愚痴ばかり並べて傍観していているのも気が引けるが、NSDI-PTについてはあらためて原点を振り返ってみたらと思っています。
原点とは2008/06/21付け鑑定協会に発信した「NSDI・PT設置提案書」のことです。
その冒頭にターゲット・テーマとして「社会的プレゼンスの充実」を掲げ、次のように提唱していました。
NSDI-PTとは、本来的には国民の共有財産である「取引価格情報:一次データ(所有権移転情報)、二次データ(アンケート回収結果)、三次情報(属性情報を付加した取引価格情報)」について鑑定協会主導のもとに、それらの不動産情報を国民生活に密着した利便性の高い形態で提供してゆく事業の構築を目指すものである。
いわば、不動産取引に係わる地理空間情報(NSDI)を、インターネットを通じて社会に還元してゆく事業の構築を目指すものである。
NSDI-PTを巡る一連の記事について、『鄙からの発信』読者からe.Mailをいただきました。
鑑定業界の(資料閲覧問題を指向する)内向き議論が(NSDI-PT進捗の)ネックになっているわけですね。それはとてもよくわかります。
しかしながら、「新スキーム事例作成の重すぎる負担=公示離れ」が進んでいるのも事実であり、当地においても配付地点数の少ない(ひとり当たり一桁の地点数しかない)地価調査だけでも休みたいという鑑定士が出始めている状態です。
一方ではS社さんに代表されるように、安い事例を使い、安い報酬で地方の鑑定士を下請けにして大きな利益を上げる組織もあります。
今年も公示地点数が10%削減されるという予定と聞きます。某地では地価調査廃止の動きもあります。そんな中で、「私事例つくる人、貴方つかう人」といった状況の拡がりは、一次データや三次データを作成・加工する担い手すらいなくなってしまう・・・と思うのですが。
なんとか作成者(新スキーム調査担当者)に調査実費だけでも還元したい、しかし財源がない、というところはいったいどうしたらいいのでしょうか・・・
とても重い問いかけです。茫猿が悉皆調査(いわゆる新スキーム)のこのような実情を知らないわけではありません。調査開始当初から課題になっていることであり、「鑑定士の米櫃(事例資料)=レゾンデートル」にも関わる基本課題であると認識しています。
しかし、茫猿は二兎を追おうとは思いません。NSDI-PTの目的は「不動産取引に係わる地理空間情報システムの構築」にあると思い定めています。鑑定評価に地理空間情報システムを導入し、システムを構築しその先に新しいビジネスモデルを確立する。それなくしては次世代の鑑定評価が存在し得ないとまで考えています。
同時に、このことは可能性を拓く「ツール」の確立にしかすぎません。 「ツール」をどのように駆使してゆくのか、駆使してどのようなビジネスモデルを構築し未来を拓いてゆくのかは、さらに次のステップであろうと考えます。
その際にe.Mail投稿氏が言われる「崩壊の危機に瀕している調査体制の現実」を、どのように解決したらよいのかについて処方箋を持ち合わせてはいません。都市圏域においては地価公示従事者数が会員総数の半分にも満たないという現実も、鑑定業者と鑑定士の利害背反も今に始まったことではありませんし、問題点を指摘されながらも長く放置されてきたことです。また放置してきたことが直面する問題を難しくしてきたとも考えます。
そういった複雑に絡み合う事象の実態をみれば、地価公示と悉皆調査(新スキーム)を単純に連結することにも疑問を感じています。 別の表現をすれば、「地価公示のために新スキーム調査が存在する」のではなく、「不動産市場の透明化、ひいては鑑定評価の精度向上や地位向上のためにこそ」悉皆調査の存在意義があると考えています。
鑑定士集団こそが的確な悉皆調査を実施できる職能集団であり(配分法適用に代表されるように)、的確な悉皆調査の実施とその分析結果の社会還元にこそ鑑定士のレゾンデートルがあるとも考えます。地価公示至上主義を捨てようとか、いつまでもあると思うな地価公示とは、そのような認識に立っての表現です。
『資料を収集し、分析し、その結果を不動産価格に関わる意見として社会に表明してゆく』のが鑑定評価であるという単純な原則に一度立ち返ることにより、資料の収集・分析システムを再構築するという考え方があってもよかろうと考えます。そこでは地価公示も地価調査も相続税評価も固定資産税評価も収集・分析システムの一手段・一局面と置き換えてみることもあり得ると考えます。
制度発足後五十年近くを経過し、様々なものを獲得し裾野を拡げてきた鑑定評価は、その発展と充実の背後には錯綜する集団内部の利害背反という矛盾も抱え込んでいるわけであり、一度原点に立ち還った”事業仕分け”も必要なのだろうと考えます。
この際に、「鑑定評価業は独立自営業ではあるが、個体としては存立し得ない。資料収集という共同作業が不可欠な業務である。」という自明の原点を再認識すべきであろうと考えます。このことを単なる精神論に終わらせることなく「鑑定士集団にビルトインされたシステム」として位置づけることが今こそ求められているのではないだろうかと考えるのです。
この記事がe.Mail氏への答えにもなっていないし、抽象的総論にさえもなっていないという自覚はありますが、「鑑定士の勘違い二つ (1999年3月20日)」と題した記事から、茫猿の基本的な立つ位置は変わっていないつもりです。
※ワンフォーオール・オールフォーワンとナレッジマネージメント
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