情報は皆のために

最近、相次いで二本のE.mailと一本のお電話を頂きました。 いずれも示唆に富み真剣に地理情報や鑑定評価をお考えになっている方からのE.mail並びにTELです。 この三本のE.mail&TELへの茫猿の返信を掲載することにより、ただ今の茫猿の考えをお伝えすることに致したく存じます。


『X士協会・N.S氏よりのE.mail抜粋』
「情報はみんなのために」
現在私たちは、地価公示事例カードを士協会に提出後約2週間で、会員に地図システムに事例データを統合して送付しています。 これが可能なのは、地価公示評価員が地図システム上にプロットした取引事例の座標データを、事例カードと同時提出してるからです。士協会事務局はその座標データを集計して事例データと関連付けするだけの作業で集計は終わります。
NSDI-PTで今年度予定の運用版に事例の座標集計のコマンドがあると便利です。 直線距離で結構ですので距離計測機能があればなお良いと思います。 また地図はデジタルマップもいいですが、ラスター背景図も大変有用です。 私どもは都市計画図 国道・都道府県道のはいった地図なども背景に利用して大変重宝しています。(以上、抜粋終わり)
『N.S氏へのRES』
「情報はみんなのために」、小生も同様に考えます。
私の不要な情報も、誰かにとっては有益な情報となる。
情報は多く開示する者こそが、多く報われる。
そして、一人は皆のために、皆は一人のために
いつも、このように考えております。
地理情報システムは、スタンドアローンでなくオンラインネットでこそ生きると考えております。岐阜会もMapInfoを用いて、事例位置図を作製しておりますが、オンラインでなくリアルタイムでもございません。過去データをデジタル・マップの上で、一覧表示することもできません。オンラインシステムであることにNSDI-PTの主眼点がございます。
次いで、事例作製の便宜向上も目的です。取り敢えずは、基盤地図の他に都計用途地域図をレイアー保持してオンライン閲覧できるようにするのが目標であり、次いで学区図や設定区分図などもデジタル化(レイヤーとして保持)できればと考えております。
そして、それらの全ては鑑定評価の便宜向上に止まるものではなく、鑑定評価の情報発信能力の向上と、その結果としてプレゼンスの向上につなげたいと考えます。
長文のRESを差し上げ、たいへん失礼を致しました。 今後ともNSDI-PTにご関心とご支援を宜しくお願い申し上げます。
『Y士協会O.M氏へのRES』(頂いたE.mailは文中《》内に抜粋引用)
「財政と長期展望の二律背反」
《学界との共同研究について》
公示価格等や取引事例等を用いた地価評価や価格動向に関する研究は、今や様々な分野で行われていると承知します。 鑑定士はこれらの研究に積極的に参加し、あるいはそれらの研究成果を利用することによって、「鑑定士の練達堪能な職人的技術に支えられた評価」を「より科学的なアプローチ」へと転換してゆくことが可能というよりも、目指すべきと考えます。
もちろんのこと、ヘドニックアプローチやフラクタル分析等が直ちに取引事例比較法に置き換わることはないでしょうが、価格ゾーンの分析、その推移動向分析等、比準価格の背景をより精密に的確に説明するツールとはなり得るであろうと考えます。
《茫猿氏の意図するところは、地価公示を使って敷地細分化の弊害を分析し、この抑制策を取りまとめるような研究を協会がやれなくて、「何の存在ぞ」ということでしょうか?》
抑制策の取り纏めもさることながら、同マニュアルの研究過程で浮かび上がってきた、主観的判断を排除した、より科学的とも見える評価手法に関心を持ちます。
「敷地細分化抑制のための評価指標マニュアル」8頁の記述は、土地価格比準表を1994年以来改訂せずに放置してきた、鑑定業界への警告にも聞こえるのです。
94年以来15年間におけるコンピュータの進歩、取引事例を含む基礎資料の充実とデジタル化の進展にもかかわらず、六次土地価格比準表改訂及び取引事例比較法の抜本的見直しに、鑑定士はその意を用いてこなかったと考えますが如何でしょうか。
《地理空間情報は重要だと思いますが、費用はどうすればよいのでしょう。》
茫猿が地理空間情報システム構築に固執するのは、鑑定協会が社会にアピールするツールや保管データを強力なものにして、そのプレゼンスを大きくしたいからです。 もう一点はこのNSDI-PTを手掛かりとして、有益なビジネスモデルを構築したいからです。
今や、国にも都道府県にも新たな予算措置を求めるのは至難なことであると存じます。会員に負担増を求めても容易に理解されるとは思えません。 都合の良い使われ方がされており、あまり好きな表現ではございませんが、民活であり自助努力であろうと思います。 自らの持てる資産を有効に活用し、適切な事業パートナーを探す努力が必要であろうと考えます。
その際には著作隣接権に関する考え方も無視できないと考えております。 地価公示の仕様書には「事例地等の地理座標値について」、何も記載されてはおりません。 地理座標値の付加は、鑑定協会が独自におこなうことであり、この自助努力の代償は「地理座標値等に関する著作隣接権あるいは二次著作権」にあろうかと考えております。
同時に、社会に有益な情報を如何に社会へ還元してゆくか、そのことが鑑定士のプレゼンスを向上させ、ひいては新スキームを、ディファクト・スタンダードへと転換してゆく重要なツールと考えます。 新スキームをディファクト・スタンダードへと転換することが、ひいては社会の関心を高くし、鑑定協会の選択肢を拡げてゆくと考えます。
ビジネスモデルは鑑定協会単独で構築できるものではないというより、単独で手を付けても成功は覚束ないと考えます。 つまり鑑定協会単独で行えることには財政的にも、人的資源からも限界があると承知します。
