協会埋蔵金と地価公示

 慢性的な赤字をいわれて久しい鑑定協会の財政状況であるが、鑑定協会の情報開示資料(2008.6.17)によれば平成19年度・正味財産期末残高は5億4千万円とある。 一説ではH20年度末においては6億円とも囁かれている。 公益法人改革計画が進んでゆくにしたがって、この剰余金とも埋蔵金ともいわれる多額の資金をどのように取り扱うか検討が進められているとも聞こえてくる。 (年間会費収入が5億4千万円で、それに匹敵する程度の額だから多額ともいえるし、協会運営の安定を考えればさほどの額でないともいえるのではあるけれど。)


 この剰余金を利用して協会悲願の『鑑定会館』を取得すべしという主張もあるやに聞いている。 自前の鑑定会館を持つことがさほど良くないとも思わないが、不動産の専門家というポジションからすれば「所有から利用(賃貸)へ」という、最近のスローガンとどう折り合いを付けるのか伺って見たい気もするのである。
 折から交替した民主党新政権は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げて、土木建設行政から大きく転換しようとしている時でもある。 鑑定協会が時流に逆行するかに見える資産保有へと舵をきるのが妥当なのか否か、もう少し大きな議論になってもよかろうと思うのである。 この剰余金問題は全国の士協会にも大なり小なり存在するようで、47都道府県士協会が保有する繰越剰余金(埋蔵金)を合算すれば相当な額に成るであろうと思われる。
 
 だから、鑑定協会、全国士協会あわせて進みつつある社団法人改革作業のなかで、如何なる将来設計を描くかは大事な話であろうと思われるが、どうも話が役員構成や選挙制度などに矮小化しているように見えてならないのである。
 鑑定評価制度:不動産鑑定士制度は、損失補償基準要綱と地価公示法と鑑定評価に関する法律の三本柱を軸にして生まれ経過してきたといってよかろう。 またそれらを補完するものとしての地価調査は国土利用計画法施行令を根拠としている。 国土利用計画法はその第一条総則で土地取引の規制に関する措置を述べているのである。
 不動産鑑定評価というものは、最近でこそ証券化とか流動性促進とかデユーデリジェンスとか新しい分野も大きくなっているが、その誕生以来の経緯は公共事業の円滑な推進や適正な地価形成(抑制的側面を持つ)に資するという役割が大きかったし、今もかなりの部分を占めているのは否定できないことであろう。
 そんななかで、新規公共事業(事業用地取得)が大幅に縮減される方向にあり、地価は慢性的下落方向にあり、国及び地方財政の逼迫から地価公示予算も地価調査予算も年々縮減されている。 今後も公示・調査ともに縮減されてゆく傾向は、残念ながら止まらないであろうと予想される。 地価公示法が制定されてから約40年余が経過したのであり、法の目的もその事業のあり方も大きく変わらざるを得ないだろうと考えることに、そんなに違和感はなかろうとも考えるのである。
 何が云いたいのかといえば、『一つの制度創設はその時代の申し子なのであり、時代の変遷と共に変わりゆくことが避けられない』ということである。 地価公示制度や鑑定評価制度がその創設当時に潜在的に、時には大きく顕在的に有していた目的や目標や存在意義といったものは変わってゆくのであり、その渦中にいる当事者すなわち不動産鑑定士は変わりゆくことを所与として、次の時代を切り開いてゆく務めを忘れてはならないということである。
 判りやすくいえば、『いつまでも在ると思うな地価公示』なのである。 地価公示や地価調査が大きく縮減される事態に、常に備えていなければならないのである。 とはいっても不動産が無くなるわけではないから、不動産に係わる専門家の存在は常に社会から求められるであろうし、いいえ常に求められ得る専門家であろうとする努力を怠ってはならないと申したいのである。
 つまり、いたずらに制度や官公需に依存しない不動産鑑定士自らの存在感を確かなものにし、ディファクト・スタンダードの形成確立に日々務めなければ、いつか自らの存在そのものが社会から忘れられてしまう時が来るという《懼れ》に似た緊張感を持っていたいと思うのである。 大胆に誤解を恐れずにいえば、地価公示制度を根幹として維持することは当然であろうが、より直接的に社会や市民に向き合っている固定資産評価事業関連に重心を移してゆくことも忘れてはならないと考える。
 そのことの具体的現れとして、不動産取引悉皆調査(いわゆる新スキーム)の軸足を地価公示作業の一部という位置付けから、不動産鑑定士が自らの為すべき事業として主体的かつ自立的に同調査に取り組むという姿勢の確立が求められているのだと考える。
 現実の傾向はその方向へと向かいつつあるのは事実であろうが、『不動産取引データ』というものが貴重な社会的経済的国民資産であると改めて認識し、不動産鑑定士が如何に取り組むべきなのか、『何を果たし得るのか』と、もう一度自らに問い直す時期ではなかろうかと考える。
 鑑定協会創立五十周年(1965.9.28設立)が近い今の時期、地価公示制度創設後四十年を経過した今の時期、悉皆調査実施三年を経過した今の時期、社団法人改革の行方ともあいまって我々に課せられるものは大きいのではと思うのである。

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