開であり、明日を反映するものであるという。地域の辿った過去の経緯を知ることから未来を見通すことも可能だと考える。 例えば調査対象市内の団地群について、取引件数の年次別集計、取引当事者の属性別集計(団地内、市内、県内、県外)等を表計算ソフトのクロス集計機能を利用して行うことには意味があると考える。 またそれらのデータをデジタルマップ上に展開すれば視覚的効果も高いと考える。同様なことは、複数のJR駅周辺地域の時系列的対比や取引当事者属性対比などでも可能であろう。
 さて、以上に記す一次データは、個別の一次情報(原始情報)と個別情報の集合体としての一次データに分けて考えられるものである。 個別の一次情報(不動産登記異動情報)は法務局において一般の閲覧に供されており、個人情報として秘匿の対象とされるものではないが、多量のデータとして管理される状況においては「個人情報保護法の対象となり、守秘義務が課せられる。」ことについて、茫猿に異論はない。 
 この一次データの開示について消極的である理由は、「開示後における目的外利用や漏洩の危険を懸念する。」ことにあると云われる。 しかし、地価公示評価員並びに悉皆調査担当員は二次、三次データの管理及び利活用については高度な守秘義務が課せられているものであり、現に三次~五次データは安全なネットワーク上で管理し利活用されている。 利用に関わる経緯は、利用者名、利用日時、利用した個別データデータ、利用目的等のすべてがログとして記録されているものである。  万が一事故がおきたとしても、その追跡は用意であり、また個々のクライアントPCにデータをストックすることも許されていない。
 つまり、一次データを一般公示評価員に開示することの問題点、すなわち目的外使用や情報漏洩の危険性は認められないのである。 にも関わらず、また一次データが有する評価上の重要性にも関わらず、現在まで一次データは開示されず、秘匿される状況が続いてきたのである。 ところが最近になって、この一次データについて一部関係者に限って開示されるやに聞く。
 本来的に鑑定協会会員や地価公示評価員の共同利活用を旨とすべき重要な情報が一部に偏在することは憂うべきことであり、取引価格情報調査スキームの根幹を揺るがす問題になりかねないと考える。 三次データの共同利活用についても未だ未解決な事柄が多いように思われる段階で、一次データや二次データに言及することは時期尚早という意見が存在するであろうことは、重々承知している。
 しかしながら、会員或いは公示評価員にとって貴重かつ重要な情報宝庫であるとともに、地価公示評価員(悉皆調査担当者)にとっては一種のアドバンテージでもあると考えることができる。 一次~三次データの有効かつ適切な開示並びに利用方法について、速やかに会員のコンセンサスを得ることを求めたいのである。 それは、前号記事「パラダイムを転換しよう」にも記した「情報というモノに対する思考の枠組」を転換することがらであると同時に、一次~三次データの有効な解析方法について衆知を集めることともなると考えるのであるが、如何であろうか。

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