であればこそ、鑑定協会が現に保管する資産「年間200万件の取引データ、数十万件の取引価格データ」、そして全国に満遍なく存在する鑑定士群【地価公示評価員並びにその組織】といった既往の資産を、自らのために有効に活用する施策を考えねばならないと思います。
小生の本意は『鄙からの発信』「新スキーム(名)を捨てる時」(09/6/20)に書いております。 重複して改めて多くを申す必要もなく、また鑑定協会役員諸氏もお立場上から慎重なのであり、ことの本質は先刻ご承知のことと存じます。小生は、以上に申し述べました趣旨を旨として、叶うことであれば、いましばらくはNSDI-PTに関わっていたいと思っております。
長文のRESを差し上げ、たいへん失礼を致しました。 今後ともNSDI-PTにご関心とご支援を宜しくお願い申し上げます。
『Z士協会・T.M氏からのお電話』
《茫猿氏は、地価公示事例カード二枚目のデジタル化作製を提唱しているようですが、それでなくとも新スキーム事例調査など過重な負担に苦労している公示評価員に、新たな負担を強いようとするのですか。 そのような考え方は決して受け入れられません。》
小生は公示事例カードの二枚目作製をデジタル化しようと提唱しているのではございません。 それはNSDI-PTに関わる当初からの『鄙からの発信』(NSDI-PT設置提案書)記事その他をご覧頂ければ、お判り頂けることと存じます。 小生は一次データ及び三次データに地理情報(地図座標データ)を加えようと申しているだけです。 jirei.10.TXTデータに座標データを付加すれば、事例資料の三次元的な解析が可能になると提唱するのです。 地形図データについては、地形図を切り張りなどすることなく、A3図面をそのまま、もしくはA4図面に縮小してスキャニング・ファイルすれば十分でしょう。
いわば、事例カード二枚目の廃止というか、その形態転換を目指しているものです。 当然のことですが、座標データと地形図ファイルを保管すれば、事例カード二枚目の作製は容易なことです。 その意味からは「事例カード二枚目のデジタル化作製」とは地理情報導入の一つの方便に過ぎません。
小生は公示評価員の物心両面の負担を大きく軽減し、なおかつ利便性を高めたいと考えているものです。 もちろんのことですが、糊とハサミを使った事例作製から、デジタルマップ上で座標値を取得するという事例作製作業へ転換することは、若干の習熟と変わることへの意欲が必要です。
でも、デジタル転換により得られるものが大きく、その後の利便性も高くなるとご理解頂けるのであれば、変わることを畏れないで頂きたいと願うものです。 今ひとつ見落とされてならないことがございます。 それは地理情報に関わる事柄は、我々が着手しなければ誰かが、多分周辺に存在する関連団体や事業者が手を染めるだろうと云うことです。 取引価格情報に関わる重要事項を第三者に委ねてもよいのかという問いを、小生は常に己に課しております。 他者に米櫃を委ねてもよいのかとは、その意味です。
『追記06.25 20:30』
先に「その意味からは『事例カード二枚目のデジタル化作製』とは地理情報導入の一つの方便に過ぎません。」と記しましたが、いつの間にやら方便が目標のようにすり替えられて誤解を大きくしているように思われます。 別の方からも類似のご指摘も受けましたし、事例カードに関わることは地価公示マターであり、NSDI-PTが言及することではないとのご指摘も頂きました。
尤もなことと思います。誤解を招く方便のことはさておいて、09年度NSDI-PTが事業目標とすべきことを、改めて考えてみたいと思います。
a.悉皆調査一次データも含めて、事例データ(三次データ)に付加する地理情報データ(座標値)を如何にして取得するかを検討する。
※市販ジオコーダーで取得すれば事足りるのか、全域・全種別のデータについて取得できるのか、その精度は十分か?
※調査担当者がデジタル地図に正確にポインティングすることにより、座標値を取得すべきなのか。取得するとして、その方法は。 前者は第三者サイドにおいても実現可能な手法であり、後者は鑑定士のみが採用できる手法であることにも注目する。
b.取得した座標データを用いて、どのような地価分析が可能となるのか。
※単に地図上に事例分布図を描くだけでなく、地価分析に寄与できる有効なツールとなり得るか。 事例データの価格帯毎に、種別毎に、類型毎に、取引時点期間毎に、その分布状況を地図上に描くことは直ぐにでも可能であろうが、その分析に価値を認められるだろうか。
※都計用途図レイヤー、学区図レイヤー、標準地設定区分図レイヤー、ルート検索機能等を用いて、事例データに付属する幾つかの属性データを取得してマクロ的分析を行えるだろうか、その結果にどのような価値が認められるだろうか。
以上、座標値取得方法と座標値を用いた地価分析手法の二点に目標を絞り込んで、実証実験を進めるべきではなかろうかと考えつつあります。 それはとりもなおさず、NSDI-PTに関わる当初提案である『NSDI-PT設置提案書』に、立ち返ることでもあろうと考えます。
「NSDI-PT設置提案:ターゲット・テーマ・社会的プレゼンスの充実」
本来的には国民の共有財産である「取引価格情報:一次データ(所有権移転情報)、二次データ(アンケート回収結果)、三次情報(属性情報を付加した取引価格情報)」について鑑定協会主導のもとに、それらの不動産情報を国民生活に密着した利便性の高い形態で提供してゆく事業の構築を目指すものである。いわば、不動産取引に係わる地理空間情報(NSDI)を、インターネットを通じて社会に還元してゆく事業の構築を目指すものである。
1.どのような不動産情報に社会のニーズが存在するかをリサーチする。(需要の存在調査)
2.社会の需要に応える情報提供方法の実現可能性をリサーチする。(実現性の可否)
3.一連の地理空間情報関連事業が鑑定評価にもたらす効果を具体的に検討する。

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